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第92話 VS ボリス・ラドゥ& ザハリア・スターク 前編

 ヒーステン伯爵家の元ツートップ騎士だと名乗る老人らから宣戦布告を言い渡されたあとすぐ、そのうちの片方、ボリス・ラドゥが操る機動ロボ「ゴリアテ」は、開戦の合図だとばかりにリニアカノン砲の一撃を放ってきた。


『180mmリニアカノン砲直撃コース。回避します』


 エールダイヤは機体を90度ロール。ブースターを方向転換させ、横滑りするように回避運動を行う。

 音速の何十倍、人の目では到底追えないほどの速度で飛来する砲弾をロナは余裕をもって回避した。


「さっそく撃ってきやがった!」


 コクピットの中、凄まじい破壊力をまとって通り過ぎた砲弾にヒヤリとしたものを覚えたシドが叫ぶ。

 宇宙だというのに空気の振動がビリビリと伝わってきそうな迫力だ。

 ゴリアテのリニアカノン砲には戦艦の砲撃並みの威力がある。エールダイヤなど、かすった衝撃だけで木っ端微塵になってしまうだろう。

 頭をよぎった嫌な想像に思わずブルリと体を震わせたシドに、ロナが気を引き締めるようにと警告してきた。


『シド、気を引き締めてください! 仔馬のような未熟者とは一線を画すこの威圧感……あの二人、油断できません!』


 ひどく真剣な声色だ。いつもの注意喚起ではない気がする。

 シドの目線が彼女の本体がある右手に向いた。


「ロナ……?」


 どれほどの数の敵機に囲まれても余裕たっぷりな、いつもの彼女の様子とは違う。

 警戒心ないしは危機感のようなものを強く感じているようだ。


『……彼らの目から強い意志の力を感じました。老人だからといって決して侮れる相手ではありません』

「強い意志の力?」


 シドは聞き返す。


『心の力と言い換えてもいいでしょう。決して折れず逃げないと決意したあの目……私たちチルドレンに打ち勝ったのは、いつもあのような目した人間(ヒューマン)たちでした』


 250年前にあった人機大戦。ロナに言わせれば、あの二人はその時に全人類の存亡をかけて戦った兵士たちと同じ目をしているのだという。

 緊張でシドの喉がゴクリと鳴る。


『シド、本気でいきます。相手の気迫に呑まれないでください』

「……わかった!」


 シドは操縦桿を握り直し、呼吸を整える。


(気迫に呑まれるなって言ったって、俺がやることは一つなんだ。他は全部ロナに任せればいい。ロナの声だけ聞いて、相手の事なんか気にする必要なんてねえ!)


 彼のやることはただ一つ。ロナの指示に従い武装のトリガーを引くことだけ。相手が何者であろうともそれは変わらない。

 彼はそれに全神経を集中させることにした。

 一意専心――それもまた戦いに於いて一つの正解である。

 一方ロナは、高速で計算を巡らしながら、心中でシドに語った“意志の力”とこの戦いの趨勢について思いを馳せていた。


(そう、意志の力……それが人間(ヒューマン)の、そして我々チルドレン(心ある機械)の持つ可能性……。「――」から心が生じ、心の向く方向が意志となる。そして意志を貫かんとする想いが力となり、どのような不可能をも覆す(きざし)となる。……この戦い、相手の意志を上回った方が勝者となりますね)


 ゴリアテは次弾を撃つべくリニアカノン砲を構え直し、黒いエールダイヤはブーストで加速してこちらの左側に回り込もうと動き出した。

 ロナもカカシのように棒立ちになって撃たれる気はない。機体を捻りながら宙返りさせ、敵の足元に潜り込むべくハイスピードで急降下する。

 ここに今、シドとロナにとってメイヌース会戦最後となる勝負が始まったのである。

 

 ◇◇◇


 高速で飛ぶシドたちのエールダイヤに対し、ゴリアテはその場から移動することなくリニアカノン砲を撃ち続ける。

 2発3発と眩い発光と共に放たれる弾丸。

 剛腕で砲身を掴み、腰で抱えるような体勢で狙いをつける様は、長大なランスを腰だめに構える重戦士の姿のようにも見える。

 ロナは次々と迫り来る弾丸を操縦桿を小刻みに動かすことでひらりひらりと回避した。


『さすがに狙いは正確ですね……ですがそのような単調な射撃など当たってたまるものですか。シド、反撃です。ミサイル発射』

「おうっ!」


 ロナの指示に、シドは間髪入れずマイクロミサイルポッドの発射ボタンを押し込む。

 機体の左肩部から順次飛び出す8発のミサイル。半分はゴリアテへ。

 そしてもう半分はこちらに向けて速射砲を放とうとしていた黒いエールダイヤへと向かう。

 黒いエールダイヤは攻撃を急遽中止。ビーム機銃をばら撒き運良く2発のミサイルを処理すると、フレアを射出しながら回避運動に入った。


(あちらは対処されましたね。あの運動性能……こちらのエールダイヤと同様、エンジンやジェネレータを交換していますね。埃を被った骨董品を引っ張り出したわけではないということですか)


 ロナはカメラから得た情報を即座に分析する。

 ザハリアの乗るエールダイヤは、シドたちの機体と同じく内部のパーツをレストモッドしており、性能としてはほぼ同等。ザハリア機の方が高品質なパーツを積んでいる分、やや上といったところだ。

 おそらく元エースパイロットであるザハリアの私物であろう追加武装パックも同じもの。大型ブースターに加え、ビームランチャーや速射砲、マイクロミサイルポッドを装備している。

 両機の違いはカラーリングと細かい傷が有るか無いかの差しかなかった。


(そしてこちらは――)


 ロナはもう片方、機動ロボ「ゴリアテ」にも意識を向ける。

 ゴリアテは推進剤を燃焼させ真っ直ぐに向かってくるミサイルに対し、左手の巨大な二連装ビームガンを構えた。

 手元で何かスイッチを切り替えような操作をし、ただちに発射。

 2本のビームが射出されるかと思われた銃口からは、細かい粒子状のビームが前方広範囲に放射された。


「拡散ビーム砲だったのか!?」

『ストレートと拡散の使い分けが可能なビームガンです。散水ホースと同じですよ』


 驚くシドに、ロナが解説を入れる。

 飛び出たビームはミサイルに命中し、4発中3発を撃墜する。

 残る1発は幸運にも他のミサイルが盾になったのでビームの雨に当たらなかったのだ。

 弾幕を抜けたミサイルは目の前へ。

 命中する直前、どうあっても避けれなそうなそれを、ゴリアテは左脚を振り上げて蹴り潰した。


「はあっ!? 蹴ったぁ!?」


 思いもよらぬ対処行動にシドが素っ頓狂な声を上げる。

 当然巻き起こる爆発。

 脚の一本は吹き飛ばせたかと思いきや、炎が収まったその先にはちょっとだけ脚の装甲が凹んで煤けただけのゴリアテの姿が。

 どうやらマイクロミサイル1発程度では殆どノーダメージみたいである。


『効果は軽微のようですね。ですが本命はこちらです。シド、ビームランチャー最大出力で発射!』

「――っ、了解っ!」


 ミサイルの爆炎を目眩しに銃口を向け、ロナはゴリアテの姿を再確認すると同時にシドへとランチャーの発射を指示。

 ゴリアテの行動に驚いているようでしっかりと耳に意識を集中させていたシドは即座にトリガーを引き、エールダイヤから高威力のビームが発射される。

 しかし、ゴリアテはこれを読んでいた。

 リニアカノン砲から右手を離したゴリアテは、その手で近くを浮遊していた20メートルほどの大きさがある戦艦の一部らしき残骸を掴む。

 そして背部のバーニアを全開で吹かし、左脚を蹴り上げた不恰好な姿勢から無理矢理ボディを捻り、盾となるようにそれをぶん投げたのだ。


『くっ……』


 スピーカーから悔しそうなロナの声が聞こえる。

 残骸パーツに命中したビームランチャーはそれを高熱で焼き切り貫通。背後のゴリアテへと着弾した。

 だが効果はゼロのようなものである。


「ビームバリア! こいつも持ってんのかっ!」


 シドが目を丸くして言ったように、ゴリアテはアルフレッドのエメロードと同じくビームバリアを搭載していたのだ。

 いくら大型のビームランチャーとはいえ、それなりに厚みのある壁を挟まれてしまえば威力は激減。バリアで散らされてしまう程度のパワーしか残っていない。

 戦闘経験豊富なボリスはそれを狙って残骸を投げたのである。


『やはりバリアが搭載されていましたか。装甲値も傭兵ギルドのデータベースで閲覧した機体情報にあるように、多少の武装ではダメージが通りませんね』


 ゴリアテはボリスの専用機で一般には詳細な機体情報は公開されていないが、国内外の軍事兵器のデータを収集している傭兵ギルドには情報があり、当然ロナはその全てを閲覧済みだ。


『あちらのエールダイヤも動きがいい。これは予想以上に骨が折れそうです』


 スピーカーから聞こえてきたロナの声にはどこか強敵との出会いを喜んでいるような響きがあった。

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