第59話 白馬に誕生したBランク傭兵
〈レッドドラゴン海賊団〉が壊滅した後、シドたち白馬ギルドの面々はほぼ徹夜で事後処理に追われることになった。
周囲に残党がいないかの調査、機体が損壊したメンバーを安全な場所へと移送、関係各所への連絡などなどと、ただでさえやることが多いのに加え、海賊が戦闘用AIなど持ち出してきたことが話が途轍もなくややこしくさせた。
これが無ければ「悪い海賊は全員ぶっ殺しました。証拠(撃沈した戦艦や廃タンカー)は渡すので、あとの捜査はお願いします」と警察に伝えるだけで終わったのだ。
戦闘用AIの使用は、最悪の場合には第二の人機大戦にも繋がりかねない重大な犯罪である。
管轄なのでシャモニー子爵領の警察も来るが、とてもではないが地方の小領地の警察組織の手に負える事件ではない。当然、公安や国際警察機構からも捜査官を派遣する流れになる。
そして、彼らが到着するまで現場保全を誰がやるのかというと、それは言うまでもなく現場にいる白馬ギルドの傭兵たちだ。
国際的なレベルの大事件となれば、普段は大雑把な白馬の傭兵たちも真面目に働かなくてはいけない。
まずは取り急ぎで犯人グループの生き残りがいないか調べてくれと警察から依頼されたシドたちは、無重力無酸素状態の海賊艦内に突入。死体が漂う艦内を手分けして隅から隅まで調査することになった。
結局、廃タンカーまで調べたが海賊の生存者は誰一人おらず、シドたちの艦内探索は徒労に終わる。
ワープ船で地元警察や特別捜査官の第一陣が到着し、彼らに現場を引き継いだ頃には誰もが疲労困憊。
傭兵一同は調書作成を後日に回してもらい、途中の小型宇宙ステーションで仮眠を挟みながら白馬コロニーに帰還したが、その頃には日付はとうに変わっていて、翌日の昼になっていた。
さらにその次の日、討伐隊のメンバー全員がギルドに呼び出された。
「えー、みんなお疲れ様。大変な事件だったが、全員無事で帰ってきてくれて僕も嬉しく思う」
50人以上の傭兵たちが集まっているのは、傭兵ギルド4階にある大会議室だ。
年季の入ったスーツを着て正面でメンバーを労うのは、各組織と夜通しで連絡を取り合っていたのだろう、寝不足でくたびれた顔をしたギルド長のマッテオである。
50代の彼の身体には、コロニー防衛戦以来の大事件はこたえたようで、疲労感が全身から溢れていた。
だが、どんなに疲れていても責任者として通達すべきことはキチンと通達しなければならない。
マッテオは普段以上に覇気の無い声で現時点の調査で判明したことと、事件の今後の捜査について説明をした。
居眠りをしている出席者がいなかったのは、全員この件が気になっているからであろう。蛮族たちは珍しく神妙な様子でマッテオの話を聞いていた。
「――という事で、この〈レッドドラゴン海賊団〉事件は今後、王国だけではなく各国合同での捜査が開始されることになった。キミたちも証言を求められると思うから、その時は積極的に協力するように。なお、社会への影響を鑑みてマスメディアには箝口令が敷かれているので、キミたちも決して口外しないように。後ほどその旨が書かれた誓約書をマーズフォンに送るので、今日中に(電子)署名して返送してほしい」
人工知能は250年前のマザーAIの件から非常に危険視されている。「AI=悪」はこの時代の人間なら誰もが持っている共通認識だ。
それが実際に戦闘行為をしたと知られれば大パニックが巻き起こり、ヒーステン伯爵家と戦っている場合ではないほどの騒ぎにもなりかねない。
この処置に全員が納得した顔つきで頷いていた。
シドも、
(そりゃマスコミもアレを報道なんかできないわな)
と思っている。
死体がそこら中に浮かぶ中を探索させられたのはトラウマものの体験だった。
実行したのは間違いなく件の戦闘用AIだと断定されている。
無慈悲に……いや、慈悲とか無慈悲とかいう感情など元から無いのでその表現は不適切か。
誰かが入力したプログラムに従って人間を虐殺するAIが存在するなど人々に露見したらどんなことになるか想像もしたくない。
シドは普段ロナと接しているからAIだからという理由だけでどうとは思わないが、その製作者の人間性には恐怖を感じている。願わくは一生会いたくないと考えているくらいだ。
マッテオの話はまだまだ続く。
「あと、討伐隊全メンバーに王国傭兵ギルド本部から報奨金が届いている。一両日中に口座に振り込むので確認しておいてくれ。また、破損した機体の修理費は全額ギルド本部が出すので、各々金額を算出してギルドに申請してほしい」
「えっ、マジっすかギルド長?」
機体が半分吹っ飛んだ機体もあったが、それの修理費も全額ギルド本部が出すらしい。
太っ腹な話に出席者から疑問の声が上がったが、マッテオは当然といった顔で首肯した。
「AIとの戦闘で出たギルド員への被害は本部の方で補填することになっている。規定にも書いてあるから、読んでみてくれ」
「いや、面倒いんで、そこまではいいっす」
「……まあ、うん。とりあえずそう書いてあるから」
この大盤振る舞いもAIが人類の敵対種と位置付けられているからである。
軍隊でもAIと戦闘した者には勲章が与えられるなど、特別な配慮がされていたりする。
『シドも興味ないでしょうが、キチンと記載されています。因みに第18条にありますよ』
シドにはロナがそう教えていたが、周りの傭兵で規定書を調べようとしている者は誰もいない。
金が貰えるならなんでもいいという顔つきだ。
「……こほん。さて、もう一つ通達がある」
気を取り直してマッテオは話を続ける。次がある意味このギルドにとって最も重要な通達事項である。
「今回の功績によりマッケンジー・ウォルシュくんをBランク戦闘機乗りに昇格することが決定した。ウォルシュくんには今後一層の活躍を期待したい。頑張ってくれたまえ」
今まで積み重ねてきた実績に加え、AIとの戦いでの的確な陣頭指揮と、その撃破が評価されたようだ。
マッテオの言葉が終わった瞬間、会議室が沸き立った。
傭兵たちはワッと歓声を上げ、笑顔でイスから立ち上がりマッケンジーの周りに集まる。
彼が慕われているのがよくわかる光景だ。……本人は迷惑そうに顔を顰めているが。
「おめでとうございます、マッケンジーさん!」
「さすがです!」
「マッケンジーさんなら絶対Bランクになると思っていました!」
「鬱陶しイ! 離れろ馬鹿ドモ! 俺にじゃれつくナ!」
「まあまあ、落ち着いて。お祝いしましょ、ねっ、お祝い」
「ギルド長の奢りっすよね?」
「多分そうだろ?」
「ここにいない他の連中にも教えないと。あとは祝賀会の店も押さえないとだな」
「この人数が入れる店あるか? ……3箇所くらいでやってマッケンジーさんに廻ってもらえばいっか!」
「誰が廻るカッ!」
そんな風に嫌そうな顔で文句を言いつつも、頼めば全部に顔だけは出してくれそうなのがマッケンジーが人付き合いが良いと言われる理由の一つである。
祝いの声で途端に賑々しくなった会議室。
マッケンジーのBランク昇格は一大事だが、もう一人の功労者の存在も忘れられてはいなかった。
「……ん? てか、だったらシドもランクアップじゃね?」
「あっ、そうだ!」
「Bランクに内定してるってノアが言ってたけど、Aランクになるのか?」
「さあ?」
マッケンジーが昇格するならシドはどうなんだという疑問に、部屋中の目がマッテオに集まる。
マッテオは困ったように「あはは……」と苦笑いしていた。
なお、余談だが彼は奢る気はサラサラ無い。むしろ頭の中では早く帰って寝たいとばかり考えている。50を過ぎたら激務のあとに若い衆と一緒に飲みに行く体力はそうそう無いのだ。
「ワークスくんは……なんというか他にも功績が色々とありすぎてね。正直、Aランクかそれ以上かで本部も意見が割れているんだ。だからFランク期間が終わったらひとまずBランクに昇格して、本部にて実績を精査してどうするかを決定する方向で話が進んでいるところだ」
「「「あー……」」」
マッテオの説明になるほどと納得する一同。
ただ一人シドだけは「もうそんな話に!?」と驚いていたりする。アイハムには遠からずSランクになると言われていたが、まだ数年は猶予があると信じていたのだ。
Sランクになる前に区切りのいいところで傭兵業を辞める計画を人知れず立てていたシドにとってはバッドニュースだ。
そんなシドの心中を知ってか知らずか、マッテオは大丈夫だと力強く頷き、こう言ってこの日の連絡会を締めくくった。
「僕個人の意見では、ワークスくんはSランクに相応しい人物だと思っている。会議の際にはそのように働きかけるから期待していてくれ」
そう真っ直ぐに言われたら、シドもやめてくださいとは言いづらい。それにもうギルド本部でも昇格自体は確定しているようだ。
これに文句を言って固辞しては、マッテオに迷惑をかけた上に、白馬ギルドの面々の喜びに水を差すことになるだろう。
シドは無駄な抵抗を諦め、周りが大いに盛り上がってマッケンジーの昇格祝い兼シドの昇格前祝いの店を選ぶ中、泣く泣く「ありがとうございます」と伝えたのであった。




