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第69話 大戦果と後退指示

『おや、増援が来ましたね』


 最初は20機いた機動ロボを3機まで減らし、重巡洋艦を一隻撃沈したところで突然ロナがそう言った。

 現在、シドとロナは敵の戦艦を落とすべく攻撃を仕掛けている途中だ。

 敵艦から止めどなく撃たれる速射砲や機銃の弾を回避し、ミサイルを迎撃されることなく確実に当てられる距離まで近づこうとしているのである。

 今もまた、機体すぐ近くを敵の主砲である大口径3連装ビーム砲が通り過ぎた。走る閃光は、キャノピーに自動遮光機能が無ければ目が潰されていそうなほどの眩しさである。


「敵か!?」


 外の景色が激しく揺れ動き明滅するコクピット内でシドが叫ぶ。

 相手(がた)は圧倒的に劣勢だ。

 どれほど撃とうともロナが操縦するエールダイヤには擦りもせず、ただただ反撃をくらい落とされてゆくしかない。

 今はまだ健在の戦艦も、もう間も無く奮戦虚しく撃沈させられるだろう。

 だからその前に救助すべく、敵の増援部隊が投入されたのではないか。そうシドは考えたのである。

 しかし、どうやら違ったようである。


『いえ、味方です』

「味方?」


 シドが聞き返すと同時、エールダイヤを狙い躍起になってビームガンを撃っていたミュスカナイトの一機が背後からバルカン砲の直撃を受け爆散した。

 友軍からの通信が入り、モニターに一度見たら忘れられないモヒカンがドアップで映る。


『ヒイィヤッハァァーーーッ!! やぁっと追いついたぜぇ!!』

「うおっ!? ジュリウ……いや、ジュリー!?」


 モニター上部に付いている機内カメラを間近から覗き込むような体勢で通信を飛ばしてくるジュリウス。

 その姿勢だとシートから身を乗り出すことになり、前方の視界も狭まって操縦もおぼつかないはずだが、彼はまったく気にした様子もなく言葉を続けた。度胸があるというよりは頭のネジが外れているのであろう。


『シドぉ、テメェ抜け駆けして一人で楽しみやがって! ズリぃぞこの野郎、こっからは俺様も混ぜてもらうからなっ!』

「は、はぁ……」


 開戦時と変わらないハイテンションと、本気かどうかわからない態度で(なじ)ってくるジュリウスに、シドは戸惑い気味だ。まだ彼とどう会話していいか掴みかねているのである。

 そして、前線を突破してここまで駆けつけてくれたのは彼だけではない。


『シドさん、加勢失礼します! 残りの機動ロボは俺ら〈フォックス・ファイヤー〉が相手しますんで、どうぞシドさんは戦艦に集中してください!』


 ケネス率いる〈フォックス・ファイヤー〉の面々もジュリウスに続いてこの場に到着する。

 彼ら5機は、さっそく残る2機のミュスカナイトに攻撃を仕掛け、シドへの射撃を中断させた。

 

「ケネスさん、助かります!」

『いやいや、なに言ってんですか! どう見ても助けなんか必要なかったでしょ!』


 礼を伝えるシドに、ケネスは目線を前に向けたままニカっと笑ってそう返す。

 ミュスカナイトとの交戦中なので視線を切ることはできない。ジュリウスのような真似はさすがにできないのである。

 対するシドは操縦をロナに全面的に任せているので、いくらでもカメラに視線を向け放題だ。

 会話中も目線をカメラに合わせたまま。それで戦艦の砲撃を回避しているのだから、他人から見れば余裕過ぎる態度である。


「いえ、それでも来てくれて心強いです! ケネスさん、ご助力ありがとうございます! そっちの2機はよろしくお願いします!」


 確かに不要な手助けなのだが、来てくれたこと事態が嬉しかったので、シドは素直に再度礼を告げる。

 人間、誰しも他人から感謝されるのは心地良いものだ。ましてやそれが自分より圧倒的に上位の人間からであれば殊更である。

 ケネスはシドの言葉に感じ入るものがあったのか一度ぶるりと身体を震わせ、


『――恐縮ですっ! シドさん、この2機は自分らが絶対に落としますんで見ててください!』


 と力強く宣言して通信を切った。

 暗転したモニターを眺めながらシドは他人事のように言う。


「ケネスさんめっちゃ気合い入ってんな」

『……発奮させたのはアナタでしょうに……』


 自分のセリフがケネスにどう作用したかよくわかっていないシドに、ロナが呆れたような声でツッコミを入れる。

 シドは「へっ?」キョトンとした顔で首を傾げていた。


『……まあいいです。それよりもミサイルを撃ちますよ。10秒後に右ポッド全弾発射をお願いします』

「よくわからないが……とにかくミサイルだな。了解っ!」


 説明を諦めたロナが指示を伝える。

 狙いは戦艦の艦橋。右のミサイルポッドに残る全弾をぶつけるつもりだ。

 これだけ当てても耐えるようなら、ダメ押しでビームバリアの内側である至近距離からビームガンを撃つ算段もついている。

 離れた場所ではミュスカナイトの片足が撃ち抜かれていた。

 そちらも遠からず決着がつきそうである。

 なお、ジュリウスは何をしているのかというと、重巡洋艦の周囲をおちょくるような動きでブンブンと飛び回り翻弄していた。

 彼なりにシドを援護しているつもりなのかもしれないが、本心は誰にもわからないし、テンションが振り切れているジュリウスにもおそらくわかっていない。


 ◇◇◇


 シドが戦艦に続いて重巡洋艦も撃沈した頃には、〈フォックス・ファイヤー〉もミュスカナイト2機を撃墜していた。


『『『シドさん、お疲れ様でした!』』』

「〈フォックス・ファイヤー〉の皆さんもお疲れ様でした。ジュリーも援護ありがとうございます」

『水臭いぜ、シド。俺たちの仲で礼は言いっこなしさ』

「ハハハ……(どんな仲だっけか?)」


 周辺の敵を壊滅させ一息つく一同。

 これで迎撃部隊は壊滅させたわけだが、このまま敵本陣に突撃するには少し懸念的があった。


「ミサイル撃ち切っちゃったな」

『ビーム兵器のエネルギーは十分に残っているので問題ありませんが、補充できるならしておきたいですね』


 そう、ミサイルの弾切れだ。

 ロナ曰く、まだ継戦は可能だが補充するに越したことはないらしい。

 そこに、図ったようなタイミングでギルド連合旗艦の「威風」より通信が入ってきた。

 モニターに司令官であるグリム・カールソーの顔が表示される。


『ご苦労、白馬ギルドの諸君。特にワークス君には、《白馬の英雄》の実力をしかと見せてもらったよ。いやはや、Sランク並みの実力とは聞いていたが、まさしくその通りだ。――さて、そろそろ諸君らの弾薬も尽き掛ける頃だろう。一度後方まで下がってきてくれたまえ』


 ひとしきりシドを称えたあと、グリムは後方へ戻るよう指示をしてきた。

 穏やかな口調と表情だが、どこか声に懇願するような響きがある。

 ちょっとだけ疑問を感じたシドだが、司令官直々の命令であれば拒否権など無いであろうし、元々補給に戻るつもりであったので「了解です」と答えた。

 その返事にグリムは、


『そうか、良かった良かった』


 と、あからさまにホッとした表情を見せる。

 これにはシドも首を捻らざるを得ない。


(何かあるのか?)


 そう不思議に思ったシドが疑問を湛えた目をモニター越しに向けると、それに気がついたグリムはあっさりと腹の内を明かした。


『ん? ああ、別にトラブルとかは無いよ。ただ、ワークス君があまりに手柄を独り占めすると他のギルド支部の人たちが不満に思うからね。キミのお陰で勝利がほぼ確定した今、司令官としてはそこら辺の調整をしたいのだよ』

「あっ、なるほど」


 聞けば納得の理由である。

 本作戦は複数のギルドが合同で行っているものだ。

 それを考えればグリムの言う通り、シド一人がこれ以上活躍するのはうまくないだろう。

 既に敵の主戦力だけを見れば2割くらいはシドが削っているようなものなのだ。紛れもなく大戦果。功績第一位間違いなしである。


『うんうん、理解してくれたようで何よりだ。――で、ぶっちゃけついでにお願いするけど、補給はするから、ワークス君は作戦終了まで「威風」の護衛に専念してもらっていいかな? あっ、もちろんジュリー君たちは戦線に復帰してくれても構わないよ』


 両手を合わせ、茶目っけ全開の態度でこちらを拝んでくるグリム。


「ええと……」


 シドに否はないが、ちゃんとパートナーである彼女にも意見を聞かねばならない。

 シドは目線をチラリと右手に向ける。


「ロナ、どうする? 俺は別にそれでいいと思うけど……」

『私も構いません。戦場では上官に従うものですし、自分に実力が足りないのを棚に上げたその他大勢どもの醜い嫉妬でアナタが恨まれるのは私の本意ではありません』

「うん……じゃあまあ、俺たちの仕事は取り敢えずお終いってことで……」


 言い方はともかく、ロナも後退することを承諾してくれたのでシドはその旨をグリムに伝える。

 なお、通信画面はロナがリアルタイムで細工しており、彼らが相談している部分はシドが目をつむって思案している映像に差し替えられていたりする。

 

「仰せのままに司令官。シド・ワークス、護衛任務了解いたしました」


 シドは正しい命令受諾の口上など知らないので、適当にそれっぽい口調でこう言った。因みに敬礼も無しだ。

 だがまあ、グリムは満足そうに頷いているので問題は無さそうである。


『いや〜悪いね、ワークス君。――そうそう、今しがた我々の動きに合わせて地上でも伯爵領支部の傭兵たちが蜂起したとの情報が入ってきたんだ。地上には、かの《剣姫》もいるし、予定よりこの戦闘も早く終わるだろう。キミは後方でゆっくり休んでいてくれ』

「わかりました」


 シドがすんなりと後方に下がることを了承したのでグリムは上機嫌だ。

 ロナも少々不完全燃焼気味な気配を出しているが、今のところ不満を漏らすことはなさそうである。

 なんにせよ、安全な場所に居られるのであればシドとしては万々歳だ。

 シドとロナ、そして白馬ギルドの面々は、敵本陣を目の前にし、踵を返して来た道を戻るのであった。

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