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第62話 変わらない友人はどんな財宝より得難く価値がある

「ったくよー、羨ましいよなぁーシドは。女子アナとかアイドルとかと知り合いになってんだろ?」

「なってねぇーよ。インタビューは受けたけど、それだけだ」

「そんなこと言ってぇ、実はアドレスとか交換しちゃってんでしょ?」

「してねーよ!」


 その日の夜、シドは久しぶりに会った友人たちと外食をしていた。

 4人の友人は小学校時代からの付き合いで、今日は彼らの地元である子爵領本星からわざわざシドに会いに来てくれたのだ。

 場所は最低限のプライバシーが確保できる個室の居酒屋。酒は普通のものしか置いてないが、注文すると山のように盛られて出てくる鳥の唐揚げとフライドポテトが人気のお店だ。

 全員が既にビールを最低一杯は飲んでおり、少しいい気分。その上、昔からの友人ということもあって、交わされる言葉に遠慮というものがない。


「いやいや、ぜってえしてるわ、コイツ。俺らは騙されねえぞ」


 シドをビシッと指差して決めつけてくる。

 他の友人もシドの味方をする者はいない。彼の言葉に乗っかって茶化してくる。


「シドは昔から女子アナとかアイドルとか好きだったじゃんか。『人気プロゲーマーになったら付き合えるかも』ってほざいてたし」

「どーせ鼻の下伸ばしながら連絡取り合ってんだろ? 下心ありありなのアッチにバレてんぞ、このスケベ」

「ほら吐きな、シドくん。ここだけの話にしてあげるから」

「だからしてねえし!」


 ジョッキを片手にふざけ半分でしつこく問いただしてくる友人たちに、シドはうるさそうに手を振った。

 シドも男なので、インタビューを受けた際には女子アナと親密になれるのでないかという下卑た期待は正直あったが、今のところそういうアプローチはない。

 それもそうであろう。

 ちょっとやそっと有名になったからといって女子アナやアイドルとウハウハだなんて、都合の良い一般人(パンピー)の妄想である。

 彼女たちだって仕事が忙しい普通の女性だ。

 一目惚れしたわけでもない取材対象の男に、いちいち連絡先を聞いたりしないのは当たり前である。

 ただまあ、世間でのチヤホヤ具合に比べ、友人たちが思うほどにシドは華やかな付き合いには恵まれていないのも事実である。

 これはひとえにシドの行動力不足であろう。見てくれや振る舞いはそう悪くはないのだから、彼ががっつけばもっと多くの女性と親密になっているはずである。(ただし、がっついてたらとある女性に右手首か別の箇所を締められることになるだろうが)


「にしても()()シドが“英雄”かぁー。似合わねえな」


 メガネで短髪の友人がフライドポテトを3本いっきに口に入れてむしゃむしゃと食べながらそう言うと、その言葉に他の友人たちも大いに頷いた。


「ジオの言う通りだ。“白馬コロニーの英雄”だっけ? 初め聞いた時は笑いすぎて死ぬところだったぞ」

「ホント。それにテレビだとシドくんを凄く持ち上げてるから、見るたびにこの人誰だろ? って思っちゃう」

「あれ偏向報道ってやつだよな。俺はテレビの取材でちゃんと『ゲームばかりしてて、運動も勉強もダメダメでした』って言ったのに放送されなかったし」

「おいっ!」

「怒んなよ、本当のことだろ? 文句は勉強しなかった過去の自分に言ってくれ」


 そう言って茶髪の友人はつらりとした顔でビールを飲む。

 シドが睨むもどこ吹く風だ。

 そこに「まあまあ」と小太りの友人がとりなすように間に入ってきた。


「シドもハマーも落ち着けって。久しぶりに会ったんだから喧嘩しない。なっ、ジオ?」


 話を振られたメガネのジオは「そうだなリック」と笑った。


「これから就活で忙しくなる前に、昔からの友達でこうして時間作って会ったんだ。仲良くやろうや……シドが本当のことをゲロるまでな」

「しつけーな!」


 笑い声を上げる一同。

 この日集まった彼らは、シドと同じ今年22歳の男たち。大学を卒業し、就職活動に勤しむ年だ。


「……で、どうなんだ就活は? いつから始めるんだ?」


 高卒でプロゲーマーになり、大学にも行っていないシドにとっては未知の世界だ。

 就職活動とはどんなものかと興味深そうに尋ねると、友人たちからは呆れた顔を向けられてしまう。


「もうとっくに始まってるぞ」

「早いヤツはもう内々定を貰ってんだ。俺らものんびりしてらんねえよ」

「かぁー、これだからバイトと受験以外で面接をしたことのないヤツは」


 さも小馬鹿にするような口調で言われるとシドもカチンとくる。


「うるせぇ、こちとら自分で稼いで税金納めてる社会人様だぞ、学生ども」

「そこはホント偉いよね、シドくん」


 感心したように言うのは、この中で一番容姿が整った華奢な体型の友人だ。

 耽美的な顔立ちの彼は、アルコールで赤らんだ顔でフニャりと微笑む。


「僕は広告代理店を狙っているからさ、もし入れたらシドくんに仕事をお願いするよ。――トラブルを起こされると困るからアイドルとは組ませられないけど」

「ルークまで……だから起こさねえって。ただでさえよく覚えてない元クラスメイトから連絡あったり、めっちゃ遠い親戚から金貸してとかトラブルが多くて困ってるんだから、自分から増やしたりしねえよ」


 ゲンナリといった様子でため息を吐くシド。

 知名度が爆発的に上がって困ったことの一つがこれだ。本当かどうかもわからない、顔も名前も知らない遠縁の親戚からいきなり金の無心を電話が来るのはちょっとした恐怖である。

 あと、小学校の時に仲が悪かったクラスメイトが馴れ馴れしく連絡してくるのにもイラっときてたりする。

 友人たちも、この話題には興味深そうだ。

 

「やっぱあるんだな、そういうの」

「あるある。キッツイぞ」

「それ聞くと有名人にはなりたくないはな。戦場で活躍してテレビに出るような人生じゃなくてマジで良かったわ」

「安心しろ、こんど俺の一番の親友として全世界に紹介してやる」

「やめろバカ! 就活が全滅しそうだったら頼むかもだけど、それ以外でやったら殺すぞ」

「頼むのかよ。シドのこと利用しまくりじゃん」

「あと、今シドを殺したらヒーステン伯爵への利敵行為とかになりそうだな」

「わかった。殺すのは内乱が終わってからだ」


 殺すだの殺さないだのと、最近のシドの周りを思えば空虚な響きに聞こえるセリフを聴きながらシドは「殺されてたまるかっての……」と呟き、ビールにちょびっと口をつける。

 昔は自分も容易く発していた言葉だが、今は受け止め方が違うのは、自分が人を殺したからだろうか。

 楽しそうに笑う友人を見て、シドは少し胸がシクリとする。

 追加注文したドリンクが届いたことで一旦会話が途切れたが、店員が部屋を出ると再度話が始まる。

 口火を切ったのは小太りのリックだ。


「聞きたいんだけどさ、傭兵とかやってると裏の事情とか知るもんなのか? ほら、それこそヒーステン伯爵の件とかさ」

「あー、それ俺も気になるわ。どうなん、シド?」


 茶髪のハマーも興味津々といった様子で詰め寄ってくる。見れば、メガネのジオと優男イケメンのルークもジッとこっちを見つめていた。


「あー……」


 シドの脳裏に反乱の原因と言われる第三王子のことや〈レッドドラゴン海賊団〉の戦闘用AIのことがよぎる。

 どれもこれも間違っても口を滑らすわけにはいかない内容だ。

 シドは気まずそうに頬を掻き、友人たちからフイっと目戦を逸らした。

 先日のノアたちが自宅に来た時のことといい、こういう場面で演技ができるようになればいいのだが、まだ先は長そうである。


「なんかあるのか!?」

「えっ、ちょ、ウソッ!?」


 シドの反応に色めき立つ友人たち。

 まさか本当に秘密があるとは思っていなかったので、「瓢箪から駒」だとばかりに驚いている。

 彼らはぐぐいっとテーブルから身を乗り出した。


「聞かせて聞かせて」

「誰にも言わないから」


 だが、決して喋れる内容ではない。

 シドは固く口をつぐんで必死の形相で首を横に振り、言えないと猛烈にアピールした。


「……なんかマジっぽいな」

「スゲェヤバそう……」

「こんな顔色の悪いシドくん初めて見た……」

「わかった聞かない! 聞かないから、落ち着け! はい、この話は終わり!」


 そのジェスチャーでよほどの事情があるのだと察した友人たちは浮いた腰を落としてそっと席に座り直す。

 リックが話を打ち切ってくれたことで、シドはやっと安堵の息を吐くのだった。

 「英雄」にも人に言えない苦労があるのだと知り、4人の友人たちは無邪気に囃し立てられないと、ちょっと反省する。


「あーっと……なんか新しいの飲むか!」

「だな!」


 ハマーとジオが変な風になった空気を変えるためか、テーブルの上のタブレットを手に取り、飲み放題メニューから次の酒を注文していた。

 リックもそれに乗り、「日本酒のソーダ割り!」とやけに大きな声で注文を告げていた。


「あっ、そうだ! ルミちゃんとかアレサちゃんとか覚えてる? 小、中で一緒だった」


 ルークも、眉が下がった困り顔で別の話題を振ってきた。

 大人になった彼だが、こういう気まずい雰囲気になった時に困った顔で話を逸らそうとする癖は小さい頃と変わらない。

 もっと言えば、ハマーとジオが何か別の行動をしようとするのも、リックが大声になるのも子供の頃からだ。

 22歳になろうとも全員がシドの知る彼らのまま。

 きっと彼らから見たシドも同様なのであろう。

 思えば、傭兵になった自分にもこうして昔と変わりなく接してくれるあたり、4人は本当に良い友達である。

 内心で彼らに感謝しながら、シドはコクリと頷く。


「覚えてるけど、どうしたんだ?」

「いやさ、彼女たちが就職先をこの白馬コロニーで探しているって風の噂で聞いたんだ。他にも何人かいるって聞くし、シドくん狙いかもね」

「マジか……」


 その二人は、シドの記憶では自分のようなゲーマーに興味を持つタイプではなかったはずだ。

 他にもいるかもと聞くと、なおさら頭を抱えたくなる。


「モテるのも大変だね……」

「バレンタインでチョコを溢れるほど貰ってたお前に言われたくねえよ。嫌味か」

「そんなつもりはないんだけど……」


 将来広告代理店に就職することで女性に更にモテそうな友人の顔をジト目で見て、シドは残り少なくなったジョッキのビールを勢いよく飲み干す。

 こうして旧友たちとの楽しい夜はゆっくりと更けてゆくのであった。

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