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第68話 弾雨に踊れば

 前線の敵を振り切り、惑星ミュコーを背に陣を張る駐留部隊本隊へと単機で迫るシドとロナのエールダイヤ。

 コクピットのレーダーに映るのは3隻の軍艦と20機の機動ロボという敵の迎撃部隊。たった一機の戦闘機に差し向けるには過剰な大部隊である……()()()()


「……スゲェ数が来たんだけど……」

『足りないくらいです。いっそ全軍で向かってくればいいものを……私も舐められたものですね』


 レーダーにびっしりと並ぶ敵を示す赤点を見て顔を引き攣らせているシドとは対照的に、ロナの口調はいつもと変わらない平然としたものだった。

 敵の数に慄くどころか、「なぜ全軍でこないのか」とダメ出しまでしている。


『――まあ、失策の代償は彼らの命で支払ってもらうことにしましょう。シド、向こうの射程圏内に入りました。敵艦の砲撃が来ますよ』


 その言葉が終わると同時に敵部隊に動きがあった。

 1隻の戦艦と2隻の重巡洋艦の前方に展開していた機動ロボが散開し、敵艦の射線を開けたのだ。

 3隻それぞれの主砲が緩やかに動き出し、エールダイヤの方へと向く。


「マジかよ……」


 シドの呟きは、たった一機の戦闘機に向けて3隻の艦が主砲をぶっ放すのかという驚きからだ。

 もちろん伯爵軍はそのつもりで射線を開けている。

 戦艦に3基、重巡洋艦に2基搭載された大口径3連装ビーム砲がエールダイヤに狙いを定め、一斉に発射された。


『回避します』


 さらりと言った一言。

 ビーム砲が放たれる直前、ロナが操縦桿を素早く右に傾け、エールダイヤは斜め下に落ちるような軌道でその場を離脱する。

 放たれる敵艦のビーム砲。

 一瞬前までシドたちがいた空間を合計21本の大出力ビームが貫いた。

 その光景を見て、もし当たったらと考えてしまい、シドの顔から血の気がサーッと引く。


「ただの戦闘機に向けるには威力が過剰過ぎるだろッ! 塵も残さねえ気かッ!」

『それだけ相手が我々を恐れているということでしょう。その期待には応えないといけませんね』


 伯爵軍にしたら応えて欲しくはないだろうが、この手厚い歓迎にロナのテンションも少し上がっている。彼女は意気揚々と反撃を開始した。


『シド、カウント5でこちらもビーム砲を発射! まずは周りの機動ロボを片付けますよ!』

「了解っ!」


 ロナは、スロットルレバーを動かし機体を加速させると同時にカウントダウンを開始。

 前進しながら底部の二連装ビームガンの照準を機動ロボの一体に合わせる。

 かなり距離が離れていてビームガンの有効射程ギリギリだが、彼女の技量であれば問題など何もない。例え機影が肉眼では砂粒ほどにしか見えない距離であろうとも、1メートル先を狙うが如く当てられる。


『――3……2……1……今っ!』

「ッ!」


 カウントに合わせてシドがトリガーを引き、ビームを放つ。

 その一撃は正確に敵に向かって飛んでいき見事命中。

 「タッドポール(オタマジャクシ)」という名前の機動ロボのコクピットを撃ち貫いた。

 タッドポールはヘリコプターのような見た目の胴体で、両脇にミサイルポッド、背中にはローターではなく長距離狙撃砲を背負った機体だ。戦闘機とは違いソリ状の脚があるので、どこにも着地して移動できるのが特徴だ。

 主に拠点防衛用に配置され、背中の長距離狙撃砲で先制攻撃を仕掛けるのが役割なのだが、今は逆に先んじて狙撃をされてお株を奪われてしまった形になる。

 なお、敵機動ロボ20機の内、10機がこのタッドポールであった。


『1機撃破! さあ、続けていきますよ! シド、連射です!』

「応っ!」


 ロナの指示に従い、シドは発射トリガーを2度3度と引く。

 次々と放たれるビームは、思わぬ超長距離狙撃に動揺する敵機を順々に貫いた。


『――ストップ、反撃が来ます』


 4発目を撃ったところでロナのストップがかかる。

 敵が動揺から回復し、反撃を仕掛けてくるようだ。さすが本職の軍人だけあって海賊などより遥かに対応が早い。

 だが、1分経たない内に4機の機動ロボを落とせたのは大きい。


『敵艦のミサイルとタッドポールの狙撃砲が来ますね。速度を緩めず正面から突破します。迎撃と反撃とで適宜ビームガンと機銃を使い分けますので集中してください。忙しくなりますよ』

了解(りょーかい)、忙しいのはいつものことだ」

『よろしい。――では行きますよっ!』


 ロナの予想通り、3隻の敵艦は全てのハッチを開いて撃てるだけのミサイルを発射し、残る6機のタッドポールは背中の狙撃砲を遮二無二に撃ち始める。

 開幕の主砲からそうだが、たった一機の戦闘機を相手になりふり構わない攻撃だ。伯爵軍の焦りと苛立ち、そしてシドへの恐怖が見えるようである。

 雨あられと浴びせかけられるそれらに、ロナは勇躍、恐れなど微塵もなくフルスロットルで飛び込んでいった。

 いつも通りと言えばいつも通り。嵐のような弾雨の中で舞い踊るのが似合う彼女である。


 ◇◇◇


『今です、ミサイル発射っ!』


 エールダイヤの左肩にある6連ミサイルポッドから3発のミサイルが飛び出し、重巡洋艦の艦橋を含めた3箇所に命中する。

 爆炎を上げる艦を尻目に、ロナは鋭い声で次の指示を飛ばした。


『機銃掃射3秒! 続いてビームガン2発!』

「こなくそっ!」


 シドは、秒単位のオーダーを額に汗を浮かべながらこなす。

 機首から放たれたビーム弾が迫り来るミサイルを撃ち落とし、ビームガンが2機の敵機動ロボを撃ち抜く。

 シドとロナは四方八方を敵に囲まれ、伯爵軍による必死さすら感じる猛撃を掻い潜りながら着実に撃墜スコアを増やしている。

 その戦いぶりはもはや鬼神のそれ。

 相対する伯爵軍はおろか、味方である各ギルドの傭兵たちもこれには戦慄を覚えていた。


『背後から敵機接近! 「ミュスカナイト」ですか!』


 そこに、エールダイヤの背後からマスカット色をした人型機動ロボが一機、盾を構えながらビームガンを連射し突撃してきた。

 ミュスカナイトは西洋甲冑のデザインを模して設計された二足歩行の量産型機動ロボだ。

 マスカット色が標準色で、人間と同じ5指の手を持ち、武装のバリエーションが豊富な機体だ。量産型とはいえ非常に優れた性能を有しており、また「ナイト(騎士)」という名称もあって、それに見合った技量を持つ準エース級のパイロットに支給される機体だ。

 敵機動ロボ20機の残りの10機がこれである。


『当たりませんよっ!』


 エールダイヤは機体をローリングさせ、背中に目がついているかのような(背面カメラがあるのでロナにすれば本当に付いているようなものだが)無駄のない動きで連射されるビーム弾を回避する。

 だが、弾は回避できても機体の最高速度は、半世紀も昔の機体であるエールダイヤよりも現行機であるミュスカナイトの方が上だ。両者の距離は徐々に縮まってゆく。

 至近距離と呼べるまでにそれが縮まった瞬間、ミュスカナイトは背面のブースターの出力を一気に上昇させ急加速。体当たりする勢いでエールダイヤに迫る。

 同時にミュスカナイトは右手に持っていた銃を投げ捨て、腰に付いている筒状の兵器を手に取った。

 筒の側面にあるボタンを押すと穴から光り輝く()が伸びてくる。ビームソードだ。

 既にエールダイヤの背中は目と鼻の先。

 ミュスカナイトはエールダイヤを刺し貫かんとビームソードを持った右腕で素早く突きを放つが、


『……まったく。白兵戦ならいざ知らず、誰が宇宙戦で剣になど当たりますかっ!』


 ソードが当たるかと思われたその時、エールダイヤは跳ね上がるような軌道で攻撃をかわした。

 視界から一瞬で消えたターゲットを探し、慌てて敵のパイロットはレーダーに目を向けるももう遅い。

 エールダイヤは上昇してすぐに急減速をし、ミュスカナイトに追い抜かれる形で背後を取っていたのだ。

 状況を確認したミュスカナイトのパイロットは即座にボディを捻って背後を振り向こうとする。だが、その時にはもうエールダイヤの銃口がコクピットを捉えていた。

 放たれる2連装ビームガンの一撃。

 また一機、シドとロナの撃墜数がカウントされた。


『これで17機目! 多少数は多くても所詮は雑兵ですね。この私を撃墜したいのであれば、アーノルド・マーヴェリックと特殊戦技教導隊の連中を連れてきなさい!』


 残すは戦艦と重巡洋艦が一隻づつと機動ロボが3機。

 シドとロナに差し向けられた迎撃部隊が壊滅するのも時間の問題であった。

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