41. 一番大事なのは物じゃなくて、何事もその心意気という話。
41. 一番大事なのは物じゃなくて、何事もその心意気という話。
オレと白石は、そのままショッピングモールでのウィンドウショッピングを楽しんでいた。白石は、雑貨屋やアクセサリーショップ、アパレル店などを覗きながら楽しそうに歩いている。オレはその隣を歩きながら、こいつの興味を引くものはないか、プレゼントになりそうなものはないかと探していた。
しかし、これといった決め手に欠けるものばかりで、時間が過ぎるにつれて焦りが募っていく。結局、これだ!という白石の誕生日プレゼントは見つからず時間だけが過ぎていった。
「白石。なんかごめんな、せっかく誕生日なのに」
ショッピングモールを出て、駅へと向かう帰り道、オレは白石に謝った。せっかく誕生日なのに気にいるプレゼントも買ってやれなかった。そして、こいつを喜ばせるという目的を果たせなかったことがなんだか申し訳なかった。
しかし、白石はオレの言葉を聞くとパッと顔を上げた。
「なんで謝るんですか?先輩はこうやってデートに誘ってくれたじゃないですか!ありがとうございます!今日は楽しかったです!」
白石は心から嬉しそうにそう言った。プレゼントが見つからなかったことなど、全く気にしていない様子だ。それより、オレが「デートに誘ってくれた」こと、そして今日一日を一緒に過ごしたことが何よりも嬉しいのだ、と。その、曇りのない純粋な笑顔を見ていると、なんだかオレの頬が緩むのを感じた。
そういえば、オレから白石を誘ってこうして出掛けたのは初めてだよな。その、白石がくれた言葉と、自分自身のささやかな行動が結びついてじんわりと温かい気持ちになった。
すると、そんなオレの顔を見てか、白石もさらに顔を輝かせて微笑んだ。その笑顔がオレの心臓をまた少しだけ早める。そして自然とオレは白石の手を握っていた。今日の最初の遠慮がちだった手探りの手繋ぎとは違う。ごく自然な衝動のような行動だった。
白石も、一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐにオレの手をぎゅっと握り返してくれた。彼女の手は、柔らかく温かい。繋いだ手から伝わる体温が妙に心地よかった。
「ありがとうございます。……先輩。私、今すごく幸せです。こんなに幸せな誕生日は初めてです。だから……」
白石は、そこで言葉を切り、さらに真剣な表情になった。繋いだ手に少しだけ力がこもる。
「これからも、ずっと一緒にいてくださいね。約束ですよ?」
そう言って、白石は可愛らしい笑顔を見せた。その笑顔を見た時、思わずドキッとした。ずっと一緒にいる。それはこいつがいつも口にする「付き合ってる」という言葉の、さらに先にある、具体的な未来像だろうか。そして、それを「約束」として求めてきているのだろうか。そんなことを考えると、その言葉の重みに少しだけ戸惑う。
繋いだまま、帰り道を歩き始める。夏の夕暮れの柔らかな光が街を包んでいる。白石は、繋いだ手をしっかりと握りただ隣を歩いている。さっきの真剣な表情はどこへ行ったのか、またいつもの楽しそうな雰囲気に戻っている。
しばらく歩いていると、白石が不意に立ち止まった。そして、オレの手を少し引っ張る。
「ん?どうした?何か欲しいものでもあったのか?」
「見てください先輩!この前のペンギンちゃんのグッズですよ!ほら!」
白石が指さす方を見ると、こぢんまりとした雑貨屋がある。店のウィンドウには、ぬいぐるみや、文房具などが並べられている。そして、その中に見覚えのある姿を見つけた。例のゲームセンターで白石が欲しがってオレが苦労して取ってやった、あのペンギンのぬいぐるみだ。お店でも売っているのか。それを見た瞬間、白石の顔がパァッと明るくなった。
「わぁ~っ!やっぱり可愛いですね!ペンギンちゃん!」
白石は、店のウィンドウに張り付くようにして、ペンギンのグッズを眺めている。本当にこいつは、このペンギンが好きなんだな。店内を見るとペンギンのぬいぐるみ以外にも、マグカップやキーホルダー、ノートなど、様々なペンギングッズが置いてある。
「なぁ白石。そのペンギンのマグカップなんか良さそうじゃないか?なぜか知らないがお前専用のコップがオレの家にあるし、普段使いできそうだし。どうだ?」
オレは、雑貨屋のウィンドウに飾ってあった、ペンギンのマグカップを指差した。白石の部屋には専用のコップがない代わりに、オレの部屋にはなぜか白石専用のコップがある。あの時のジュースのやり取りを思い出した。そして、白石が「普段使いできるもの」を欲しがっていたことも。これなら、条件にぴったり合う。
「確かに、これなら使えますね…… うぅーん。 でも、キャラクター物なのでマグカップなのに少し高いですけど……?」
「普段から贅沢してないオレなら別にそのくらいの値段、問題ないだろ。 それに、白石の誕生日プレゼントだから……な、遠慮するな」
「えぇ!?本当に良いんですか?本当にもらってもいいんですか?ありがとうございます先輩!私、大切にしますから!」
白石は心から嬉しそうな顔をした。そして、何度もお礼を言いながらマグカップを指差す。その満面の笑顔を見ていると、オレの心にも自然と笑みがこぼれた。
オレたちは雑貨屋に入り、ペンギンのマグカップを購入した。包んでもらった小さな紙袋を手に再び歩き出す。
あぁ……本当にこいつは普段ウザいけど、こんなに喜んでくれるなら、今日誘ってこうして一緒にプレゼントを選んで良かったな。
そして、白石が今日の誕生日を心から楽しんでくれたこと。それがオレにとって一番の収穫だった。夕暮れの帰り道を手を繋いで歩く。この誕生日という特別な一日が、オレと白石の関係性を、また少しだけ変えたのかもしれない。その、変化の兆しを繋いだ手の温かさの中に感じながら、オレは家路についた。




