第64話 作戦開始前
「これだけ集まると壮観だな」
『そういえば大規模な作戦に参加するのはコロニー防衛戦以来でしたね』
惑星ミュコー解放作戦の当日、シドとロナはエールダイヤに乗って指定された集合地点に来ていた。
ここは、ヒーステン伯爵領と境界を接するイルハンブラ子爵領のとある宙域である。惑星ミュコーと比較的距離が近く、また主要航路から外れていて警備の目も薄いので、侵入地点としては最適な箇所だ。
現在この場には近隣にある29の王国傭兵ギルド支部よりギルド員が集結している。
戦闘機が大半だが、中には機動ロボや小型武装艇の姿もある。どれもが個性的なカスタムがされていてバラエティに富んだ集まりだ。
さらには大小の戦艦が7隻もあり、聞けばそれらは管区統監クラスの大規模支部が所有している艦らしい。
総勢は約1,200機。戦艦の数が少なく統率が取れていないので戦力的に伍するわけではないが、数だけなら伯爵軍の一艦隊をも超す大軍勢だ。
「作戦だとこの後ミュコーを強襲するらしいけど、この集まりはヒーステン伯爵軍に察知されてないのか? 領内に入ったら防衛部隊が待ち構えてるとか御免だぞ」
目の前の宇宙空間に居並ぶ色とりどりの戦闘機をチラチラ眺めながらシドが不安を口にする。どこか呑気そうな口調なのはロナの腕を信用しているからであろう。何があっても自分たちは大丈夫だと思っているのだ。
『その心配は尤もですが、おそらく問題無いでしょう。現在、伯爵軍の宇宙艦隊は来るべき決戦に向けて伯爵領本星付近に集結しているとの情報があります。領内の警備も薄くなっているはずです』
「そうなのか?」
『はい。先日、パラディアスの活躍もあり侵攻を受けた全ての地域を奪還したでしょう? それを境に伯爵軍の作戦方針が明確に切り替わっています』
「そういえば、黒龍コロニーを占領してた第5艦隊も撤退したってニュースで言ってたな」
パラディアス王子の伯爵軍第5艦隊はシャモニー子爵軍と戦う前にあっさりと黒龍コロニーを放棄して伯爵領まで撤退していた。
子爵軍の総司令官は報道で「我々に恐れをなしたのだ」と勇ましい言っていたが、向こうが決戦に向けて戦力を温存しただけというのが大半の見方だ。
もし戦っていたら子爵軍が勝てたかは怪しい限りなので、なんともラッキーな話である。
「俺らが〈レッドドラゴン海賊団〉と戦っていたら黒龍コロニーから伯爵軍が居なくなっていたわけか……ドラゴンドラゴンでややこしいな」
『……それは知りませんよ』
冗談めかして言ったシドのセリフを、ロナは呆れたように流す。
作戦開始時間まではまだ余裕がある。全メンバーが集まったわけでもないので、しばらくは雑談タイムが続きそうだ。
◇◇◇
『シドさん、俺ら思うんですけど、ブリーフィングで進行ルートだとか撤退ルートだかとか敵の反撃別の対応パターンだとかゴチャゴチャ言われるじゃないですか。あれって要ります? 攻撃地点の割り当てとかダルくないですか?』
「必要なんじゃないですか……?」
『『『えーーっ!』』』
シドはケネスら〈フォックス・ファイヤー〉のメンバーや同じ白馬ギルドの面々と通信中だ。
先程作戦開始前のブリーフィングが終わったところで、シドとしては初めてマトモに行われた打ち合わせに感動すら覚えていたのだが、ケネスたちにとってはそうではないらしい。
蛮族らしく、考えもせずに突撃するのが性に合っているようだ。やはり彼らも白馬ギルドの傭兵である。
『シドさんだって、いつも小難しいこと考えずに単機突入してるじゃないですかぁ』
『そうそう』
『ワークス、常識人ぶってないで自分に正直になれよ』
『俺ら同類だろ?』
『……一緒にされるのは業腹なのですが』
「ロナ、落ちつけ――ん? 全体オンライン通話の着信?」
『みたいですね。発信元はハマナ傭兵ギルドに所属する戦闘機のようです』
その蛮族どもに仲間扱いされたロナがちょっとイラっとした声を出した時、急に他のギルドからグループ全体でのオンライン通話申し込みが入ってきた。この場合のグループとは、本作戦に参加している約1,200名全員である。
WEB会議のようなシステムで、人数が多いとうるさくて会話になりそうにないが、インカメラをオンにしないと音声が9割以上カットされる仕組みになっており意外と大丈夫だ。
ハマナ傭兵ギルドは、とある侯爵領にあるそこそこ規模の大きい支部だ。この場にも60機ほど戦力を出している。
ロナが通話に応じると、モニターにそこのギルドメンバーだという30代くらいのバンダナを巻いた強面の男が映った。
『ハマナ所属Cランク戦闘機乗りのアンドレだ。作戦開始前に白馬の連中に言いたいことがある』
アンドレとかいう男は何やらイラついた様子だ。太いゲジゲジ眉を怒らせ、睨むような目つきをしている。
わざわざ全体通信で名指しするとは面倒事の予感がする。
なんだと思い聞いていると、アンドレはモニター越しにこちらを指差して怒鳴った。
『この大事な作戦に12人しか参加しないとはどういう了見だ! しかもランク内訳を見たらFランクのお荷物までいるじゃねえか! 数合わせどころか、こっちの足を引っ張るつもりか!』
そう、白馬ギルドはこの作戦に12人しか参加していない。ケネスがあれから方々に声をかけたのだが、みんなちょうど取り掛かっている仕事があったりして、結局5人しか増えなかったのだ。
そしてFランクとは言わずもがなシドの事である。
(嫌味を言われるとは聞いてたけど、ここまで大っぴらにか……!)
もっと陰でネチネチ言われるものだとばかり思っていたので、シドはビックリである。
ただ、通信から流れてくる全体のさざめきから察するに、人数が少ないのはともかく、低ランクが参加しているのには否定的な感がある。
その空気に後押しされたのか、アンドレはますますヒートアップして口から唾を飛ばさんばかりの勢いで白馬ギルドを糾弾してきた。
『雑魚がいると周りが迷惑なんだよ! ソイツが下手を打って戦線が崩れたらどう責任を取るつもりだ!』
指摘としてはもっともである。
スピーカーからも誰かが呟いた『確かに』とか『だよなぁ』などの声が漏れ聞こえてきた。
「ロナ、どうする?」
『さっさと名乗ればいいのでは?」
「それしかないかぁ……」
アンドレが問題にしているのはFランク傭兵の技量に不安があるという点なので、そこが解消されれば済む話だ。
通信では〈フォックス・ファイヤー〉のケネスが『彼はFランクと言っても――』と説明しようしていたが、アンドレに『Dランクは黙ってろ!』と一蹴されてしまったので、シドが直接会話するしかない。
怒り狂う強面のおっさんとの会話は嫌だが、場の空気を考えれば無視もできない。
シドは諦めて口を開きかけたが、それよりも早くアンドレの方から通信に出ろと言ってきた。
『おい、白馬のFランク野郎! ビビってないで顔を出せ! 一言詫びて大人しく帰るなら許してやる!』
言われずとも名乗るつもりだ。
シドは覚悟を決めて下腹に力を入れる。顎をグッと引き、できる限りキリッとした表情を心がけた。
ロナが機内カメラをオンにし、各機体のモニター画面にシドの顔が表示されると、アンドレがポカンと口を開ける。
「どうも、白馬ギルド所属Fランク戦闘機乗りのシド・ワークスです」
傭兵たちの間にどよめきが巻き起こった。




