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With a . . .  作者: 魚野れん
Come Home!
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2/6

Come Home! 2

 車を走らせる事約10分。ウィンカーが左を示し、車はそのまま近くにある駐車場へと向かい始めた。タクミはきょろきょろと辺りを見回して言った。

(さとる)さん、もしかしなくてもココ?」

 変な顔をした彼に、笑いながら惺は答える。

「あぁ、そうだが」

 どことなく困惑している様子のタクミを見ながら、器用にバックで駐車する。切り返しせずにうまく駐車した惺に対してタクミが感激する。

「前から運転上手だって分かってたけど、すげー巧いんだな!

 俺なんか、何回も切り返ししちゃうんだ〜」

 確かにタクミの運転はあまり上手とは言えなかったなと思いながら、車から降りるように促した。自転車を降ろすように指示をして惺は自分の荷物と彼の荷物を持ち出した。自転車を抱え込んだまま慌てるタクミを笑い飛ばして先に進んでしまう。

「ほら、ついてこないと俺の家には辿り着けないぞ」




 惺に言われるまま自転車を駐輪場に置き、彼の住む場所へと移動する。建物は超高層マンションで、彼の住む階はとても階段では行けそうにない程上にあった。

「さ、どうぞ」

 そう言われてタクミが入れば、大きなリビングが目の前に広がっていた。

「すげー……」

「そうか?」

「すげー、すっげー!」

 感激のあまり、スゴイを連発しているタクミに惺は苦笑した。偶に彼はこの青年のテンションについて行けない。そろそろ年なのか、と思いつつ青年の声を聞いていた。

 タクミの分の荷物もそういえば持ったままだったな、と思い出した彼はリビングへと進むと適当な所へ荷物を置いた。持たせたままだった事に気付いたタクミはバツが悪そうに謝った。

「気にしてないから良いよ。

 俺はお前のマネージャーだし、雑用くらい構わないさ」

「いや、だって……あ・の・惺・さ・ん、だよ!?」

 未だに昔の自分を引き出される事が多い。別に現在進行形じゃないのだから、関係はないのではないかとよく惺は考えるが、ファン心理から言うとそうじゃないらしい。

 いつまでも誰かに憧れられるというのは悪い気はしないが、ここまで言われると逆に距離感を感じて少し悲しくなった。

「現在は全然、尊敬されるような事してないから。

 過去の事は過去の事で、今とは関係ないだろう?」

 そう、このはしゃぎ回っていて少し煩わしく感じる生物に言い放つと、意外な返事が返ってきた。

「そだね。

 惺さんは惺さんだよね。

 ……確かに、昔の惺さんとは違う気がするし」

「そうか」

 簡単に割り切ってしまう、その思考力に感心した。

「今の惺さんの方が、バンドの時の惺さんより好きだ」

「……そうか」

 ファン思考ではない、まっすぐな好意を初めてタクミから受けた彼は少し動揺した。純粋に嬉しいと思った事に照れを感じたのだ。しかしそんな思いに浸っていられるのは数秒だった。

「なぁなぁ、マネージャーってそんなに儲かるのか?」

 今までの会話とは別次元の話題を出され、一瞬動きが止まる。細かい事を一々気にしたりしないタクミはそれに気が付かない。

「いや? 全く」

「じゃ、どこからこんな家を持つ金が……」

 マネージャーの仕事では無理だと、何となく感じ取っていたタクミはぽかんとしながら聞いてくる。惺はキッチンのコーヒーメーカーのスイッチを入れた。彼は紅茶よりコーヒーの方が好きだった。コポコポという音が小さく響き始める。

「あぁ……俺、社長やってるから」

「はっ?

 社長!?」

 ぽかんとしていた青年は思わぬ発言に大声を出した。耳を塞ぎながら不満げに大声出さなくても聞こえてるよ、と惺が答えた。

「小さいけど、ウェブデザイン系の会社を運営しているんだ」

「実はマネージャーって副業?」

 少し引きつった笑顔で聞く彼に、軽く答える。

「うん」


「うっそぉおおぉぉぉぉぉ!!」

どたどたと賑やかに詰め寄り、大声で喚く。喚かれた側は堪ったものではない。眉を一瞬ひそめるも、大人げないと思い直した。

「あの日は、たまたま居合わせただけだったんだ。

 でも、面白そうだし……どうせ居ても居なくても変わらないマネージャーなら、やっても良いかなって」

 マネージャーが副業という驚きが未だに残っているのか、のっそりとした反応をする。

「何で、黙って……?」

 タクミの分のマグカップを用意する。砂糖とミルクを用意する為にゆっくりと移動した。掴みかかる勢いでやってきたタクミではあったが、移動の際に何も引っかかった感触がない。どうやら服を掴む事はしていなかったようだ。

「言ったら、お前らのテンションに関わるだろ?

 それに副業だとはいえ……バンド自体に関しては真剣にみているから、言う必要もないと思ったんだ」

 砂糖とミルクを取り終えた彼はテーブルの上に並べる。並べると言ってもタクミの座るであろう場所にだけしか砂糖もミルクも置いていなかったが。

「う〜ん……確かに、少しショック」

 どちらかといえば、軽い口調で話す様子にどんな心境の変化なのだと思わず惺は振り向いた。だが、そんな行動とは裏腹に感情に乏しい声が出る。

「だろうな」

「でも、なんかカッコイイから許してやる」

「は?」

 タクミを家に招待すると言ってから、まだ数時間しか経ってはいないが想定外の事が次々とやってくる。想定外の連続に、惺の声が遂にひっくり返った。

「ウェブデザインって響きが、カッコイイ」

「はぁ……」

 惺には、もはや余裕のある受け答えができていなかった。できあがったコーヒーをカップに注ごうとするので精一杯だった。

「で、ウェブデザインって……どんな仕事?」

 注ごうとした手がぶれ、数滴のコーヒーが零れる。それを取り繕うかのように彼は言った。

「……もう、この話は止そうか」

 テーブルに零れたコーヒーを拭い取りながら、タクミを椅子へと勧める。彼は不満そうな声を上げておきながらもそれに従った。

「あ、惺さん」

「ん?」

「このコーヒー、うまいね。

 今度淹れ方教えて〜」

 美味しそうに、頬を緩めて言うタクミ。本当にそう思っているらしい。

 コーヒーメーカーの質が良いんだ、と抑揚なく答えたが実際の所悪い気分はしない。惺は自分の家に人を招く事はあまりしない人間だったが、こういうのも悪くはないと思い直すのだった。

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