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第93話 VS ボリス・ラドゥ& ザハリア・スターク 後編

『ミサイルが来ます! シド、フレア射出!』

「了解っ」


 シドたちの左斜め後方、距離を取ってこちらを追跡するザハリア機よりミサイルが発射される。

 コクピットに鳴り響くミサイルアラート。

 ロナの指示によりフレアが射出されるとミサイルはそれに誘導されたが、今度は天頂方角のボリス機からリニアカノンが、ザハリア機から速射砲が連射される。


『回避します! シド、目を回さないでくださいよ!』


 ロナはブースターの出力を上昇。向きを細かく変え、変則的な機動でこれをかわす。

 コクピットから見える光景はひどいものだ。

 小刻みのローリングで目まぐるしく上下が入れ替わり、操縦桿が荒れ狂うように動いているので、計器もメチャクチャ。

 いま自分が宙返りしているのかバレルロールをしているのか、はたまたコブラ機動でもしているのかシドにはさっぱりである。


「くそっ……やっぱりわけが分からなくなる!」


 相手が2機しかいないので敵軍の中に飛び込んだ開戦直後の乱戦時よりはだいぶマシだが、やはりシドの処理能力を超える機動に頭が混乱する。

 他に一つ違う点があるとすれば、ロナが反撃に転じられないというところであろう。

 ボリスとザハリアは阿吽の呼吸で互いの隙をカバーし合い、絶え間なく攻撃を続けることで、こちらにターンを渡そうとしない。

 防戦一方を強いられ、ロナも少々苦い顔(顔は無いが)だ。


『連携に隙がありませんね。かつて名を馳せた名コンビというのは伊達ではありませんか』

「ロナ、どうする?」


 目の前をビームが横切った。ロナが急減速していなければ命中していただろう。そしてまたすぐローリングで背後からの射撃を回避する。

 万華鏡を覗いている時のようにチカチカクルクルする視界から目を逸らし、シドは右手のバングル型PCに目を落として尋ねると、彼女は面白くなさそうにこう答えた。


『あの仔馬の真似をするのは癪ですが、デブリ帯に入って射線を切り、距離を稼いで仕切り直しをします』

「敵もついてくるんじゃ?」

『ついてくるなら結構! 振り切るだけです!』


 ブースターを吹かして加速し、エールダイヤは弧を描くような機動で、軍艦や機動ロボの残骸で構成されたデブリ帯へと突入する。


「よしっ、上手く入れた!」


 シドの安堵の声。

 漂う障害物は多いが、それは盾が多いということでもある。

 ロナはその隙間を縫うように進んで行く。

 (アルフレッド)に利用された時はひたすら鬱陶しかったが、こちらが利用するなら頼りになる地形だ。


「敵は?」

『ザハリア・スタークはデブリ帯に入らず現在の距離を維持。ですがボリス・ラドゥが追いかけてきました。デブリを蹴散らしながら近づいてきます』

「……蹴散らして?」


 シドの頭に浮かんだ疑問符を察してか、ロナが背後の様子をモニターに表示してくれる。

 そこには背中のバーニアを全開にし、散らばるデブリを両腕で力任せに払い除けながら真っ直ぐにこちらに向かってくるゴリアテの姿が映っていた。

 思わずシドの口から「うげっ」という声が漏れた。


「強引すぎるだろっ!」


 そこそこの大きさのデブリは邪魔だと腕の一振りで弾き飛ばし、時には図太い剛脚で蹴り砕く。細かい破片など気にもせずに突っ切る。

 装甲とパワーに優れたゴリアテにしか不可能な突破方法だ。

 シドの言う通り強引だが、効率は意外といい。距離も徐々に縮まっていて、その内追いつかれそうである。

 この状況はマズイと思ったのか、スピーカーからロナの鋭い声が聞こえてきた。


『シド、予定を変更し、ここでボリス・ラドゥを撃墜します。多少危ない橋を渡りますがいいですね?』

「ちょっ、それ多少じゃ済まないやつ――」

『失礼、私とアナタは一蓮托生。火の中も水の中もいつも一緒にでしたね』

「おいっ、勝手に話を進めて勝手に納得すんなっ!」

『では行きますっ!』

「了承を得る時間が無いならそう言えコラァァァッ!」


 シドの叫びを聞き流し、ロナはエールダイヤを前方にある巨大な残骸――先程彼女たちが撃沈した戦艦の内部に飛び込ませる。

 開きっぱなしになっていた艦載機の射出カタパルト。そこから中に入ったエールダイヤは機体格納庫へ到達。

 そこで急ブレーキをかけて減速しながら方向転換。機首を壁の方へと向けた。

 当然戦艦内部はグチャグチャだ。

 あらゆる部品やら何やらが浮いている中を飛んでいる。

 それでも通路が途中で潰れていなかったのが幸いし、細かい傷こそ付いたものの、ここまで目立ったダメージもなく来れた。

 ロナが照準マークを壁の一点に当て指示を飛ばした。


『シド、ビームランチャー最大出力! 続けてミサイル発射です!』

「おうっ!」


 正直シドはロナが何を狙っているか理解していない。だが、それは彼がトリガーを引かない理由にはならない。

 彼女を信じ、シドは言われた通りにランチャーを発射した。

 広くない格納庫の中で軽巡洋艦の主砲に匹敵するビーム砲が放たれる。

 凄まじい光量とともに壁にぶち当たったその一撃は、一枚、また一枚と隔壁を貫通していき、その向こうへ。

 そして最後の隔壁、つまり戦艦の外装を内部から貫いたビームは、ちょうどその時に戦艦を横切ろうとしていたゴリアテに命中した。

 デブリを蹴散らしながら前進していたゴリアテだが、流石のこの機体でも戦艦はどうにもならない。

 なので、シドたちを追うべく側面に沿って移動していたら、突如戦艦内部から攻撃を受けたというわけだ。

 デブリに邪魔されてレーダーの判別が難しかったのも作用し、完全な奇襲になる。

 もちろん、隔壁を何枚か貫いたあとのビームではゴリアテのバリアを突破できない。しかし、戦艦にぽっかり空いた穴から続けて飛び出てくるのは多数のマイクロミサイルだ。

 予想すらしていなかったこの不意打ちを、ボリスはまともに受けてしまう。

 頭部カメラ、右腕リニアカノン砲、左腕二連装ビームガン全て破損。大ダメージだ。

 そこへ2発目のビームランチャーが到来。さらに穴を広げゴリアテのバリアに命中する。


『シド、トドメを差します! 突っ込みますよ!』


 ロナが吠え、スロットルレバーがギュンと動く。

 エールダイヤはブーストを燃やし、猛スピードで広げた穴から宇宙(そと)へ。

 次弾のチャージを完了したビームランチャーの照準がピタリとゴリアテのコクピットにロックされた。


『シドっ!』

「まかせろっ!」


 シドの指がトリガーを引き、ビームが発射される。

 狙い過たず、光弾はゴリアテのコクピットへ。

 ぶ厚い装甲も、ミサイルをくらった後にこの直撃は耐えられない。

 この一撃により、ボリス・ラドゥの命は絶たれた。


 ◇◇◇


「ボリスっ!!」


 ザハリアは相方の死を目の当たりにし、愛機のコクピット内で叫び声を上げた。

 望遠カメラで捉えたのは自機の前方斜め右下約5キロメートル地点、ゴリアテのコクピットにビームランチャーが直撃する光景である。

 自身の機体にも搭載されているこの武器の威力はよく知っている。あれではまず助からないと否応なしに理解してしまった。

 だが同時に彼の脳裏にある確信がよぎる。


(あのボリスがタダでやられるわけがねえ!)


 それは長年肩を並べて戦ってきたが故の信頼だ。

 例え死してもあの男なら必ず一矢報いろうとするはず。そうザハリアは考え、機能停止寸前のゴリアテを凝視する。

 ――その確信は当たっていた。

 コクピットを潰されているはずのゴリアテがバーニアを全開にし、前進しながら半壊した右腕を振り上げてシドたちのエールダイヤに殴りかかったのだ。


(信じていたぞ、ボリス!)


 ブルリと身体を振るわせるザハリア。

 きっとボリスはやられる寸前に機体を操作していたのだろう。

 執念を感じる一撃である。

 しかし相手は「シド・ワークス」だ。この執念の一撃も難なく回避するだろう。


(だが、その時が勝負だ!)


 時間にすれば1秒もない。文字通り瞬きの間にザハリアは思考する。


(エールダイヤの限界は俺が一番知っている。機体をよく見ろ。あのパンチを完璧に回避できるのはゴリアテの上を乗り越える機動だけ。そこを狙い撃つ。避けれない。確実に命中する!)


 理屈より先に長年戦場を戦い抜いた身体が動く。

 スラスターを噴射して姿勢を調整。最短の動作でビームランチャーの照準を予想移動地点へ。

 数秒後にトリガーを引く。

 斜め上からの狙撃に、エールダイヤの装甲では耐えられず爆散するだろう。

 こちらの……自分たちコンビの勝利だ。


(ボリス、お前の置き土産は無駄に――この音はっ!?)


 心の中で相棒への感謝を告げたその時、コクピットにけたたましい警告音が鳴り響いた。

 ミサイルアラートである。

 ボリスへの無茶な奇襲をこなしつつ、ミサイルをロックオンできる精度でザハリアの位置を把握することなどロナには容易い。

 だが、ザハリアに同じことが可能かと言われるとそれは無理である。とてもではないがそこまで手が回らないし、頭が追いつかない。

 だからこそ「自分が攻撃を受ける」という選択肢を無意識で除外してしまっていたのだ。


「ロックされた! なんて野郎だ、こっちの位置をしっかり把握してたってのか!」


 音を認識した次の瞬間にはもう2発のミサイルが発射されている。

 ザハリアは、それこそ長年の経験で反射的に回避運動に入ろうとしてしまった。


(避け――馬鹿野郎っ! 撃たなきゃいけねえんだろうが! ……クソッ、手が動かねえっ!)


 身体に染み付いた本能を理性で抑えようとした結果、ザハリアの手は硬直。

 “何もしない”という考えうる限りで最悪の行動をしてしまった。


「ぐわぁっ!」


 ミサイルは2発とも着弾。衝撃で機体が大きく揺れる。

 ザハリアはヒビ割れたモニターに、こちらに速射砲を向けるエールダイヤの姿を見た。

 機体は既に半壊状態。ブースターもイカれていて、いくら操縦桿を動かそうとも反応せず、どうあっても回避はできない。

 スローモーションになる視界の中で、ザハリアは弾丸が放たれたのを認識した。


「――やるじゃねえか。俺らの完敗だぜ。……なぁ、ボリス?」


 最期にヘッと笑い、ザハリアはその命を散らせるのだった。

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