第104話 殺到するセールスマン
「ロナー、大会終わったぞー」
ネイサン・ベノワとの決勝戦を終え、表彰式まで済ませたシドは上機嫌でリビングに入ってきた。
『お疲れ様です。ここで観ていましたよ。優勝おめでとうございます』
「おう、ロナが特訓に付き合ってくれたおかげだ。ありがとな。……ところでその姿は?」
『アナタを応援していたのですが……変ですか?』
「変というか……う〜ん……」
シドはロナの格好を見て言葉に窮した。
ロナはテレビをネットに繋ぎ、大画面で彼を応援していたようだ。
そこまでは良いのだが、どうしてかロナはゲームに出てくる女性キャラの姿になり、首にマフラータオルをかけていたのである。
『なんですかその珍妙なものを見るような目は? アナタだってスポーツで贔屓のチームを応援する時は似たような格好をしているではありませんか』
「そうだけどさ……」
ロナがコスプレしているのは、神楽を舞うことで神様の力を借りて戦うクールな巫女キャラで、見た目は純和風の黒髪美女だ。
メタモルシェルを薄く伸ばし、中身を空洞にすることで頭身を確保したのか、身長もシドの胸元ほどまである。
しかし、その清純そうな乙女が巫女服の上に派手な色の応援タオル、よく見れば「シド・ワークス」と名前がプリントしてあるものをかけ、白くてスベスベのほっぺに「FIGHT!」とフェイスペイントまでしているのはかなりチグハグだ。
色々とツッコミたいが、とりあえずシドは一番気になったことを聞いてみた。
「どこで見つけてきたんだ、そのタオルは?」
『タオルにネームプリントしてくれる所なんでいくらでもありますよ』
「オリジナルかよ」
『どうです? なかなか悪くないデザインでしょう?』
わざわざ作ったのかと驚くシドに、ロナは自信満々にタオルを広げてみせた。
「まあ、確かに」
シドが頷いたその時、インターホンがピンポンと鳴った。来客のようだ。
「おっと、誰か来た。ちょっと見てくる」
『わかりました』
シドはロナにそう言ってインターホンの所まで行き、画面を見る。
するとそこにはマンションのエントランスに立つ、スーツ姿の若い女性の姿があった。なにやら営業スマイルのようなものを浮かべているが、見覚えがない人物だ。
シドはインターホンのボタンを押して応答する。
「はい」
シドの声が聞こえると、女性はすぐさま反応し、笑顔のまま自己紹介を始めた。
『お忙しいところ失礼いたします。私ジュエルスター社で営業担当をしておりますタリア・アダムスと申しますが、こちらシド・ワークス様のご自宅でお間違いないでしょうか?』
「は、はい、そうです」
言い慣れた様子で自己紹介をした女性は、ソリスティア王国の老舗軍需会社であるジュエルスター社の社員らしい。
ジュエルスター社といえばエールダイヤやエメロードを開発した会社でもあり、シドもよく知る名だ。
タリアと名乗る女性はグイグイッと前のめりになるような感じで用件を告げてきた。
『突然の訪問申し訳ございません。実はワークス様が新しい戦闘機をお探しと耳にしまして、お力になれればと参りました。よろしければ少々お時間いただけませんでしょうか?』
「は、はあ……」
口調は丁寧だが、なんか妙に力が入っているような気がする。
なんというか、女性の背後に「なんとしてもでもこの商談を成功させるぞ」と燃え上がる炎が見えるのだ。
どうしようかと問いかけるようにロナの方へと目線を向けると、インターホンから『あーーっ!』と叫ぶ男の声が聞こえてきた。
「なんだっ!?」
ビックリしてシドがもう一度インターホン画面に目を向けると、そこには新しくスーツ姿の男性が映っていた。
男はズカズカとタリアに近づき、大声で言った。
『おたくはジュエルスター社の! ちぃ、出遅れたかっ!』
タリアはあからさまに迷惑そうな顔をして男を追い払おうとする。
『ちょっと、私が先に来たんですよ。割り込もうとしないでもらえますか?』
『ん? もしかして繋がっているのか?』
タリアがそう言ったことで男はインターホンがシドと繋がっていることに気がついたようだ。速やかに営業スマイルを作ると、タリアの横に無理矢理ぎみに並んでシドに話しかけてきた。
『おお、これは失礼しました。私は六八重工のジョンソンと申します。シド・ワークス様には、ぜひ新しいご乗機として我が社の機体をご検討――』
『だから割り込まないでって言ってるでしょう!』
カメラの前で肩を押し合う二人。
用件はどちらも同じ。シドの新機体についてだ。
考えるに、先程の大会での発言を聞きつけて駆けつけたらしい。
(インタビューで俺が「乗り換える」って言ったからだよな? あれからまだ30分も経ってないぞ!?)
移動時間を考えるとインタビューを聞いて即座に会社を出たのだろう。あまりの行動の早さにシドは慄いた。
そうこうしている内にさらに事態は悪化する。
二人がインターホン前で揉み合っている間に、同じ目的で来た営業マンたちが次から次へと到着したのだ。
『しまった遅かった!』
『ワークス様、どうかお話だけでも!』
『ちょっと! 順番を守りなさいよ!』
『後から来たやつは大人しく帰れ!』
『こっちはCEO直々のビデオメッセージを預かっているんだ! 見てもらうまで帰れるか!』
『我が社の社運がかかったプロジェクトなんだぞ!』
『それはどこも同じだ馬鹿野郎!』
エントランス入口に20人弱は集まっているだろうか。
こうなるともう秩序もへったくれもない。
鮨詰め状態になりながら、いい大人が揃いも揃って必死になってアピール合戦をし始めた。
『ゴチャゴチャうるせえ! ご本人のお気持ちが最優先だろうが! ワークス様、我が社は必ずやお客様のご期待に応えます!』
『この間、お前んとこの旅客機がエンジントラブル起こしただろうが! 引っ込め!』
『ワークス様、我々はボルトの一本まで特注品をご用意いたします!』
『その程度当たり前だ! どなたの機体を作ると思ってんだ!』
『ぜひお渡ししたいものが――』
『あっ、こいつ賄賂送るつもりだ! 通報しろ、通報!』
誰も引き下がる様子はない。そろそろ怪我人が出そうな勢いだ。
繰り広げられるパニック寸前の大騒ぎに、シドは恐ろしくなってきた。
「ロナ、どうしよう……」
『もう全員帰ってもらったらどうですか? 近所迷惑です』
面倒くさそうな顔でロナはバッサリとそう言った。
確かに彼らが出入り口を塞いでいたらみんな困るだろう。なんだったら既に警察に通報されていてもおかしくないくらいだ。
「……そうだな。ちょっと帰るように言ってみるよ。……聞いてくれるかわからないけど」
『聞いてくれないのでしたら警察に引き渡しましょう。会話を録画しておいてください』
「わかった」
シドは覚悟を決め、インターホンの録画機能をオンにしてから彼らに帰るようにと告げるのだった。




