二十八発目 トランテッタと精霊
「やったー、これで、あたしも一応契約者ってことだね」
「そうだな」
俺が肯定してやると、サラが無邪気に喜んでピョンピョン跳ねる。
……うん、揺れるおっぱいも悪くない。
裸なもんだから、おっぱいが揺れているが、あんなに揺れても形が崩れないとは若さゆえの力だろうか。
そんな俺の視線を独り占めしているおっぱいを目の前にしても、トランテッタは「良かったですね」とばかりにエロさの微塵もない笑顔を向けてくる。
どうやったらあんなにいろいろ無反応でいられるんだろうか。
「だけど、サラなら剣の精霊とかを呼び出すかと思っていたけどな」
「あ~、それも確かに考えたんだけど、敵を倒すのは修行して剣の腕を上げていけばなんとかなるかもだけど、誰かを守るためには盾の精霊しかないって思ったんだ」
「まあ、俺がそばにいないとサラだけじゃ使えないみたいだけどな」
「いいの。だってアルファはこれからもそばにいてくれるんでしょ?」
「まあな」
一緒に旅をしている以上、常にそばにいるというのは間違いない。
俺とサラは風呂まで一緒に入る仲だ。
さすがにトイレは別々だが、それ以外はほぼ一緒にいるといってよかった。
「じゃあ、大丈夫だね」
そう言ってサラが嬉しそうに笑う。
喜んでくれてなによりだ。
さて、次にいこう。
「トランテッタ、次はお前がエロジジイと話をするか?」
「いいんですか」
「ああ、構わないぞ。ちょっと俺も休憩をしたいしな」
これは心からの本心だ。
多分、魔力にはまだまだ余裕があるのだろうが、お嬢様育ちの俺からしたら今回の騒動は頑張って動いた方だと思う。
「それではお言葉に甘えまして」
「おう、いってこい」
トランテッタが恭しく俺に一礼して前に出る。
二十歳は過ぎていそうなトランテッタだが、どう見ても十歳くらいの女の子にしか見えないはずの俺に対して丁寧すぎやしないだろうか?
トランテッタがエロジジイにも一礼して話し出す。
「導きの精霊……お名前はエロジジイ様とお呼びしてでよろしいのでしょうか?」
『ホホ、そこの娘にはそう呼ばれているが、お前も好きに呼べばよい』
「それでは遠慮なく。エロジジイ様、私の契約している精霊についてお聞きしたいのですが」
そういえば、トランテッタも契約者のはずなのに導きの精霊であるエロジジイを知らなかったっていうのはどういうことなんだろうか?
他にも導きの精霊ってのがいるとか?
『ふむ、男、お前も面白き運命にある奴のようだな』
「その通りでございます」
トランテッタが肯定する。
「エロジジイ様。少し、身の上話をしても?」
『よいぞ』
「それでは失礼しまして。私はここから北西、王都から遠く北に行った地方の出身なのですが、生まれてすぐ私は捨てられました」
「!」
「同情はいりませんよ。ただ、そういう場所だったというだけですので」
俺の表情から感情を読んだのか、トランテッタが俺に優しく微笑む。
「私が捨てられたのは、地元では精霊の谷と呼ばれているところでした。極寒の地、一般人は誰も通らないであろう谷の底で、赤ん坊一人では到底生きられない場所でしたが、私は生き延びました。人より多少多く持っていた魔力と精霊のおかげです」
おっと、ここで精霊が登場か。
「精霊が私の命を繋いでくれたおかげで、盗賊家業をしていた養父に拾われるまでの三日間を過ごすことができたようです」
『そうか、お前はあのときの赤ん坊か』
エロジジイも思い出したようだ。
「やはり、私のことを知っているのですね。それでは、私を生かしてくれた精霊のことも」
『もちろんじゃ。お前の命を救った精霊は、熱の精霊。その名の通り、熱を司る奴じゃ。わしら精霊は契約することで契約者の魔力を元に力を行使することができる。しかし、わしら精霊が契約以外で人のために力を行使するということは、消滅の可能性すらある。わしらは止めるように言ったのじゃが、あやつは止めなかった』
「…………」
『そして、まだ言葉も話せず、精霊と契約できなかったお前を救うために熱の精霊は自身の魔力を極限まで使い、お前と同化することで自分の能力をお前に託したのじゃ』
なるほど、ということは厳密にいえばトランテッタは契約者ではなく直接精霊の力を取り込んだ人間というわけか。
「そうでしたか。私は自分を生かしてくれた精霊と出会うために、養父より引き継いだ『暁』を大きくし、精霊との語り場である精霊の洞窟のあるこの砦を根城にするようになりました。もし、自分達の悪行を知ってきた冒険者の中に契約者がいれば、母なる精霊に再開できるかもしれないとの思いもあったからです。そして、今日という日を迎えました。導きの精霊エロジジイ様のお力で、私の母とも呼べる精霊に再び会えないのでしょうか」
『それは無理じゃな』
おっと、容赦ない言い様だな。
それはトランテッタの今までの努力を打ち砕く言葉だったと思う。
「そうですか。せめて、一目会って『ありがとう』と感謝を伝えたかったのですが」
笑顔だが、どこか悲しそうだ。
「なあ、エロジジイ、ちょっといいか?」
『なんじゃ?』
「さっきの話を聞いていて思ったんだが、その熱の精霊は消滅したんじゃなくて、トランテッタと同化しただけなんだろ。トランテッタ自身で呼び出すことは出来ないのか?」
『無理じゃ。熱の精霊は極限まで自身の存在値を魔力に変換して使っており、そっちの男の多少多いくらいの魔力では維持することもできんじゃろ』
トランテッタが笑顔のまま肩を落とす。
「だから、他から足りない分の魔力を持ってきて、魔力を存在値に逆変換すればいいだけだろ?」
『それはそうじゃが』
「魔力を他からって…………いったい、どこから?」
エロジジイの読めない表情からは真意がわからないが、トランテッタは本気でわかっていないという顔をする。
あ~、もう! なんでこいつら、こんなに察しが悪いんだ?
「俺からだよ!」
「!」
初めてトランテッタの表情から微笑みが消え、その瞳が驚愕に見開かれる。
そんなに俺の申し出が以外だったんだろうか?
それなりに優しいアルファちゃんを自認している俺としては、ちょっと心外だ。
それにしてもトランテッタの驚く顔なんて始めてみた。
俺たちが襲撃したときでもサラとの勝負の最中でも笑顔だったから、笑顔しか出来ないのかと思っていたが、こいつでも表情変わるんだな。
おっと、今はそんなことよりトランテッタの精霊だ。
「俺の魔力を使えば、その精霊を呼び出せるんじゃないか?」
『確かに可能かもしれんな』
よし、エロジジイのお墨付きも貰えた。
「ほら、そういうことらしいぞ」
俺がそこいらの奴なんてコロッと落とせそうなほどの美少女スマイルで、ニコっと笑いかけるが、平然として意に介さない様子のトランテッタが重く口を開く。
「どうして……出会ったばかりの私に……そこまでしてくださるのですか」
「ん、だって、その熱の精霊ってのがお前の母さん代わりなら、会いたいって気持ちも当然だろ。お前とそいつを会わせる方法があるなら断る理由なんかないだろ?」
当然とばかりに言ってみた。
「それで、またサラのときみたいに手を繋いで魔力の受け渡しをすればいいのか?」
『そうじゃ』
「だそうだ。ほら、手を出せ」
俺の白く小さい手を差し出すがトランテッタが手を出さない。
もう、世話が焼ける!
俺はトランテッタの手を握りしめる。
「トランテッタ、俺の方は準備完了だ。あとは好きにしろ」
トランテッタは、しばし俺を優しげな眼差しで見つめると、瞳を閉じて一言呟いた。
「感謝します」
トランテッタが俺の手を力強く握り返してくる。
それと同時に繋いだ手を通じて俺の魔力がトランテッタに流れ込んでいくのがわかった。
その量は、さっきのサラの呼び出した盾の上級精霊を呼び出したときに勝るとも劣らない。
…………というか、こいつもどんだけ持っていくつもりなんだろうか?
存在値が最低にまでなった精霊を再構築していくわけで、その必要魔力量も尋常じゃないって訳だろうか。
まあ、体に異変はないから大丈夫なんだろうが、本当に遠慮がない感じだな。
まあ、俺から言い出したことだし別にいいけど。
再び瞳を開けたトランテッタが言葉を紡ぐ。
「出てきてください。私の中の熱の精霊」
その声とともに、トランテッタの中から赤と青のマーブル模様の球体が出現した。
「…………ようやく会えましたね。…………母さん」
トランテッタの瞳から一粒の涙が溢れた。
熱の精霊もいとおしそうに明滅し、トランテッタの肩に止まる。
うん、再会の邪魔をするのは無粋だな。
俺はトランテッタから離れ、サラの元に行く。
それにしても、さすが赤ん坊だったトランテッタを自身の存在をかけてまで守った精霊だ。
その光は暖かい…………っていうか、寒くね?
洞窟の中の気温がどんどん低くなっている気がする。
「アルファ、なんだか寒くない?」
「そういえば、そうだな。いったいどうしたんだ?」
ガタガタ震えるサラの言葉を肯定する。
洞窟内の気温が真っ裸の体では耐えられないくらい気温が低くなっていた。
俺たちの様子にトランテッタが気付いてくれたようだ。
「すみません。私としたことが、あまりの感動に我を忘れてしまっていました。ただいま調整しますね」
トランテッタが熱の精霊の力を使い調整すると、気温は丁度過ごしやすくなった。
どうやら、熱の精霊は一定範囲内の温度調整もできるらしい。
ひょっとしたら、サラが勝負の際に動きが悪くなったりしたのもこの能力の応用だったりするんだろうか。
熱の精霊…………なかなか便利そうな精霊だ。
トランテッタが『暁』の頭をやっているのは母とも呼べる精霊と会う方法を探していてやってたわけで、これで目的も果たしたはず。
銀髪眼鏡でけっこうイケメンな外見だし、俺たちの裸を見てもピクリとも反応しないその精神力といい、契約者としての能力や強さといい、ダメもとで仲間に誘ってみるか。
俺がそんなことを考えていると、トランテッタがこちらの方を見て言葉を紡ぐ。
「ありがとうございました。…………アルファ様」
その最後の言葉を聞き、意外に脈ありかもしれないなと思った。




