Come Home! 3
二人でまったりとコーヒーを飲んでいると、タクミが突然叫びだした。
「ああーーーー!」
「どうした?」
なぜ叫ぶのか事情が掴めない惺は眉間にしわを寄せた。
「お……俺の大切な、ヌイ子を置いてきたっ!」
「……は?」
聞き覚えのない単語に彼は不振な視線を向ける。そんな事にはお構いなしにタクミは叫び続ける。
「オネーさんの家にヌイ子を置いて来ちゃった!!」
会話が成立しない、と頭を抱えそうになる。そもそもヌイ子って何者だ。
「うわーん!
どうしよー、惺さあぁあぁぁん!!」
それくらい自分で考えて欲しいものだが、このまま放置しておくわけにはいかない。近所迷惑だ。
「取りに行けばいいだろう。
……遠いのか?」
遠いのならば、車を出してやろうかと思案していたがタクミは違うという。
「大丈夫なんだけどね。
でも、もう来るなって言われた手前……行きにくいじゃん」
「そっちか」
「うん」
肩を落としてぼそりと言う姿に、頭を軽く押さえた。
「男らしく、正直に言って返してもらってこい」
深い溜め息と共にはき出された言葉を聞くと、うなだれながらもしっかりとした返事が返ってくる。
「……うん、頑張ってくる」
出て行こうとする背中に向けて、惺は声を掛けた。
「うまい夕飯、作って待っていてやる。
しっかりやってこいよ!」
タクミが出て行った後、冷蔵庫を覗いた惺は顔をしかめた。食材が整っていない。仕方ない、と彼は買い出しに行く事にした。
人を家でもてなすのは久しぶりだ。どんな料理が喜ばれるだろうか。少しずつ楽しくなってくる自分の心を、これ以上盛り上がらないように買い出しを早々に切り上げた。
惺が丁度夕飯を作り終えた時、タクミが帰って来た。
「ただいま」
自分以外の者が、ただいまと言う。惺は不思議な感覚に包まれた。
「おう、どうだった?」
「一応普通に対応してくれた」
あまり面白くなさそうに答えるタクミに、思わず苦笑する。溜め息を吐いて、どっかりとソファーに座り込んだ様子はとてもじゃないが、女の子に追いかけ回されるような人間に見えない。
「良かったな。
丁度夕飯もできたとこだったし、早く食おうか」
熊のようにソファからのそりと離れる様子が笑いを誘う。それを何とかこらえながらテーブルへ食事を並べ始めた。慣れない手つきで運ぶが、それに気付く気配はなかった。
「惺さん!」
「ん?」
目を輝かせて言う彼の様子に惺は不思議そうに反応した。
「めっちゃ美味そうじゃんっ!?」
「……今日はタクミの好きそうな物を、と思って」
そう柔らかく笑う惺の持っている皿に盛られているのは、良い具合に焼けた鮭だった。惺は以前、タクミに鮭は川で捕るのか海で捕るのかどっちなのか聞かれた事があった。どうでも良い質問ではあったが、鮭に興味がなければそんな事聞かないだろう。そうか、鮭が好きなのか、と勝手にその時解釈していたのだった。
「確かに俺、鮭好きだけど。
って、わぁポテトサラダもある!」
ジャガイモを使用したメニューの時、タクミはどんなに不味くても何も言わずに黙々と食べていた。他のおかずが不味かったとしても、ジャガイモさえ献立の中に入っていれば文句を言わない。
「ジャガイモ、好きだろう?」
「うんっ!
でも、何で分かったんだ?」
不思議そうに首をかしげるが、惺は秘密だと言って答える事はしなかった。




