Come Home! 5
仕事を早々に終えてバスルームへと消えていった惺に、タクミは部屋――主にキッチンであったが――の探索を始めた。
「お、一通りの調味料とかは揃ってる。
うわー……これ、俺だったら絶対に買わないぞ。
値段めっちゃ高いじゃん」
上の棚まで探索をし、タクミが探索に満足した所で惺が戻ってきた。
「タクミ」
「うん?」
「……入浴剤、入れ過ぎちゃったとか、そういうレベルじゃないだろう。
全部入れるバカがいるか?」
「俺ー!
だって、多い方が面白いかなーって思ったんだ」
「気をつけろよ。身体が資本なんだからな」
タクミが思っていたよりもあまり声を荒げる事もなく、彼は寝室と思わしき方へ向かった。
「タクミ、ついてこい」
「うん」
呼ぶ声に対し、素直に従う。惺の所へ辿り着くと、そこには一つのベッドがあった。
「今日からお前はここで寝ろ」
「へ?」
思ってもいない言葉にタクミは声を裏返らせた。惺はさも当然だというような態度を取っている。
「俺はリビングのソファで寝るから心配いらない」
「それ、俺の台詞じゃない!?」
「何でそうなる」
互いの意志が通じず、けんか腰になりつつあるのに気が付いた惺は、一つ小さく息を吐いた。
「立場を忘れたか?
俺はお前のマネージャーだ。
サポートすべき人間をベッドに寝かせず自分が寝られるか?」
「それは……そうかもしれないけど」
「なら、ここで寝ろ」
「えぇえー!」
不満そうにするタクミを尻目に部屋から立ち去ろうとする。
「惺さん!
俺、惺さんがここで寝ないなら俺も寝ないからなっ!」
「……は?」
惺は彼がやってきてから、もう何度目か数えられないくらい同じ言葉を言っている。その事に気が付いているのか、再び息を吐いた。
息を吐いた事が気に障ったらしい。タクミが荒々しくなった。こうなるとやはり手に負えない。
「なら、俺がベッドで寝たらお前はどうするんだ」
「ん?ソファで寝る」
「そりゃ駄目にきまってんだろ」
会話が結局最初に戻ってしまう。二人はそのまま一時間近く揉め続けたのだった。
「分かった」
「!」
タクミの一言に惺が疲れ切った顔を向ける。心なしかその顔には笑みが浮かんでいるようだ。ようやく理解してくれた、そう思っているのだろう。
「一緒に寝れば良いじゃん。
この大きさなら俺ら二人でも、寝れない事ないし?」
惺は静かに肩を下げた。これ以上揉めていても仕方がない。それにもう遅い時間だ。今日の所は従うしかなさそうだった。
「……分かった。
今日の所は、そうしよう」
「おっしゃ!」
存外に楽しそうなタクミに、惺は苦笑するしかなかった。タクミは早速と言わんばかりに、ベッドへ潜り込む。
「今日はも寝るんだろ?
早く寝ようぜ」
潜り込んで、腕をぱたぱたと振る姿はまるで子供のようだ。
「分かった、分かった。
すぐ行くよ」
そう言うなり惺もベッドへと潜り込んだ。潜り込むと先に潜り込んだタクミの体温が移ったのか、ほんのりと暖かい。
「へへっ。
こういうの、久しぶりだなぁ……」
「まぁ、久しぶりというか……何というか」
嬉しそうなタクミ、微妙に困ったような表情の惺、そうそう見られる事のない組み合わせだ。タクミと惺は二人揃って天井を見つめる。
「おやすみなさい、惺さん」
「あぁ、おやすみ」
短い言葉が交わされ、静けさが部屋を支配した。
「ん……」
やけにぬくぬくとしている。とても暖かい。今まで泊まらせてもらっていた時と違う感覚にタクミは目を覚ました。そしてどことなく身体が重い。
「え?」
首を動かしてみると、どうやら惺の腕がタクミの上にあるようだ。重いわけだ。このまま動こうとすると、起こしてしまう。どうしようか。少し身じろぎをした。
「……っ!」
身じろぎに反応したのか、惺の腕が動いた。離れていくのだろう、とほっとするタクミを余所に彼の腕は逆の行動を起こす。タクミを引き寄せて、抱きしめる。
「ん……」
小さな呻き声を出すが、起きる気配はない。惺の動きに思わずタクミは固まる。動かなくなった事に満足したのか、そのままの状態で落ち着いてしまった。
「……えぇー」
不満そうな呟きを漏らす。それでも呟きは小さく、惺を起こすまいと配慮された大きさであった。これでは暫く起きれそうもない。いっそのこと、もう一眠りしてしまえ。タクミはゆっくりと瞼を閉じた。
何だか今日は寝心地が良い。惺はうとうとと夢うつつに思った。ぽかぽかする。それに何だか……こう、丁度良く身体にすっぽりと納まる――
「……は?」
すっぽりと納まる何かに顔を擦り寄せようとした瞬間、そんな存在がいる事に驚いた。そんなのは今いない。なら、何なんだ。
恐る恐る寝ぼけた頭でゆっくりと目を開くと、そこには惺に抱きしめられたまますやすやと眠るタクミの姿があった。
すみません、お待たせしました。




