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第17話 お買い物デート再び

「さっ、ローザ、行きましょ」


 ギルドを出てもリリアーヌはローザの腕を抱え込んだままずんずんと進んでいく。


「それにしてもわざわざギルドまで迎えに来るとは思わなかったぜ。確か早く帰ったらって話だったよな?」


 ローザはローザで早く帰るために一人でゴブリンの巣穴に乗り込むなんて真似をしているわけだが、怒られそうなので内緒にしておく。


「それはそうだけど、……だって、一人だと荷物もあるし」


「でもいつもは一人で行ってるんだろ?」


「ほらっ、ローザが来て人も増えたし」


「アサとハルが出てったから、むしろ人は減ってるじゃないか。ハルはあれであたしよりよく食うくらいだしな」


「うくっ、それはっ、そうだけどぉ。……あの子達が家を出てからずっとローザと一緒だったし、家で一人になったら、何だかその」


「あー、寂しくなっちゃいましたか」


「~~~っ。なっ、なによもうっ、私がギルドに行っちゃいけない? 迷惑だったっ?」


「…………いや、それはまあ、あたしも迎えに来てくれてちょっと嬉しかったけどさ」


「そうよねっ」


「――っ」


 ぱあっとリリアーヌの顔が華やいだ。――くっ、何と言う破壊力。


「さあっ、それじゃあ色々と買って帰りましょうっ。せっかく二人で来たんだし、何日分かまとめて買っちゃいたいわね」


 エヴァ―グリーン邸には例によって勇者の妄言を大魔導師ダリアが形にした冷蔵庫と冷凍庫という魔導具がある。ある程度大量に買い込んでも食材を悪くする心配はない。


「あれ、エルの店に行くんじゃねえのか? 道が違うみたいだけど」


「あの店は何でも揃うけど、ちょっとお高めだから。エル君には悪いけど今日は露店の方へ行きましょっ。その方が色々回れて楽しいしっ」


 リリアーヌは掴んだ腕にぎゅっと力を込め、踊るような足取りで目的地へ向かう。


 ――露店街。


 ブルーム村の中心地にある大広場に、いつの頃からか露店が居並び形成されたものだ。特に役場の認可などが必要と言うわけでも無く、農家の爺さん婆さんがその日取れた野菜も売っていればたどたどしい王国語を話す怪しい露天商などもいる。孤児院でも一年に何度か手先の器用な子が作った木彫りだとかお人形、寄進された食材を使った菓子などを売ったりしていた。


「おー、こっちの方に来るのは久しぶりだなぁ」


 露店街自体は今でも立ち寄ることのあるローザだが、野菜や肉――つまり調理しないと食べられない品々――を扱う区画へ足を運ぶことは滅多にない。一方で――


「リリアーヌさまっ、いらっしゃいっ。今日は良い葉物がありますよっ」


「うちの子が今朝産んだばかりの卵はどうですかっ、リリアーヌさまっ。お安くしときますよっ」


「皆さん、ありがとう。今日は連れと来ていますから、まずゆっくり見て回らせてもらいますね」


 さすがは二児の母。リリアーヌはすっかり常連のようだ。ギルドで受付嬢や冒険者達から呼ばれる“聖女様”と違って店員からの呼び掛けには親しみが感じられる。


「え~と、今日の夕飯は、まずはローザのリクエストの豆のなんちゃってパンケーキを作るとして、それだけじゃ寂しいから他にも何か。――ローザ、他に食べたいものはない?」


 露店を見て歩きながらリリアーヌが問う。


「なん――」


 “なんでも良い”と言い掛けて、昨晩の会話を思い出して言葉を呑んだ。


「……あー、え~と、じゃああれは? 細切りにした芋をカリカリになるまで焼いたやつ」


「えー、また孤児院で作ってた料理ぃ? あれは油があんまり使えないから揚げるかわりに焼いてただけで、ほんとはフライにした方が美味しいのよ?」


「いやぁ、懐かしくってさ」


「もっと他にもあるでしょう? ほらっ、ハルが好きなハンバーグとか、ローザもいっつも美味しいって食べてたじゃない? それか、アサの好きなオムライスとか」


「んー、……いやぁ、今日の気分じゃねえかな」


「えー、じゃあ本当になんちゃってパンケーキとお芋焼いたの? もうっ、作り甲斐が無いんだからぁ」


 リリアーヌが不服げに唇を尖らせた。

 確かにリリアーヌが挙げた料理は孤児院時代に作ってくれたものよりも美味しい。ただアサとハルのためにお母さんであるリリアーヌが頑張ってきた結果であって――それを否定するつもりなんて一切ないが――、何となく二人きりのあの家では別のものが食べたかった。


「お芋は家にあるから、あとは――あ、茄子の良いのがあったわね。ローザ意外と好きだし、買っておきましょう。他には――」


 適当に歩き回っていたようで、ある程度の目星は付けていたらしい。リリアーヌに持たされた買い物袋はすぐに埋まっていく。


「おばさま、そちらのリーキをいただけますか?」


「いらっしゃい、リリアーヌさまっ。それにそっちのあんたはローザちゃんじゃあないか。こんなところで珍しい」


「ロっ、ローザちゃん!? ……って、ああ、トムんとこのおばちゃんかぁ」


 ブルームは地元だから当然昔馴染みも少なくない。子供の頃に連れ回していた悪ガキ達の一人、トムの母親だった。

 トムの家はブルームで一番とは言わないまでも二番目か三番目に大きな農地を有する豪農だ。トム自身は跡取りを弟に譲って村で唯一の鍛冶屋に弟子入りしたが、今は独り立ちして村で二件目となる鍛冶屋を営んでいる。


「ローザちゃんが野菜を見に来るだなんて、いったいどうしたわけだい?」


「いや、リリィの買い物の付き添いに」


「へえ、今までそんなことなかったのに珍しいね」


 女性は言うと、実はまだ組んだままだったローザとリリアーヌの腕にちらっと視線を落とす。


「もしかしてローザちゃんとリリアーヌさま、何かあった?」


「いっ、いや、そんなことは――」


「――そうなんです、実はローザにうちに越してきてもらって」


「リリアーヌさまの家に? あー、そういえばアサちゃんハルちゃんはこの春から王都でしたっけ。なるほど、それで二人暮らしを」


「はいっ、同棲を始めたんです」


「ちょっ、リリィっ」


 にこにこ上機嫌かつあっけらかんと言うリリアーヌに、女性はしばし呆然とする。


「はぁー、ほんと、罪作りな子達だねぇ。お子様のいるリリアーヌさまはまだしも、特にローザちゃんの方は」


「あたしが罪作りぃ? いったい何の話だよ、おばちゃん」


「あのね、ローザちゃんがいつまでも独り身でフラフラしてることで、村の若い男連中がどれだけ叶わぬ望みを抱いたものか。それが今度はリリアーヌさまと同棲? いや、同居かい? そうやってまた女同士でつるんで、男達に淡い期待を引きずらせるようなことをして」


 女性は額に手を当て、やれやれとかぶりを振る。


「今からだって遅くないから、責任取ってうちのトムのやつを貰ってやっちゃくれないもんかね」


「はっ、はあっ? あたしがなんであいつと?」


 職業柄トムの店には度々に顔を出すが、確かに結婚どころか浮いた話の一つも聞かないが。


「どうだい? 私が取り仕切るから、一度息子と――」


「――ふふっ、いけませんよ、おばさま。ローザは私と一緒に暮らすんですから。同棲解消の予定はありません」


 リリアーヌがずいと前に出て話を遮る。


「はぁ、リリアーヌさまにそう言われちゃったら、こればっかりは引き下がるしかないねぇ。まあグズグズしてた息子が悪いんだ、仕方がないね」


「さっ、帰りましょ、ローザ。お買い物はもう十分だわ」


「おっ、おうっ」


「あっ、リリアーヌさまっ、リーキはいいのかい――」


 来た時と同様、やや強引に腕を引かれて露店街を後にした。


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