24.2 最初の日射病8
「ただ、零型B.I.P.細胞が崩壊すれば、当然、怪人の能力は失うことになる」
「最悪、童貞を失って三週間から四週間程度で、怪人化が解除され、再度注射を打っても、二度と怪人には成れないかもしれん」
「そそっ、そんなに早いんですかっ!? しかも二度と触手怪人には成れないなんてっ!!」
「早いか? 私として妥当な推測のつもりだがな。だいたい考えてみろ、お前は怪人化するのに一週間かかった。なら逆に、一週間で怪人化が解ける可能性だってあるんじゃないか?」
トントン
先生が灰を落とす。
「うっ……確かに……」
「ま、あの細胞の前例はないから、全て推測にすぎん。だから確実なのは[性行為をしなければ問題ない]ということだけだ」
「よって、性行為禁止は、大真面目な命令だ。今、お前が能力を失ったらB.I.P.は非常に困る」
先生はそう言うと、煙草を吸いこんだ。
「……そ、そんなぁ~~……」
くたぁ~~……
思わず脱力してしまう。
(ううぅ、これは男として、大問題だぞぅ……)
「ふうぅぅーー……女生徒とイチャつくのは勝手だが、交際は高校生らしい健全なものに止めておけよ。以上が命令だ。守れ」
先生はそう言って煙草を揉み消すと、立ち上がった。
「……しかし、まさか怪人化した被験者が突然イケメンになってモテだし、私がこんな心配をしないといけなくなるとはなぁ……全く奇妙な話しだな」
カツ・カツ・カツ……
話しつつ、ポットが置いてある台に向かい、インスタントコーヒーを入れ始めた。
「……くっくっくっ、この私が真面目顔で、生徒に不純異性交遊は止めろと言う日が来るとはなぁ。くくっ、養護教諭らしくて、なんとも滑稽じゃないかっ。くっくっくっ……」
コーヒーを入れつつ、肩を揺らして、自嘲気味に笑った。
「僕的には、全然まったく、笑い話じゃないですよぅ~~」
沈んだ声で、先生の背中に突っ込む。
青浜さんにアプローチするのは、性行為が目的では、断じてない。
が、もしも交際となったら、自然とそうなることもあるだろう。
僕だって男だし、好きな人と結ばれたいという気持ちは強い。
「何だ? もう童貞を捨てる算段が、ついているのか?」
カツ・カツ・カツ
先生がコーヒーの入ったマグカップ(B.I.P.のロゴマーク入り)を、二つ持って戻って来た。
「ほれ」
そのまま一つを、僕に差し出す。
「いや、別にまだですけどね……」
カップを受け取りながら、ゴニョる。
「駄目だぞ。最低でも半年……いや、一年は童貞を守ってくれ。私の希望としては、お前には30才過ぎの、立派な童貞になってもらいたい」
先生は再度、椅子に座り直して言う。
「あのぅ、童貞、童貞と言わないで下さい。だいたい、なんで初めから僕を童貞だって、決めつけているんですか?」
まあ、確かに真性の童貞だけどさ。
人から言われると、無性に傷つく。
「ふんっ。この前までキモオタだったんだから、聞かなくても童貞って分かるだろっ」
ずずず……
先生がマグカップに口をつける。
「ふぅ……。それに、ウチの怪人は童貞処女が多いからな、あの極端な細胞の適合者のお前は、注射を打つ前から童貞だと分かっていたよ」
「へ? 多いんですか?」
お仲間が一杯?
怪人は純潔同盟?
「ああ、たぶんイソガニン、ムツゴロン、ヨサノン、それに某女将軍も純潔だな」
「えっ!?」
某女将軍ってまさか……
「さすがに孫までいるスギヤマン将軍は、皮を被ってても童貞ではないだろうがな。ま、あの御老体の戦闘は、ちょっと特殊だからな。元々、怪人能力は関係ないんだ」
ずずず……
「あー、あと、あくまでも予測だが、ピュア・シャイニングも処女だろうな。実は魔法少女が、皆若くして引退するのは、純潔性に関係しているのでは? と昔から考えられているんだ」
「もっとも、敵の稼動システムは謎だから、確証はないがな」
ずずず……
「ピュア・シャイニングも、処女……」
でれんっ
つい昨晩のジェラートショットを思い出して、顔がニヤける。
「うわっ。キモい顔だなっ! 勢い余って、私を襲うなよっ!? 超科学の粋を集めて殺すからなっ!?」
先生が虫けらを見るような、冷たい目で、僕を睨む。
「いやいやっ、間違っても、先生なんて襲いませんよっ! おっかないっ」
全力で否定する。
だって、確かに美人だけど、この人は飛び切りの変人だもの。
「むっ。[なんか]とは、ムカつく言い方だなっ、童貞小僧がっ。まあ、所詮ガキには、この大人の色香は分からないかっ」
先生はそう言って、珍妙に髪をかき上げてみせた。
「はい、サッパリ分かりません」
性格が子供の、アラサーお姉さんの魅力なんて、サッパリです。
「ふんっ。ま、エロいことがしたいなら、昨晩の戦闘のように、ピュア・シャイニングで発散すればいい。向こうもお前にお似合いのガキだ。だから案外、エロいことをし続けたら、ヤツらはショックで引退するかもしれないぞ? くっくっくっ……」
ずずず……
そう笑い、コーヒーを一口、啜った。
「なんだか嫌な勝ち方ですねぇ……」
個人的にはアリだけどね。
ずずず……
僕も釣られて、コーヒーに口をつける。
あれ?
これって、ピュア・シャイニングにエロいことをするお墨付きを、幹部からもらったってこと?
……ラッキー。 戦闘、頑張ろう。
(まあ、ピュア・シャイニングの話は置いておいて、青浜さんと付き合うことになっても、しばらくは、プラトニックな交際を続けよう)
二人とも高校生だし、性行為をするには、まだ早過ぎるだろう。
(……超納得出来ないけどねっ、こんちくしょうっ)
少し残念……いや、かなり残念無念に思いつつも、純愛も全然悪くないと、無理矢理、納得する。
「……まだ高校生だし、性行為とは何だかんだで縁遠いから、心配しなくても大丈夫ですよ? まあ、卒業したら分かりませんが」
先生に、命令を承諾したと伝えた。
「そうか。じゃあ、よろしく頼むぞ、童貞イケメンオタクのAV男優、ジェラート由比里よ」
先生は珍しくホッとした笑顔を浮かべて、まるで乾杯するように、コーヒーカップを掲げた。
「その呼び方は止めて下さいよ。てかそれ、どんな色物AV男優ですか?」
僕は苦笑いをして、苦いコーヒーを啜る……
ずずず……
(……あれ? ……いやいや、待てよ? ……もしかしてコレって、凄く好都合なんじゃないのか?)
コーヒーを啜っていると、ふと閃く。
僕の目的は、怪人として戦うことでは無い。
目的は、青浜さんと付き合うことだ。
怪人として戦うのは、イケメンの維持と、整形代を稼ぐため。
手段であって、目的ではないのだ。
なら、整形代を稼いだのち、青浜さんと結ばれたなら、怪人を続ける必要はない。
体型なら、努力で維持出来る。
なら、危険な怪人家業なんて、目的を達成したら、さっさと足を洗ってしまえばいい。
(つまり、青浜さんと結ばれたら、能力を失って、自然と怪人も辞められるから、一石二鳥になるじゃん)
お世話になったB.I.P.には悪いけど、僕の優先順位は、ハッキリと決まっているのだ。
(あっ、こりゃ良いやっ。全然、悩む必要なんてなかったねっ! 寧ろラッキーだったよっ)
ぐびっ!
気分良く、少し冷めたコーヒーを、飲み干す。
(よしよしっ、マイハニーとの、ムフフでモニュモニュな日々を手に入れるぞっ!! おぉーー!!)
僕は心の中で、桃色生活を決意した。
…………この時、僕は割とこの問題を、ポジティブなものと、軽く捉えていた。
これがのちに、とんでもない大騒動を引き起こすとは、この時は夢にも思っていなかった……
第24章「DT命令発動!!」
終了まで、あと1話
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