二十九発目 俺と精霊
トランテッタと熱の精霊が無事に再会するのを目の当たりにし、俺はトランテッタに声をかける。
「なあ、トランテッタ、俺たちと一緒に旅しないか? 俺たちこれから東の地域に行くから、お前みたいに強い奴が一緒だと心強いんだが」
「いいのですか? 私は盗賊なんですよ」
「いいんじゃね?」
我ながら威厳もへったくれもない返事だと思う。
なんかあったら自己責任だ。
まあ、誘ったのは俺自身だしな…………だが、待てよ。
「あっ、でも『暁』は親父さんから継いだものだったっけ? だったらトランテッタが抜けるのはまずいか?」
「いえ、養父からは『暁』についてはお前の好きにしろって言われてますし大丈夫なのですが、アルファ様はともかく、サラさんもそれで宜しいのですか?」
「あ~、あたしとしてはトランテッタさんが日々の訓練につきあってくれるっていうなら嬉しいな。リベンジマッチもしかけやすいし、大歓迎だよ」
サラが笑いながらそういうと、トランテッタもそれ以上はいう言葉はないみたいだ。
「わかりました」
トランテッタが俺たちの旅への同行を了承してくれた。
まあ、俺に感謝するあまり、アルファ様と敬うように呼んでくれているし断られるとは思ってなかったけどな。
「そういえば、サラたちは自分の契約した精霊に名前は付けないのか?」
「名前?」
俺の問いかけに、サラが首をかしげる。
「因みに俺は契約した全部の精霊に名前を付けてるぞ」
「そっか~、名前か。よし、あたしの盾の精霊はジルドにしよ。シールドからもじってみたんだけど、どうかな?」
「いいんじゃないか。トランテッタはどうする?」
「そうですね。私は古文書にある、シャルルという名を使わせてもらいたいと思います」
「なるほど、熱の精霊シャルル、いいかもな」
さあて、次はいよいよ俺の番だな。
ついつい人の世話ばかり焼いてしまったが、俺もしっかりと契約をさせてもらうつもりだ。
「エロジジイ、待たせたな」
『いやいや、大丈夫じゃ。それでどうする?』
エロジジイの問いかけに俺はこの時を待ってましたとばかりに笑い出す。
「ふふふ、ふわっははは、いよいよこの時が来た! 俺は精霊王と契約してみたい!」
俺が自分の希望を口にする。
前は俺の時間的な制約で無理だったが、以前の話では俺の潜在魔力なら精霊王とも契約できる可能性があるって言っていたし、決して無理な話ではないだろう。
やっぱり男(今は女だが)として生まれたなら、異世界無双は憧れの一つだろう。
精霊王の力があればそれも夢ではないはずだ。
さあ、エロジジイ、俺に力を!
そう思って期待に満ちた眼差しでエロジジイを見つめる。
『無理じゃな』
「はあ!? なんで? 前は出来るって言ってなかったか?」
『うむ、お前の魔力が全快の状態なら可能性もあったんじゃがな。ここにくるまで消費した魔力もさることながら、そこの盾の精霊と娘との契約や熱の精霊をただ再生させるだけでなく力を強化させるのに、どれだけの魔力を消費したと思っとるんじゃ?』
顔のない球体だから分かりにくいが、呆れ果てたようなエロジジイの声。
「え~と、それを言われたら…………」
導きの精霊エロジジイの話では、元々は中級精霊だった熱の精霊も今ではパワーアップして上級精霊並の力になっているらしい。
どうやら俺は調子にのって魔力を渡しすぎたようだ。
自業自得とはこのことだろう。
まあ、サラもトランテッタも喜んでくれたし、いいとするか。
「じゃあ、俺は今回は何もできないわけか」
『そういう訳でもないぞ』
「?」
『新たな契約も中級以下なら行えるし、熱の精霊に対して行ったように魔力を使い今契約している精霊の位を上げることも可能じゃ』
「マジか!」
それは予想外だが、嬉しい誤算だ。
「俺の契約している五体全部がパワーアップできるのか?」
『お前の普段の精霊の使用頻度によるな。精霊を使用するということは、その精霊に大量の魔力を注ぎ込み経験も積ませているということじゃからな』
ふむ、俺ではなく精霊のレベルを上げることができるって感じなわけか。
これは俺の眠っていた男子心が刺激されるな。
「そんで、いったい俺の精霊の誰が可能なんだ?」
『糸と大地の精霊じゃな』
糸の精霊イートと大地の精霊ダーチか。
けっこう使いやすい精霊たちだから、経験値が貯まっていてもおかしくはないか。
イートは戦闘での鋼糸はもちろん、衣服を作成するのに世話になっているし、ダーチは探知や風呂の時だけでなくゴーレムマンでサラの戦闘訓練まで手伝ってもらっているしな。
「よし、糸と大地の精霊のレベルを上げてくれ」
「わかった。それでは精霊たちをこっちに寄越すのじゃ」
「わかった」
白とオレンジのそれぞれの球体、糸の精霊イートと大地の精霊ダーチが導きの精霊エロジジイの元にいく。
そして、二体は茶色の球体の中に吸い込まれた。
『さて、これからわしのいうことを聞くのじゃ』
「了解」
『まずは後ろを向き、振り替えるような感じで腰を捻りーー』
「ふむふむ、こうか?」
『いいぞ、その調子じゃ』
俺はエロジジイの指示にて次々とポーズを決める。
十歳の女の子が真っ裸でとるにはセクシー過ぎるポーズ。
ロリコンなら興奮ものだ。
正直、精霊のパワーアップにこのポーズをとる意味がわからない。
「…………なあ、本当にこんな格好する必要あるのか?」
『ないぞ』
「ぶっとばすぞっ! このやろ!」
俺の純真でピュアな心を弄びやがって。
十三歳少女のおっぱいを嬉々として揉む十歳美少女が純真かどうかはさておき、イートを取り上げられていなければ鋼糸で切り刻んでいたところだ。
『まあ、冗談はこれくらいにして、それではわしに触れるがよい』
「こうか?」
俺が茶色の球体に手で触れる。
魔力が接触した箇所から流れ込むのがわかる。
『なかなかの魔力じゃが、二体の精霊を強化させるにはまだまだ足らんな。このままでは大分時間がかかりそうじゃな。そうじゃ、わしを体全体で抱き締めるようにして魔力を送り込むっていうのはどうじゃ』
「マジか? ただ、美少女の俺に抱き締められたいっていうことはねえよな?」
『…………そのようなことはないぞ』
若干怪しい間があったな。
『肉体との接地面が大きいほど、多くの魔力の受け渡しが可能なのじゃ』
「…………」
まあ、断るほどではないか。
俺は言われた通り、導きの精霊の本体の球体を抱き抱えた。
光の球体なのに触れた感触はモコモコ、フヨフヨしたような不思議な感じだ。
光の球体を抱きかかえる金髪美少女。
中身が俺なのを差し引いたとしてもかなり幻想的なんじゃなかろうか? その証拠に、サラだけでなくトランテッタまでも何か眩しいものでも見るような感じで俺のことを見ていた。
「これでいいか?」
『うむ』
「お、おお」
さっきまでとは比べ物にならない量の魔力が移動していく。
エロジジイの本体の球体が光輝く。
『完了したのじゃ』
そう言ってエロジジイの本体から出てきた、イートとダーチはそれぞれ野球ボールサイズだったのが、バスケットボールサイズに大きくなっていた。
あまり見た目は変わってなく実感はないが、エロジジイがいうんだから間違いないだろう。
「よし、パワーアップしたことだし、これからも頼りにしてるぞ。宜しくな。イート、ダーチ」
俺の言葉に白とオレンジの球体が嬉しそうに明滅した。




