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第63話 最後のFランクミッション

 傭兵ギルドのエントランスにて、シドは「うーん」と腕を組んで困っていた。


「さて、Fランクとしての仕事も最後だけど、どうしよう?」


 側から見たら独り言だが、そうではない。ちゃんと同行者に向けた言葉だ。

 その返事として、シドの耳元の骨伝導イヤホンから女性の透き通るような美声が聞こえてくる。


『ギルドにいる誰かに声をかけたらいかがですか?』


 現在Fランク傭兵である彼はランクアップのため、Dランク以上の傭兵と組んであと一回は仕事をしなければならない。

 その最後の仕事を組んでもらう相手を探さないといけないのである。

 シドはロナの言う通り、適当なギルド員に声をかけることにした。


「そうだな。その辺の人に同行してもいいか聞いてみるか」

『そうしましょう』

「じゃあまずはオマールさんにでも――」

「シドさぁーーーん!」


 顔見知りの傭兵を探そうとした矢先、背後から大声でシドの名前を呼ぶ者がいた。

 シドが「なんだ!?」と振り返ると、手を振りながらこちらに駆け寄って来る若い男の姿が目に入ってきた。

 男は20代半ば。髪を真っ赤に染めたツーブロックパーマで、アルファベットがデザインされた黒色のフード付きのジャンパーを着ている。

 歓楽街を肩で風を切って歩いてそうなオラついた風貌だ。

 よく見れば、その後ろには他にも男性が4人ばかりいて、どうやら5人グループのようだ。


「すいません、急に。シドさんって今カラダ空いてますか?」


 赤髪の男はシドの前に立ち止まると開口一番でそう尋ねてきた。走っていたからか息も荒く、なにやら焦っているようである。


「はい、空いてますが……」

「マジすか!? っしゃ、ラッキー!」


 シドが仕事の予定が入っていないことを告げると、男は喜色満面といった様子でガッツポーズをする。

 グループの他の仲間たちも「よしっ!」とか「勝った!」と嬉しそうだ。

 おそらく一緒に仕事をしたいのだろうが、よく話が見えてこないのでシドが困ったような顔をしていると、赤髪の男がそれに気がついた。


「――あっ、すんません名乗りもせずに。俺、最近Dランク戦闘機乗り(ファイター)になったケネスっていいます。後ろの4人と一緒に〈フォックス・ファイヤー〉ってクランをやってます」


 ケネスと他4人はペコリと頭を下げる。

 傭兵なだけあってアウトローな空気を纏っているが、礼儀はしっかりとしている。

 Dランク戦闘機乗り(ファイター)だというが、ノアとかシドが例外なだけで、彼くらいの若さでそこまで上がれるのは十分に優秀な傭兵だという証拠である。


「シド・ワークスです。……えっと、俺と一緒に仕事をしてくれるという事でいいんでしょうか?」

「はい、どうかお願いします!」

「あの……そんな頭を下げなくてもいいんで……」


 ケネスのような柄が悪そうな男に低姿勢になられるのはまだ慣れない。

 ちょっとやそっと場数を踏んだからといって、生身で相対するのは戦闘機の通信越しで会話するのとはまた別なのである。

 シドは頭を上げるように頼み込み、詳しい仕事内容を説明してもらうことにした。


「それで、どんな仕事なんですか?」

「さっき緊急で入ってきた、他支部との合同作戦です。攻撃目標はヒーステン伯爵領内にある惑星ミュコーの駐留部隊。そいつらを追っ払って惑星を解放するのが目的です」

「……大仕事じゃないですか?」

「超大仕事です! 腕が鳴りますね!」


 闘志溢れる笑顔で拳を握るケネス。

 シドは早くも軽々しくOKしたことを後悔し始めた。


「データとかあれば送ってもらってもいいですか?」

「うっす、こちらになります」


 作戦の詳細を右手のバングル型PCに送ってもらい、バーチャルディスプレイを開いて表示する。裏ではロナも閲覧しているだろう。

 シドはざっと目を通した。


「『惑星ミュコーには、ヒーステン伯爵軍への協力を拒んだ伯爵領内の傭兵ギルドメンバーや民間人が収容されており、その解放が本作戦の第一目標である。』ですか。シャモニー子爵領内だけではなく、他領の傭兵ギルドも参加するんですね」


 正確には数えていないが、名簿を見た感じ30近くの支部が参加する予定のようだ。

 軍隊のように統制が取れるとは思えないが、それだけの支部から戦力を集めればかなりの大部隊となりそうである。

 惑星ミュコーには複数人のAランク傭兵のみならずSランク傭兵も一人収容されており、王国ギルドとしてもかなり気合いの入った作戦のようだ。


「そうなんですよ〜。だけどほら、白馬はこの間の海賊のせいで人が集まらなくて……」

「あー……」


 先日の〈レッドドラゴン海賊団〉との戦いで白馬ギルドの戦闘機部隊はそれなりの被害を受けた。また、それほど日も経っておらず、強制召集でもかからない限り参加しないという者も多いようだ。


「合同作戦であんまり人が少ないと肩身が狭くなりそうですね」


 シドがそう言うと、ケネスはまさにその通りだと頷いた。


「俺ら、前にも他支部との合同作戦をやったことがあるんですけど、10人くらいしか出してない所への当たりとか酷かったですよ。伯爵領や侯爵領の支部の奴らは数だけは多いから威張ってるし、ウザかったっす」

「そうなんですか」


 だから〈フォックス・ファイヤー〉の面々は焦っていたらしい。

 王国傭兵ギルド内の派閥争いも大変そうである。


「それに低ランクばかりの支部はめっちゃ舐められますね。今回、マッケンジーさんやCランクの皆さんが都合つかなかったんで、シドさんが参加してくれて助かりました。これで他支部の連中に舐められないで済みます」


 ケネスはいい笑顔でサムズアップしている。他のメンバーも心底助かったという表情だ。

 メンツを大事にしている傭兵なので、例え同業者であっても、いや、だからこそ舐められたくないようだ。

 シドはFランクだが、実質Bランク以上なので問題無いらしい。

 なお、彼らが前回参加した合同作戦にはアイハム・アル=イブンもいたので誰も白馬ギルドに舐めた口をきかなかったそうだ。


「ちなみに今何人くらい集まったんですか?」


 シドが尋ねるとケネスはあっさりとした表情で、


「シドさん含めて7人です」


 と言った。

 シドと〈フォックス・ファイヤー〉以外には一人しかいない計算だ。


「少ないじゃないですか!」

「ああ、大丈夫です。まだまだ参加者を集めますし、残りのもう一人もとびっきりの面子なんで」

「とびっきり……? どなたですか?」

「有名人ですよ。てか、今シドさんの真後ろに立ってます」

「えっ!?」


 ケネスがシドの背後を指差す。

 驚きの声と共に振り返ると、そこには身長190cmを超す大男がぬぼーっと立っていた。


「うわあああっ!?」


 シドは悲鳴を上げて大きく飛び退いた。

 すぐそばに立っていたのに全く気配を感じなかった。武道の達人とかではなく、単純に影が薄いのだろう。

 心臓がバクバクと鳴っている。


「……ごめんなさい、ワークスさん。驚かせました……」


 これほどの巨漢なのにボソボソとした暗い喋り方だ。

 肩幅はあるが肌は青白く、姿勢も猫背気味で、服装も上下灰色のスウェット、整えることもせずに伸ばしっぱなしにした肩甲骨まで届く長い髪と、まるで引きこもりみたいな格好である。

 ただし髪色だけは派手だ。安物のカラーリング剤で染めたようなドギツイ金色をしていて、非常に不釣り合いだ。


「あの……何度かお会いしてますが、僕はEランク戦闘機乗り(ファイター)のジュリウス・アミンっていいます。また同じ任務ができて光栄です……」


 ジュリウスはペコペコ頭を下げながら握手のために右手を差し出しきた。

 長い髪で表情が隠れていてよく見えないが、少し緊張していそうな感じがする。


(何度かって……見覚えがないんだけど……)


 シドは改めてジュリウスの姿を観察するが、記憶の中に彼の姿はない。

 影の薄さはともかく、この巨体を見逃すとは考えずらいのだが。

 ともかく、挨拶を無視するわけにはいかないのでシドは差し出された手を握り返し「よろしくお願いします」と伝えた。

 背丈と同じく大きな手で、シドの手より関節一つ分大きい。


「えっと……僕、ワークスさんのこと、凄く尊敬してます。防衛戦の時とかあんなに怖がってたのに、戦ったら強いし、惑星イマリの時も、カッコよかったです……ファンになりました……」


 つっかえつっかえだが、手をぎゅうと握りしめながらジュリウスは真剣に気持ちを伝えてくる。


「僕なんか、気合いを入れないと怖くて戦闘機に乗れないのに……ワークスさんは本当に凄いです……」

「気合い……? ええと、ありがとうございます」

「じゃあ……僕、これから用事があるので失礼します……」


 名残惜しそうに最後にギュッと一握りしてジュリウスは手を離した。

 そしてケネスたち〈フォックス・ファイヤー〉のメンバーの方にも頭を下げる。


「ケネスさんたちも、今日はこれで失礼させていただきます……。誘ってくれてありがとうございました……」

「うっす、モヒさんも当日はよろしくお願いします!」


 またもやペコペコ頭を下げながら帰って行くジュリウス。腰が低いというよりは気弱なのだろう。おっかなびっくりという表現がよく似合う男だ。


「……モヒさん?」

『なるほど、彼が噂の……』

「えっ、ロナも知っているのか?」

『有名人ですよ』

「えー……」


 Eランクの彼にDランクのケネスが丁寧に接しているからには何かあるのだろう。

 しかしながらシドの記憶にオドオドした彼の姿が無いのも確かだ。彼が本当にロナのいう“有名人”なのか疑問に思いつつ、一人首を傾げるシドであった。

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