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第18.5話 閑話休題 アサとハル その2

「アサ・タカツキ・エヴァーグリーンです。攻撃魔法全般と神聖魔法が使えます。皆さん、よろしくお願いします」


「その双子の妹でハル・タカツキ・エヴァーグリーンですっ。得意なのは剣っ。それと火魔法っ。神聖魔法もちょっとだけ使えるけど、アサほど得意じゃないです。みんなっ、よろしくっ!」


 入学式を終えて教室に移動すると、生徒一人一人の自己紹介となった。

 今年十三歳になる少年少女達の集まりだが、さすがは厳しい入学試験を合格したエリート達。大半が貴族の子弟か豪商の子供だという話だし、ブルーム村の同じ年頃の子達と比べるとずいぶんとしっかりしていて私語なんてまるでない。ちょいちょい小声で話しかけてくる隣のハルが一番騒がしいくらいだ。――まったく面倒臭いやら可愛いやら。

 とはいえ、アサとハルの自己紹介の番が来ると“あれが噂の”だとか“勇者様と聖女様の”だとか教室中から声が漏れた。


「――アサさん、ハルさん。姓がエヴァーグリーンで、タカツキとも名乗っているということは、やっぱりお二人って?」


 と言うわけで本当なら自己紹介を終え教師から連絡事項を聞いたら――そういう時間を学園ではホームルームと呼ぶらしい――、本日は解散のはずなのだが、見事に生徒達に囲まれた。


「うんっ。ボクらのパパは勇者の人で、ママは聖女のリリアーヌ・エヴァーグリーンっ。そしてししょーはローザ・エヴァーグリーンっ!」


「ああっ、やはりお二人が勇者様と聖女様のご息女様でしたのねっ」


「お目に掛かれて光栄ですっ」


「そうだよっ。そしてししょーはローザ・エヴァーグリーンっ!」


「あ、ああっ、戦鬼ローザ様がお二人の先生ですのね」


「うんっ」


 伝説の勇者と彼とのロマンスで知られる聖女と比べるとやはり女戦士は少々受けが悪いらしい。ローザの名に同級生たちの反応はいまいちぱっとしない。


「アサとハルと言うのは、聞き慣れない響きのお名前ですわね? もしかして、勇者様の故国の?」


「うんっ、そうだよ。アサは夜明けって意味で、ハルは芽吹きの季節って意味なんだって」


「やはり勇者様の命名ですのねっ」


「素敵なお名前ですわね!」


「うんっ、アサの名付け親はパパで、ボクの名付け親はパパとししょーなんだっ」


「ししょー? と言いますと、先ほど言っていたローザ・エヴァーグリーン様ですわよね?」


「うんっ。元々パパは男の子ならハル、女の子ならアサって名前を残していったんだって。でも生まれてきたのはボクら双子の女の子だったから、姉のアサはアサで良いとして、妹のボクはどうしようって。そしたらししょーが、ハルで良いんじゃないかって」


「まあっ、それではハルと言うのは本来男の子のための名前でしたのね」


「うんっ。でも可愛い響きだし女の子の名前でも良いんじゃないかって、ししょーが言ってくれて。それでボクはハルになったのっ!」


「ええっと。それはその、良い話、なのでしょうか?」


「うんっ。だってボクはハルって名前をすっごい気に入ってるしっ、ししょーが半分名付け親なのも嬉しいもんっ。まあっ、名前のせいか性格まで男の子みたいになっちゃったんだけどねっ!」


「な、なるほど」


 同級生たちはいささか反応に困った表情。

 初対面の子達にそこまで細かい事情を話す必要はないと思うのだが、このエピソードはハルのお気に入りでブルーム村でも誰かれ構わず語っていたものだ。


「そういえばお二人共、入学試験の会場ではお見かけしなかったような気がしますけれど」


 コホンと咳払いをして同級生の一人が話題を変える。


「ああ、言われてみれば確かに」


「お二人がいらしていたら、絶対噂になってるはずですものね」


「――うんっ、だって僕らはスカウト組だからねっ」


「あっ、ちょっとハルっ――」


「ん? なぁに、アサ?」


 余計な軋轢を生みそうな発言を制止したかったのだが、時すでに遅しと言うやつだった。


「え、……スカウト組?」


「それっていったい?」


「うんっ、スカウトってのは要するに学園にお願いされて試験抜きで入学するってこと」


「試験抜きで?」


「うんっ」


「――それってズルなんじゃありませんの?」


 アサとハルの囲みには加わらず、されど遠巻きに様子を伺っていた同級生が言った。

 如何にも時間もお金も掛かっていそうなクルクルの巻き髪に、小柄な身体を仰け反らせるようにして無理矢理作った見下すような視線。


「もしかして元勇者パーティのコネで入学したってことかしら? それって良くないんじゃありませんの? ねえっ?」


 少女の隣りに付き従うようにしている男の子――こちらは長身だ――が無言でこくこくと頷いた。

 この学園を卒業すれば将来の地位は約束されると言って良い。魔法使いや戦士として高い実力が身に付くのはもちろん、王国軍の幹部候補や魔導協会の役員など就職先も引く手数多で卒業生と言うだけである種の箔となる。だから貴族の子弟は家名を賭けて、平民の子供達は立身出世の手段として、一族全体が協力して試験に臨むケースも多いと言う。そんな学園に試験抜きで入学しただなんて歓迎されるはずがない。

 アサとハルを取り囲んでいた生徒達の好意的な視線にも若干の陰りが見え始める。


「――それは我が校の入試に不正があったと、この私が二人を贔屓して学園に引き入れたと、そう言いたいのかしら?」


「――っ、あなたはっ」


「あ、ダリアおね――、むぐっ」


 また面倒臭いことになりそうなので、ぱっとハルの口を塞いだ。

 教室へ入って来た妙齢の女性は、この学園の創建者であり現学園長。魔導協会副会長。元勇者パーティの“最高の魔法使い”。大魔導師ダリア・シュレッダーその人である。

 先日王都に到着して数年ぶりに対面した時には“学園長じゃなく昔みたいにダリアお姉ちゃんって呼んでくれないといやよ”などと年甲斐もなくごねてくれたが、こうして見るとなかなか威厳がある。


「くっ、――べっ、別にそう断定したわけではありませんわっ。ですがっ、疑われるような行動は慎まれた方が良いのではないでしょうかっ。貴方様は全魔法使いの憧れっ、誰よりも規範となるべき存在なのですからっ!」


 巻き髪の少女は気圧され、しまいにはお付きの少年の陰に隠れるようにしながらも言い返す。――威勢が良いんだか悪いんだか。


「ふむ。アサとハルの試験を免除したのは本当にそんな必要性を感じなかったことと、他の受験生の自信を打ち砕くようなことになっては試験に影響が出かねないと、むしろ配慮したつもりだったのだけれど。……不正合格の疑いか。なるほど、私としたことがそういう視点は欠けていたわね」


「そうですわっ。ご友人のお子様だからこそっ、むしろ厳しくするべきですのよっ! でないと大魔導師ダリアの御高名もっ、勇者パーティの御偉業も汚してしまいかねませんわっ」


 少年の後ろに隠れたまま少女が吠える。――なんだろ、けっこう癖になる性格してるな、あの子。


「正直そんな疑いは本格的に授業が始まればすぐに消し飛ぶだろうけど。……そうね、よしっ。――今からスカウト組による模範試合を見せてあげなさい、アサとハルっ」


「げっ、面倒な」


「えー、楽しそうじゃんっ! やろうよ、アサっ」


 かくして学園初日の放課後、学園長の指示で急遽姉妹対決が催されることとなったのだった。


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