Come Home! 6
「タクミ……?」
そう、惺は泊まる場所のないタクミを家に招いたのだった。彼は自由な方の腕で軽く頭を掻いた。こんな態勢で寝たか? と疑問に思うもの、タクミは微かな笑みすら浮かべ、寝入っている。
惺は久々に他人と同じベッドで寝たからだな、と冷静に判断し、彼を起こさずに自分が起きるにはどうするべきか考え始めた。その間も、タクミはすやすやと寝息をたてていた。
そう簡単には起きる事はなさそうだと結論付けた惺は、まずタクミの下敷きになっている腕を動かそうとした。もぞもぞと動くと、不満そうなタクミの唸り声が上がる。その様子に苦笑しながら腕を抜こうとした瞬間、タクミの腕が伸びた。
「おいおい……」
惺から離れてたまるかというような勢いでタクミは抱きついてきた。離れていく体温を自然と追いかけたのだと予想はつく。そんな彼を無碍にはできず、動きを止めた。
「んん……っ」
満足そうな笑みを浮かべ、更に纏わりついてくる。挙句、惺の胸元に頬ずりする始末だ。
「そういう趣味はないぞ、タクミ」
年の離れた弟がいたら、こんな感じなのかもしれない。そうぼんやりと考えていた。胸元にある、わざわざ黒染めした髪に手が動く。無意識に動いたそれは、彼の頭を撫でた。朝の目覚め方としては、これもまあ悪くはないなと口許を緩めながら思っていた。ほんの、少しだけでそれは砕けたが。
「いっ……!?」
するりとタクミの脚が絡みついてきたのだ。それも、脚の間に割り込んでくる。惺と身長に差のある小柄な彼の太腿が、ちょうどあたってくる。大切な所に。脚の位置が気に食わないのか、タクミは脚をもそもそ動かしている。
太腿の内側を撫ぜられる感覚と、朝特有の生理現象からくる疼き、そしていつソコに再びタクミの太腿が触れてくるかもしれないという状況が普段冷静な彼を襲っていた。起こす事を厭わずに、思い切りタクミを剥がせば解決するはずであるが、ほぼ思考停止状態になった惺は動けなかった。
このような状況に陥ったのはかなり昔の事だ。それも相手は女だった。今回は何もかも違う。相手と寝てもいないし、そもそも性別は男だ。女であれば、責任とってもらうという事で起こすのもありだろう。今回はそんな事できないし、むしろ違う世界の扉を開いてしまう。そんな事は嫌だった。まだ普通でいたい。
こんな葛藤も知らず、擦り寄り眠るタクミ。惺は穏やかな気持ちと自身の危機的状況の板ばさみであった。ふと、タクミの表情が歪んだ。その意味を考える時間すらなかった。突如訪れた、いつかは来るかもしれないと、しかし来なければ良いと考えていた事が起きたのだ。
「〜〜!!!」
タクミは縮こまるように動き、その膝が押し当てられたのである。そのまま擦り付けられ、やや強めの刺激が彼を襲う。突然強くなった刺激に何も考えられなくなった惺は、タクミの肩を強く押し、彼が衝撃で起きる可能性も考えず動いた。それは、一瞬の出来事だった。肩を押された事によって仰向きになったタクミに、覆い被さるように身体を回転させた。
一見怒っているとも取れそうな、どこか焦った表情が、タクミを睨みつける。それは、顔が触れてしまいそうなほど近かった。されている本人は眉を潜め、次の瞬間にはパチリと丸い、ややつり目気味の目が開かれた。
「惺、さん……?」
「いい加減起きろ」
かなり近い惺の顔に、瞬きを数回するとタクミは真っ青になった。何も考えずにこんな体勢に持ち込んでいた自分に後ろめたさを感じていた惺は、ゆっくりと体勢を起こした。
「ご、ごめん惺さん……
俺寝坊した感じだよな?」
どうやら惺が覆い被さっていたのは、全く起きる気配のないタクミに痺れを切らしたからだと思っているようだ。惺は気まずいながらも、それを出さないように気をつける事にした。
「まあ、誰かさんが俺に抱きついたまま起きないし?
それに仕事があるだろ。
俺と一緒に暮らすんだから遅刻は許さん」
「うっ」
うっすらと涙浮かべるタクミを尻目に、惺は着替え始めた。しょんぼりとした彼は、ペタペタと音を立てながらリビングへと移動していった。
何となく、彼に悪い事をした気持ちがしている惺は、今夜はどこか美味い店にでも連れて行ってやろうと決めたのだった。
部屋から出た惺が見たのは、キッチンに向かう彼の姿だった。なぜか自前のエプロンをしている。あの荷物の中にあったのだろうか。改めてキッチンでゴソゴソしているタクミの事を訳のわからない生物だ、と思いつつ足を向けた。
「あ、惺さーん! 俺が朝ごはん作るなー!」
近づいてくる惺に気がついたのか、元気の良い声が部屋に響いた。
すごくお待たせしました( ;´Д`)
亀の歩み過ぎですみません。




