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第85話 VS バグダ・モーラー

「ワークス機は本艦直掩機を撃墜しながら接近中! 間も無くミサイル射程圏内に入ります!」


 ヒーステン伯爵軍第7艦隊旗艦「ジェルマード」のがらんとしたブリッジに、たった一人しかいないオペレーターの報告はよく響いた。

 本来であれば、このブリッジにはオペレーターが最低4人は配置されているのだが、自殺戦法を行うにあたり、最年長の彼一人を残して他は退艦している。

 他のクルーもそうだ。

 操舵手や機関士、砲術長などはそれぞれ一人しか残っていない。

 空いている席が多く、できることは少ない。

 だが、それでも問題はない。


「そうだ来い、シド・ワークス。このジェルマードの懐が貴様の墓場だ」


 提督席に座りながらこぶしをギュゥゥゥッと強く握りしめるバグダ・モーラー中将。

 その燃える瞳にはシドのエールダイヤの姿がくっきりと映っている。


「提督、ミサイルを発射いたしましょう。誘き寄せるのが目的とはいえ、こちらから攻撃しないのはあまりにも不自然です」

「わかった。――砲術長! 聞いたな?」


 モーラー中将の後ろに直立して控えている参謀からの提言により、ミサイル発射の命が下される。目標は無論シド機である。


了解(アイアイサー)!」


 砲術長がコンソールを操作し、数十発のミサイルを発射する。

 ジェルマードから放たれたそれらは一斉にシドとロナのエールダイヤに襲いかかるが、当然のように1発も命中しない。

 命中弾は機銃で撃ち落とし、残りはあっさりと回避されてしまう。さらにはお返しとばかりに速射砲で反撃をしてきた。

 オペレーターの鋭い声が響く。


「反撃、来ます!」

「無駄だ! 我がジェルマードにそんな豆鉄砲が効くかっ!」

 

 速射砲の一撃は確かにジェルマードに命中したが、モーラー中将の言う通り、要塞のような装甲をもつこの艦にはほとんど効いていない。表面に僅かな傷がついた程度である。


「損傷軽微。航行に支障なし」

「当然だ」


 報告を聞き、フンッと鼻を鳴らすモーラー中将。

 重級戦艦ジェルマードは、最前線で敵と真っ向からの撃ち合いを想定して建造された船である。

 装甲戦車のような見た目のフォルムをしており、その防御性能は伯爵軍随一。

 仮にエールダイヤのマイクロミサイルを全弾撃ち込まれてもビクともしないであろう。


「さあ、貴様に残された手はただ一つ。ビームバリアの内側に入り、その肩のビームランチャーを撃つことだけだ。――もっとも、その前に貴様は儂諸共に死ぬがなっ!」


 モーラー中将は犬歯を剥き出しにして獰猛な笑みを浮かべる。

 作戦コード「千捧一殺」。この戦法にはいくつかのパターンがあるが、今回モーラー中将らが狙っているのは、敵を至近距離まで誘き寄せてからの圧殺である。


「護衛艦各艦に再度通達。シド・ワークスがジェルマードのバリア内に侵入ししだい作戦を発動しろ。一斉にこの艦の周囲にワープし、ヤツを儂らごと圧し潰せ。いいか、決して躊躇うなよ。確実にヤツを仕留めるのだ」


 モーラー中将が展開する護衛艦たちに改めて指令を念押しする。

 そう、これが参謀が進言した作戦だ。

 やることは単純。強固な装甲を持つ戦艦を落とそうと敵機がバリア内まで近づいてきたその瞬間、他の味方艦が囮となったその戦艦の周りにワープアウト。逃げ場を無くした上で大質量でプレスし圧殺する。

 ただそれだけだ。

 だが、もちろん囮となった艦も、ワープアウトした艦も無事では済まない。

 戦艦が団子状態になるのだ。最悪全艦がお釈迦になってもおかしくない。いかな堅牢なジェルマードでも戦艦のサンドウィッチには耐えられるわけがなく、当然、死者もとんでもない人数がでる。

 しかし、その犠牲を払ってでも一機の敵を排除する。これはそういう作戦なのだ。

 なお、先に護衛艦が狙われても構わない。その時は、その護衛艦を中心に全艦がワープするだけである。

 また、敵機のワープを防ぐために囮艦が砲撃で妨害する必要もあるが、エールダイヤにワープ機能は無いのでそこは省略である。


「さあ、来い……来い……シド・ワークス!」


 モーラー中将は上気した様子でシドの名前を呼ぶ。

 モニターに映るエールダイヤは少しづつ。彼にしたら焦ったくておかしくなりそうなほど少しづつ距離を詰めてくる。

 彼は今、若き日にあった恋人との待ち合わせの時よりも強く、シドの到来を待ち侘びていた。

 もう僅か。あと数分で飛び込んでくる。

 そんな時に突如ブリッジにけたたましい警報が鳴り響いた。


「何事だ!?」

「多数のワープアウト反応を確認! これは……ターキム侯爵軍です!」

「なんだとぉ!?」

「敵艦隊砲撃を開始! 狙いは護衛艦です!」


 ターキム侯爵軍の艦隊が次々と付近にワープアウト。護衛艦に狙いを集中し、一斉に攻撃を加えてきたのだ。

 ジェルマードと同じく乗員を必要最低人数以下まで減らしていた護衛艦たちは充分な対応もできず、撃たれるがままに被害を増やしていく。


「護衛艦『あまつち』中破! 護衛艦『プルタン』、『センプァー』、『ヤルキス』も被弾! ……各艦よりワープ使用不能との通達がありました……」

「バカな……っ! わざわざこの近距離でワープするなど……」


 近距離でのワープはエネルギーの消費量から考えて普通はしない。

 それに、狙いすましたように護衛艦に攻撃を集中しているということは、もう理由は明白である。

 モーラー中将は苦虫を噛み潰したような表情で後ろの参謀の方を振り向く。


「参謀、どうやら我々の策は看破されていたようだな」

「はい……残念ながら……」


 参謀は歯を食いしばって俯いている。彼のこぶしは血が出るほどに握りしめられていた。


「提督、全ては私の責任です! 申し訳――」


 参謀が謝罪を口にしようとした時、ジェルマードに通信が入った。発信元はシド・ワークスである。

 モーラー中将はすぐさま「繋げ」とオペレーターに指示をする。

 正面の大モニターにシドの顔が表示された。


「見事だな、シド・ワークス。まさかスタンドプレイヤーの貴様が味方に援護を頼むとは誤算だったぞ 。()()策を見破っていたか」


 心からの賛辞を込めてモーラー中将はシドに言う。

 元よりジェルマード単艦で彼を討てるとは思っていない。

 護衛艦が潰された以上、自身の敗北は決定したようなものだ。


『……はい、おそらく閣下を囮にし、他の艦が私を仕留めるつもりだろうと当たりをつけました。そして私一人では閣下の策を破れないと悟り、ターキム侯爵軍の皆さんに協力を仰いだのです』


 小(にく)たらしいほど冷静な表情で喋るシド。

 必殺の作戦を不発に終わらせたというのだから得意げな顔でもすればいいものを、まるで自分は何もとばかりにツラっとしているので、いっそ笑えてくる。


「ガッハッハッハ、よくぞ看破した! 儂のようなくたばり損ないでは、貴様……いや、貴公の才には到底及ばなかったか! だがまだ負けたわけではないぞ? 我がジェルマードの底力を見せてくれる。いざ、今度こそ尋常に勝負だ、シド・ワークス!」

『謹んでお受けします。どうかお覚悟を、バグダ・モーラー中将閣下』


 その言葉を最後に通信が切れる。

 静まり返ったブリッジ内に、モーラー中将の檄が飛んだ。


「今こそ我らの意地の見せ所! シド・ワークスと王国軍の連中に、第7艦隊ここにありと知らしめてくれようぞ!」


 覚悟がこもったその言葉に、ブリッジクルーの顔にも闘志が戻ってくる。

 モーラー中将はやおら席から立ち上がり、左手を前に出して指示を出した。


「進路そのまま! 前進あるのみ!」

了解(アイアイサー)! ぶつけてやりますとも!」

「主砲ならびに全砲門発射せよ! 撃てるだけ撃て!」

了解(アイアイサー)! 指が攣っても撃ち続けます!」

「よし……突撃ィ!」

「「「了解(アイアイサー)!」」」


 周囲の護衛艦が撃沈してゆく中、ジェルマードは出力を全開にして前進する。

 あらゆる砲撃を放ちながら進むその様はまさしく尻に火がついて荒れ狂う猛牛。

 《火牛》バグダ・モーラーの最後の大暴れだ。


 ◇◇◇


「クソッ、やったらめったら撃ってきやがる!」 


 右へ左へと絶え間なく動く操縦桿に振り回されながらシドは悪態を吐く。

 通信中はキリリとした表情を維持していたが、今はもういつもの彼だ。


『あちらも最後の抵抗ですからね。ですが、たった一隻の砲撃に当たる私ではありません』


 冷静にそう言うのは、向こうの作戦を見破り、ターキム侯爵軍へ支援要請するようにシドへと指示をしたロナだ。

 銀河連邦軍が対AI用に編み出した作戦を彼女は当然勉強している。

 だからこそモーラー中将らの作戦も気付けたのだ。

 ヒラリヒラリと舞うように砲撃を潜り抜けるエールダイヤ。ジェルマードも前進していることから、両者の距離はあっという間に詰まった。


『シド、カウント10でビームランチャー発射。準備はいいですね!』

「おう、任せろ!」


 ジェルマードのビームバリア内に侵入間際、ロナはシドに指示を飛ばす。

 照準はブリッジ。彼女は一撃で決めるつもりだ。


『3……2……1……今っ!』

「ッ!」


 発射された超高温のビームはジェルマードの装甲を融解させ、ブリッジごと艦体を貫いた。

 ピタリとジェルマードの砲撃が止まり、ブリッジを中心に小規模の爆発が起きていく。

 やがてそれは艦全体に波及し、大爆発へと繋がっていった。


『バグダ・モーラー、貴官に敬意を表します。貴官はこの私を殺しうる策を用意してきました。友軍の存在がなければ撤退する他なかったでしょう。……さらばです』


 爆発し轟沈してゆくジェルマードを見ながら、ロナは珍しく敵を褒め称えたのであった。

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