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第88話 互いにリベンジマッチ

『シド、速射砲連射! 残る敵機動ロボを一掃します!』

「了解っ!」


 ロナに指示に従い、シドは速射砲の発射トリガーを続けざまに引いた。

 放たれた弾丸は外れることなく一機、また一機とミュスカナイトのボディに風穴を開けていく。

 付近の宙域には炎上している艦艇や、戦闘機や機動ロボの残骸が無数に散らばっている。今しがた撃ち抜かれたミュスカナイトもその仲間入りだ。

 ヒーステン伯爵軍にとっては地獄とも呼べるこの光景を作り出したのは、言うまでもなくシドとロナである。

 単機で敵艦隊に奇襲をかけた彼らは、戦闘機に機銃を浴びせ、機動ロボを撃ち抜き、戦艦にミサイルをプレゼントし、目につく敵を端から撃墜していったのだ。

 しかも、ここまで暴れてもエールダイヤは無傷。弾一つかすっていないのだ。

 まさしく万夫不当。見た者がこれは現実なのか疑うような大活躍である。


「次はどれだっ!?」


 ロナからの攻撃指示があまりに目まぐるしいせいでちょっと落ち着きを失っているシドが叫んだ。

 数秒ごとに異なる武装の発射指示があるので、彼ももういっぱいいっぱいなのである。

 周囲にはまだまだ敵艦がごまんといる。ならば次はミサイルか、近づいてのビームランチャーか。

 そんなことを頭の片隅で考えていたが、ロナの返事は違った。


『シド、敵の増援です。しかも、会いたくてしかたなかった相手が来てくれました』

「はっ……? えっ、会いたい相手? 伯爵軍に?」


 何故か彼女が邪悪な笑みを浮かべているような気がする。

 茹った頭では上手く思考が回らない。伯爵軍にそんな相手なんていただろうかとシドは困惑する。


『ほらっ、あの青二才ですよ。いまモニターに表示します』


 いくら悩んでも答えが出なさそうなシドを見かね、ロナはパッとモニターにその相手を映してくれた。

 それを見たシドの目が見開く。

 向こうにとってもそうだが、シドにとっても忘れたくとも忘れられない因縁の相手だ。


「この機体はエメロード! ってことは……!」

『はい、この私に冷や汗をかかせた憎たらしい青二才、アルフレッド・スカイです』


 戦闘の影響か機体各所に被弾のあとが見られるが、間違いなくコロニー防衛戦で相対したのと同じエメロードのエース用カスタム機である。


「くそっ、いるとは思ってたが、まさかこんな時に出くわすなんて……」

『ええ、()()()()()()()ですね』

「へっ?」


 敵陣のど真ん中でエースパイロットの増援が来てシドはアンラッキーだと思っていたが、ロナは正反対の意見だったようだ。


『あの時はあんなポンコツ(アドホック号)に乗っていたせいであのような孺子(未熟な子供の意)相手に綱渡りの勝負を演じてしまいましたが、この子なら不足ありません』

「ロ、ロナ?」

『雪辱戦です。お母様の娘でありながら不甲斐ない戦いをしてしまった恥は、完膚なきまでに叩き潰すことで注がせてもらいます』


 ゾッとするほど冷たい声でロナは言う。

 ワープ攻撃で危うく撃墜されかけたことを彼女は相当根に持っているようである。

 なんだかアーノルド・マーヴェリックの次くらいに恨んでいそうな勢いだ。


『シド、転身です。敵艦隊には十分な損害を与えました。あとは後続の味方に任せ、私たちはアルフレッド・スカイを討ちましょう』

「お、おうっ!」


 操縦桿がグイッと勢いよく傾き、エールダイヤは空を飛ぶツバメのように身を返して反転する。

 アルフレッドもその動きに気づいたのであろう。向こうからオープンチャンネルで通信が入ってきた。

 当然、ロナが即座に応答する。


『パッチワークドレスのエンブレムのエールダイヤ……見間違えるわけがない!』


 モニターにあの日見たの顔と同じ、金髪の美青年が映った。

 ただしその表情はあの時よりずっと険しい。命懸けの勝負に挑む戦士の顔だ。

 前回はシドの方が機体に不備があったが、今回は逆。

 アルフレッドの方が技量で劣るのに、機体のハンデまである状態だ。

 万に一つも勝ちを拾えるか怪しい戦い。

 だが、アルフレッドに退く気はなかった。


『貴公と再び相見えた幸運を神に感謝しよう。ここであったが百年目。第6艦隊を始めとした仲間たちの仇を取らせてもらうぞシド・ワークス!』

『いいえ、これはお母様の導きです! 今度こそチルドレンの誇りに懸けて討ち果たしてくれましょう! この私との埋めようのない差に絶望しなさい、アルフレッド・スカイ!』


 ロナとアルフレッド、両者は互いに怒りをぶつけ合う。

 もちろん彼女の言葉は向こうに伝わらないようにしているので聞こえることはないが、殺気のようなものは伝わるのだろう。

 画面の向こうでアルフレッドがこちらを睨みつけ歯をグッと噛み締めていた。


『……通信越しでも貴公から伝わってくるこのプレッシャー……なんと凄まじい。あの時とはまるで別物だ。数多くの戦いで成長したのは私だけではなかったか……! だが私は誇り高きヒーステン伯爵家の騎士! 仇敵を前に逃げる足は持たぬ!』


 シドは一言も喋ってないが、闘志は充分に伝わっているようだ。……ただしシドのではなくロナのではあるが。

 ともあれ、このまま黙っているのも変なので、シドは口を開いてそれらしいことを言うことにした。


「一度は逃しまし……逃したが、二度目は、ない。今日で決着をつけるぞ、騎士アルフレッド・スカイ。覚悟はいいな?」


 最初は丁寧な口調で話そうとしたが、白馬コロニー防衛戦時には半分自棄で荒れた口調だったことを思い出して訂正する。

 そもそもシドもアルフレッドには平和に暮らしているところを襲撃された恨みがあるので、敬意を持って接する気にはならないのである。

 そして長々と話す気もない。向こうが返答したらそれで切り上げるつもりだ。


『愚問だ! アルフレッド・スカイ参る!』


 アルフレッドも同じ考えだったようで、この言葉を最後に通信がプツリと切れる。

 前口上はこれで終了。

 会話中にも互いに近づいていたので、既にどちらからも射程圏内だ。

 戦いの火蓋はすぐさま切って落とされることになる。

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