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第89話 VS アルフレッド・スカイ 2戦目

『他の小隊機は距離をとりましたね。向かってくるのはエメロード改の一機のみ……一対一のつもりでしょうか?』


 5機編成でされているスカイ小隊だが、アルフレッド機を残して他の機体は針路を変え、遠巻きから戦場を伺える距離に落ち着く。

 周囲の伯爵軍はあらかたシドとロナによって片付けられており、大小のデブリとなって漂うばかり。

 邪魔をするものはなく、戦場のど真ん中でありながら図らずともタイマンのような形となっていた。


『シド、速射砲連射! 今回はこちらが先手を取ります!』

「おうっ!」


 先制攻撃を仕掛けたのはエールダイヤだ。

 照準マークがアルフレッド・スカイのエメロード改を捉えたのと同時にロナが鋭い声で指示を飛ばしてきた。

 距離はまだ遠いが構うことはない。

 シドは言われたままに速射砲の発射トリガーを何度も引く。

 バシュンバシュンと作動音を立てて放たれた弾丸は高速で宇宙を切り裂いてターゲットの元へ。

 並のパイロットであればこれで片が付くのであるが――


『くっ……全弾回避しましたか。小癪な……』


 エメロード改は、来るのがわかっていたとばかりに弾丸へと即座に反応。緩急をつけた動きと、破損した翼で行った強引なローリングで全ての弾丸を回避してのけた。

 さらにはお返しとばかりに2発ミサイルを放ってきてまでいる。

 これを全て一瞬で行ったのだから凄まじい操縦技術だ。


『迎撃します!』


 照準がエメロード改からミサイルへ切り替わる。

 連射中の速射砲がミサイルを撃ち落とし、爆発が巻き起こった。


「エメロードは……くそっ、戦艦の影に隠れたぞ! 射線が切れた!」

『シド、射撃中止です!』


 シドの視界の端、ミサイルの爆発の後ろでエメロード改が戦艦の背後に隠れる姿が見えた。

 戦艦と言っても動いてはいない。先程シドたちが撃沈した内の一隻で、宇宙を漂う残骸と化していたものだ。

 戦力にはもうならないが、まだ遮蔽物としては使えるとの判断だろう。

 事実、いくら大口径であっても速射砲では戦艦の装甲は貫通できない。

 上手いこと射線を遮られてしまった。


『成長したと自惚れるだけはありますね……白馬コロニーで戦った時よりも明らかに技量が向上しています』


 忌々しそうな声がスピーカーから聞こえてくると同時、戦艦の背後からエメロード改が飛び出してくる。

 シドたちから見て左方向。こちらとの距離を一定に保つような機動だ。

 距離は離れているが、特徴的な純白に赤いラインの機影は間違えようがない。


『シドっ!』

「ッ!」


 名前を呼ぶ声に反応し、シドは速射砲のトリガーを引く。

 放たれる弾丸。照準はピタリとコクピットに合っている。

 ロナの反応速度は人間のそれを遥かに凌駕している。

 エメロード改の先端がほんの数ミリでも戦艦の陰から見えた瞬間にはもう認識しているのだ。

 そこからシドに指示を出し、即発射。ほぼ最速の射撃である。

 アルフレッドからすれば、飛び出してこちらを確認した時には目の前に弾が迫っていることだろう。


(当たるっ!)


 シドはこの射撃に手応えを感じていたが、スピーカーからは期待とは裏腹にロナの『ちぃっ、これも避けますか!』という声が聞こえてきた。


「なっ!?」


 飛んでくる弾丸を、エメロード改は機首を急激に下げることで回避していた。

 見てからできる動きではない。明らかに“出た瞬間に撃たれる”と予想し、最初から狙っていた動きだ。

 王国一のパイロットである“シド・ワークス”ならそれをしてくると確信していたのだろう。

 シドが次弾を放つより早く、アルフレッドの反撃がきた。

 エメロード改の主翼下部に取り付けられた大型ガトリング砲がこちらに向けて火を吹いてきたのだ。


『回避します』


 迫り来る無数の弾丸。

 ロナはブースターを操作し、機体をななめ上方向へスライドさせるような機動でそれを回避する。

 追加された大型ブースターはある程度フレキシブルに噴出する向きを動かすことができ、これまでよりも自在な飛行を可能にしている。

 なのでこのような回避もできるというわけだ。


「また戦艦の陰に隠れたぞ!」

『デブリの多い場所に入り込みましたか! 手間を取らせますね!』


 アルフレッド機は再び友軍艦の裏へ。

 しかもその辺りには他にも多くの残骸が散らばっている。エールダイヤからは射線が通りづらい場所だ。

 エメロード改はそこから飛び出しながら、狙いもそこそこにガトリングを乱射。反撃が来る前に次の遮蔽物の後ろに入る動きを繰り返している。


「障害物もお構いなしかよっ!」

『「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」と言いたいわけですか! その通りなのが腹立たしいですね! 3発命中コース。回避します!』


 めくら撃ちなのでデブリに当たったりと命中精度は低いが、厄介な攻撃だ。

 エールダイヤの防御力は低い。1発当たるだけでも大ダメージなので、きっちり避けなければならないのだ。


「ロナ、反撃はっ!?」

『こちらからでは確実に命中させられるコースが少ないのに加え、向こうの勘が恐ろしく冴えています。離れたこの位置からでは、撃つだけ無駄でしょう』


 ロナも速射砲やビームランチャーで反撃を試みようとするが、自分たちが倒した戦闘機や機動ロボの破片に遮られ、上手く撃ち込めない。

 エメロード改にはビームバリアも搭載されている。機銃程度では無意味。ビームランチャーも直撃させなければ有効打とはならないだろう。

 アルフレッドは地形を利用し、巧みな立ち回りをみせていた。


「クソッ、出てきたと思えばすぐに隠れやがって! ああもう、もどかしいなっ!」

『シド、開けた場所にいては的にしかなりません。私たちも飛び込みますよ!』

「わかった!」


 このままでは埒があかないと、ロナはエメロード改を追いかけるようにデブリ群の中へ。

 高速で軍艦の脇を通り抜けながらロナは状況を分析する。


『おそらく敵機はワープを使えませんね』

「そうなのか?」

『カメラ映像を解析しましたが、ワープ装置がある部分に被弾した痕跡を見つけました。まず間違いなく壊れています』


 ロナは望遠カメラの画像からエメロード改の受けているダメージを推測し、ワープが使用できなくなっていることを見抜いた。

 それだけではない。ブースターの出力が落ちていることもお見通しだ。


『スピードも遅い。ブースターにも不具合が起きているようです。大型ブースターを装備した今のこの子(エールダイヤ)なら余裕で追いつけます!』


 その力強い宣言と共に、ロナはスピードをさらに上げた。

 グンッと加速するエールダイヤ。

 細かいデブリが多いということは精密な操縦が求められるということ。そしてそれはAIであるロナの得意分野だ。

 こうなればアルフレッドに勝ち目はない。

 姿勢制御用のスラスターを巧みに駆使し、最小限の動きでデブリの隙間を縫うように潜り抜けるロナ。

 スピードは一切落とさない。

 みるみる間に先行するエメロード改との距離を詰めていく。


『敵機をデブリが少ない地点に誘導します! ミサイル発射!』


 ロナの指示でミサイルが発射、前方のデブリに命中して爆発を起こす。

 これによりアルフレッド機の行動を阻害。ルートを制限し、彼を目的の地点へと追い込んでいく。


『シド、まもなくビームランチャーの射程に入ります。今度こそ当てますよ』

「了解!」


 2時の方角、やや離れた場所では戦艦の主砲らしき大口径のビームが伯爵軍の戦艦を撃ち抜いている光景が見られる。

 レーダーによれば、パラディアス王子の戦艦、ラ・フィーユ・ビアンコの攻撃のようだ。もうここまで到達していたのである。

 搭載機である機動ロボ隊の姿も確認できる。中には以前シドも見た真っ赤な人型ロボットの姿もあった。

 地表にある軍司令本部に地上部隊が突入したとの報告も流れてきた。

 遠からず制圧に成功するであろう。

 メイヌース会戦もそろそろ大詰め。

 そしてそれはこの戦闘もだ。


『シド、カウント5でビームランチャー発射。連射の必要はありません。1発で仕留めます』

「おうっ!」


 アルフレッド機がデブリ地帯を抜けた先、周りに遮蔽物の無い開けた場所に飛び出た。

 もう邪魔な物はないし、距離も近い。

 ビームランチャーの照準マークがエメロード改の背中をピタリと捉える。

 このランチャーの威力なら戦闘機程度のバリアは貫通可能。

 相手に回避の術はない。ロナは必中を確信した。


『散りなさい、仔馬ッ! カウントダウン開始。5……4……3……ッ!? 高出力ビーム接近! 緊急回避しますっ!』

「うわあっ!?」

 

 カウントダウン途中、エールダイヤを狙った攻撃を察知したロナは射撃を中止。

 操縦桿を急いで傾け、迫り来るビーム砲を回避する。

 エールダイヤの側面を通り過ぎる高威力のビーム。

 軽巡洋艦の主砲並みではないかとも思えるそれにシドは肝を冷やした。


「なんだっ!? どこからだ!?」

『いいところで横槍を……っ! 許しません!』


 ロナはトドメを邪魔され怒り心頭のようである。

 彼女は機体カメラを操作し、不埒な輩の姿を捕捉してモニターに表示する。


「こいつは……!」


 思わず驚きの声を上げるシド。

 そこに映っていたのは黒いカラーリングのエールダイヤ。しかも、シドたちと同じエースパイロット用の追加武装パックを装備した機体だった。

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