三十六発目 闘技場と宵の月
作者です。
仕事の都合でなかなか更新ができなかったりもしますが、よろしくお願いいたします。
俺とサラ、男たちは歴戦の戦士のような風格漂う受付のおっちゃんの案内で場所を闘技場へと移すことになったのだが、なんでおっちゃんが受付をすることになったのかわかった。
「案内してやるからついてこい。…………よっこらせ」
立ち上がって俺たちの前に出てきたおっちゃんは左足の膝関節より下がなかった。
鉄の棒のようなものを埋め込み簡易的な義足のようにしていたのだ。
「おっちゃん、一つ聞いていいか?」
「この足のことか? これはワシの油断が招いた結果だ。もちろんワシの足を食った魔物にも一矢報いてやったがな。ここに来る夢だけ見た馬鹿者たちに、厳しい現実を教えるのに役立っておるわ」
おっちゃんが、ガッハッハと笑う。
最初のムスっとした顔とは違うが、どこか自棄っぱちのような気がする。
でもまあ自分の不幸を他人に話せるのは素直にすごいと思う。
俺には無理なことだ。
だが、残念ながら俺が聞きたいのはその事ではなかった。
「いや、そうじゃなくて、俺が聞きたいのは杖がわりにデカくて長い斧ってどうなんだってことだ? おっちゃんは受け付けなんだし仕事に必要ないだろ。杖とかでいいんじゃないのか?」
おっちゃんは、柄の長さが二メートルはある斧を床から拾い上げて杖がわりにして立っていたのだ。
どう考えても受け付け業務に必要性がある獲物ではない。
所々使い込んだかんがある斧はよく手入れされていた。
俺はこのおっちゃんはこんな仕事ではなく、本当は外で思いっきり暴れまわりたいんじゃないかと感じた。
「ふん、杖とか、あんなか細い棒にワシの体を任せられるか。やはり使い慣れた相棒が一番よ。それにここに来る輩は血の気の多いのも結構いるからな。そいつらを黙らせるのにもこいつは必要だろ? 因みにワシの名はガイアス。お前さんの名は?」
おっちゃん、ガイアスという名前らしいが俺に興味を持ったのか名前を聞いてきた。
今の俺は十五歳程度の茶髪をポニーテールにまとめた愛され系美少女キャラの見た目で、とくに名前を隠す必要性も感じないし、どうせ冒険者登録されたら本名はバレるわけで素直に答える。
「俺はアルファだ。こっちの今から戦えることを心待にしてウキウキテンションあげてるメイド服のやつがサラだ。よろしくな」
「ワシの強面とこの相棒のおかげで、男でも初対面ではなかなか話しかけてこれない奴も多いというのに物怖じしない娘だな」
「ほら、俺って愛されキャラだから結構いけるかなって思ってる」
「たしかに相応の美貌だとは思うが、自分で言うか」
「そこが俺のいいところだ」
俺の答えにガイアスがガッハッハと笑う。
「ついたぞ」
ここは本来、決闘ではなく冒険者たちの修練の場としても貸し出されているということで、広さこそ一般的な体育館の半分くらいの大きさだが、何か魔法的なもので補強しているようで煉瓦作りの壁が薄く光っていた。
「中に入ったらあとはお前らの好きにやれ。命の危険がなければワシは介入せんからな」
そう言ってガイアスは闘技場入口の壁にもたれている。
「おっしゃっー」
「ガキども、今さら謝っても許してやらんぞ」
「望むところよ」
ヒートアップする男たちに、うちのサラさんが答える。
因みに、俺は全然こんな展開を望んでいないことを誰かわかってて欲しい。
だが、降りかかるなんちゃらは払わねばである。
「大人の実力ってやつを叩き込んでやる」
「別にいいけどさ。それって登場してすぐにやられる雑魚な奴がよく言う台詞だよな?」
俺とサラを見て息巻く男たちを見ながら、俺はため息をつきたくなる。
「サラ、あいつらの相手は俺が一人でしていいか?」
「え~、アルファばかりズルい!」
予想通りサラがブーイングを飛ばしてくる。
頬を膨らましている姿がなんとも微笑ましい。
「今度うまいもん奢ってやるから、それで手をうたないか」
「…………全部アルファの奢りで?」
「ああ、奢りでいい」
「わかった。こんな大きな街って初めてだし、食べ歩きってしたことなかったから、一回してみたかったんだ」
「まあ、現金収入が入ってからだが、そのときは好きなだけ食っていいぞ」
「やった~!」
うん、相変わらずのサラのチョロいんぶり。
まあ十三歳だしこんなものか?
サラには適度に暴れる機会と、うまい飯を与えておけば問題はない。
理由があれば、胸を揉まれても文句は言わない奴だ。
「というわけで、俺が相手になってやる」
俺は男たちの前に進み出る。
そんな俺の姿を見て、男の一人が首をかしげる。
「あれ、あいつのスカートあんなに丈が短かったか?」
「いや、そんなことなかったはずだが」
男たちが驚くのも無理はない。
俺はついさっきまでの膝下丈のドレス姿ではなく、太股丸出しのミニスカート姿だったからだ。
激しく動くだけで下着がチラリしそうだ。
「このガキ、変態か?」
「でも、顔は上玉だし、よく見るとそれなりにいい体してるな」
「だな。こういうのも悪くないな」
男どもの喉がゴクリと鳴る。
サラのように巨乳ではないが、この十五歳の少女姿の俺も最低限の胸はある。
顔は文句なく美少女。
細身なボディと合間って、見るもの(ロリコン)が見れば、かなりいけてるはずだ!
「ほれほれ、俺の美貌に見とれてないで、さっさとかかってこいよ」
「なあ、受付のおっさん。おっさんは命の危険がなければ介入しないんだよな?」
「ああ、そうだ」
「悲鳴とかが上がっても命さえ無事ならいいんだよな?」
「だから、そう言ってるだろ」
ガイアスの返事をきき、男がいやらしく口元を歪める。
「へへへ、お嬢ちゃんらそういうことらしいぞ」
「お前らなんかに言われんでもわかってるって」
さっきガイアスがいった台詞を男たちが理解できていなかったのかと少し心配になったが、ただの確認だったようだ。
記憶力のない本物のバカだったら、これから俺がしようとすることが無駄になるかもしれないから、ちょっと焦ったじゃないか。
「俺たちを舐めやがって! そんな格好をしてるんだ。たっぷりじっくり大人の世界ってやつを教えてやるよ…………ん!?」
「どうした…………なんだ、これは!?」
二人の男の動きが止まる。
というか最初から動き出せてない。
当然だ、男たちが闘技場に入ると同時に糸の精霊イートの『傀儡糸』で視認しにくい細さの糸を張り巡らせていっていたのだ。
ゆっくり時間をかけて。
その材料に俺のドレスのスカート部分の大半を使ったため、ミニスカート姿になってしまっていたというわけだ。
一本一本は弱い糸だが、一応は精霊の力で紡ぎ直された糸。
それらが束になれば、最早成人男性であろうと簡単には抜け出せるものではない。
もう始まったときには終わっていたのだ。
俺の完全勝利。
俺は一歩ずつ男たちの方へと歩み寄る。
「さあ、これで勝負って意味では俺たちの勝ちなんだろうがーー」
「…………」
「ーーお兄さんらもいい歳した大人なら、これで終わりなわけないってのはわかるよな?」
「!?」
「まずはお前ら全裸になってもらおうか。『傀儡糸』!」
「ヒィィ」
左人差し指に指輪状に編み込んでつけていた輝白銀の鋼糸により男たちの服や装備を切り刻む。
「嘘だろ。俺の装備が!」
「俺のロングソードまで!」
うん、今日も俺の鋼糸の切れ味は絶好調だ!
「さてと、ここからは俺の質問タイムだ。嘘をついたり黙っていたけりゃそれでもいいが、あまりおすすめはしないぞ。なんでも素直に話すんだな」
「もし嘘をついたりしたら?」
「う~ん、それが嘘だとバレた時点でこうだ」
男たちに絡み付けている糸を絶妙に振動させ、敏感な部分を刺激する。
「「!?」」
男たちの顔が快楽へと歪む。
「ア、俺たちの……敗けだ……アっ!」
「……おっさん、早く助……けろ……アっ!」
男たちの羞恥のこもった言葉にガイアスが深いため息をつく。
「だから、最初からワシは介入せんといっていただろ」
ガイアスの無情とも言える言葉。
その間にも快感の波が男たちを襲う。
「きもっ」
サラの汚物を見る目が醜態を晒した男たちに突き刺さる。
「これでわかったと思うが、今から質問することに嘘をついたりするのはおすすめはしないぞ」
「ハア、ハア、ハア」
男たちが回復するのを待ち、尋問を開始する。
この街で生活する上で俺たちの有益になりそうな情報をすべて吐かせた。
残念ながら男たちは新入りで『宵の月』の情報はほとんどわからなかったが、まあいいだろ。
「もういいだろ。カーミ、すべての『鏡幻作成』解除」
「!?」
男たちのまわりの美女たちが鏡が割れる音と同時に消え、俺の姿も十五歳の茶髪美少女の姿から十歳の超絶金髪美少女へと戻る。
さて、記念撮影といくか。
「ハイ、チーズ」
うん、いい一枚の構図に収まったと思う。
さっそくカーミの能力で壁に投影させてみる。
そこには全裸の男たちが、ヤル気満々に膨張した大事な部分を十歳超絶金髪美少女の俺に向けている姿がいい具合に写っていた。
「これ、お前らの家族や恋人や仲間たちにばらまかれたら、そいつらどう思うんだろうな?」
ニヤリと悪い笑いを浮かべる俺。
せっかくの久々美少女全開モードなのに、我ながら悪党感が半端ないな。
だが、物事は最初が肝心だし、どちらが上なのかを教えておくのは今後に役立つはずだ。
……多分。
「あ、悪魔」
「あっ、因みにこれはこれからも俺たちに嘘をつかないって誓約なだけで、俺たちのことを少しでも話したら、お前らの大事な部分を鋼糸でちょん切るから。…………どこをとは言わないけどな」
そう言って男たちの装備を簡単に切り刻んだ鋼糸を見せつける。
「………………」
男たちに反論はないようで良かった。
「よしよし」
これが円満解決ってやつだな。
これでトランテッタに怒られずに済みそうだ。
俺は厄介事が無事に解決しただけでなく、貴重な情報も得られたことに一人満足して笑顔で頷いていた。




