二十七発目 サラと精霊
「う~、頭痛い……」
トランテッタに気付けをされ、目を覚ましたサラが額を押さえながらそう言う。
うん、少し心配したが後遺症もなく問題ないようだ。
それにしても、自分で気絶させといて気付けもできるなんてトランテッタの奴、器用だな。
「気分はすぐに良くなりますよ」
「まあ、脳が揺さぶられたんだろうし、気分が悪いのはしょうがないだろ。とりあえず、外傷もないから大丈夫だ」
俺と長身痩躯の銀髪眼鏡のトランテッタの言葉に、サラが項垂れる。
「う~、あたしの完全敗北だったな」
「ほんとにな。まあ、これから強くなればいいだけだろ」
「生きてるってことは、そういうことなんだけどさ~」
サラとしてはどうも納得していないようだ。
本来、この世界において勝負とは生きるか死ぬかであることが多い。
最初のサラとの出会いのように、負けた方は勝者にいいようにされ、最悪その場で殺されることもある。
魔物との戦闘なら尚更、次とかを考えることは難しいだろう。
その生活に身を置いていたサラにとって、トランテッタとの勝負での負けは許せるものではないようだ。
「それじゃ、サラさんも大丈夫みたいですし、参りましょうか?」
「どこに」
「精霊の洞窟へです」
トランテッタが笑顔で答えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺とサラはトランテッタの案内で砦の地下に降りていく。
何でもこの砦は、元々精霊の洞窟を保護するために時の有力者が造ったものであるそうで、砦の地下から精霊の洞窟へは行けるらしい。
「ここですよ」
門のようにも見える大きな扉の前でトランテッタが止まる。
うん、雰囲気のある場所だな。
「このまま中に入りますか?」
「うん、入ろうと思う。トランテッタ、お前らはここに残るのか?」
「いえ、私も是非入り、精霊とお会いしたいと思っているんですが、駄目でしょうか?」
「…………まあ、いいか」
少し思うところはあるが、別に拒否するほどのことではない。
「アルファ、あたしも行ってもいい? 精霊ってのに、あたしも会ってみたい」
「別に構わないんだが、大丈夫か?」
俺がサラに問うと、代わりにトランテッタが答えてきた。
「大丈夫だと思いますよ。この扉の中はだいぶ広い空間が広がっていますし、大人でも余裕で十人は入れます」
「いや、俺が言いたいのはそういうことじゃないんだ。俺が契約者になったときに、導きの精霊に言われたのが、精霊に会うには人として生まれたままの姿、つまりは真っ裸になる必要があったから…………それが大丈夫かと思ってさ」
俺がそう言って、サラのおっぱい部分に目をやる。
「「「!」」」
リック、カイン、クーウの視線が、成長力の著しさを主張するサラのメイド服の胸部に集中する。
「あの想像しかできなかった、おっぱいが見れるチャンス…………」
「誰が見せるか! 想像もするな!」
自分の胸部を腕で隠しながら叫ぶサラ。
俺とは女同士だし、お風呂で洗いっこをしても平気なようだが、異性に性的な目で見られることには、年相応な嫌悪感は感じているようだ。
リックたちはそんな感じで分かりやすい反応だったが、さすが十八歳以下には興味ないんですよと公言しただけあって、トランテッタだけはニコニコとその様子を微笑ましそうに見つめていた。
あのおっぱいを前にして反応しないとは、トランテッタは男として大丈夫なんだろうかと心配になる。
まあ、他人事だしほっといて問題ないだろう。
結局、ここから先は、俺とサラ、トランテッタの三人で進むことになった。
サラや俺の裸に興味を持ちそうなリックたちは留守番となった。
「じゃあ、扉から洞窟の中に入ってみるか?」
俺たちは扉をくぐる。
扉を閉めると中は真っ暗となった。
「イート、明かりがわりに道を照らしてくれ」
人一人が通れる幅の細い通路をイートの自然と放っている光を便りに進むと、祭壇のようなものがある広い空間に出た。
他に抜け道らしきものはないし、ここが目的地みたいだ。
「さて、じゃあ、準備するために全員真っ裸になるぞ」
「了解」
「畏まりました」
俺は着ていた服を脱ぐ。
衣擦れと何かを床におく音から、サラとトランテッタも脱いでいってるのを確認する。
さて、準備はできた。
「これからどうするんです?」
「トランテッタも契約者なのに知らないのか?」
「すみません、なにぶん契約したのが幼かったときなので、記憶も曖昧で」
「ふ~ん、まあいいや。これから導きの精霊を呼び出すのさ。オーイ、エロジジイ会いに来てやったぞ。出てこい」
俺の声かけに茶色の光を放つ球体が出現する。
淡い光に照らし出され、トランテッタの引き締まった体とサラの肢体が暗闇に浮かび上がる。
毎日お風呂を一緒にするようになって、だいぶ見慣れてきたサラの体だが、こうして見ると神秘的な美しさを感じる。
…………ってか、おっぱい格差有りすぎだろ。
俺のどこまでも見通せそうな仄かな胸とは雲泥の差だ。
まあ、俺も全く成長してないわけではないし、今後に期待だな。
『久しぶりじゃな、元気にしておったか』
「うん、元気元気、エロジジイも元気だったか?」
『フォッフォッフォ、精霊に体調は関係ないがの。一応、元気であったと答えるべきであろうな』
まるで、近所のじいちゃんとの会話のように話をしていく俺をあっけにとられて見ているサラとトランテッタ。
緊張しているのだろうか?
俺としては、こんな気さくな精霊もなかなかいないと思うのだが、初対面だと緊張もするわな。
ん? でも、トランテッタは契約者で、導きの精霊のエロジジイとは面識がないのだろうか?
あとでエロジジイにも聞いてみるとしよう。
「そういえば、今日は人数が増えて会いに来ちまったが、大丈夫だったか?」
『問題なかろう。して、今日はどうしたのだ』
「う~ん、こっちの奴、サラって言うんだが、こいつを精霊と契約させることって可能か?」
エロジジイが、しばし沈黙する。
『…………それはちと厳しいのう。そやつは魔力量も普通か、それ以下程度しかなく、おそらく精霊も寄ってこんじゃろ』
「!」
サラが残念そうな顔をするが、これは俺の予想の範囲内だ。
なので、あらかじめ用意していた解決策を提案してみる。
「なあ、魔力量が問題ってだけなら、俺が代理で魔力を提供することで問題解決できないか?」
『それは可能かもしれんが、お前が魔力の肩代わりをするだけでなく、精霊の力を行使時にも、ある程度近くにいることが条件になるのじゃぞ。それでもよいのか?』
俺としてはサラとはこれからも一緒に旅をしていきたいし、女神の加護のおかげで魔力も現在余っているわけで、サラの精霊に持ってかれることを特に問題とは思わない。
あとはサラ次第だな。
「サラ、そういうことみたいだが、どうする?」
「アルファは迷惑じゃないの?」
「全然。サラが嫌じゃなかったら、俺はサラのそばにずっといるし、好きにしたらいい」
サラが何でか顔を赤らめる。
「!…………じゃあ、アルファ、お願いしてもいい」
話は決まった。
「エロジジイ、さっそく、サラに精霊への声かけを試してもらってもいいか?」
『大丈夫じゃ。二人で手を繋ぐがよかろう』
俺とサラが手を繋ぐ。
なんかわからんが、繋いだ手を伝わり暖かい何かがサラに流れ込んでいるのを感じる。
これが魔力って奴だろうか。
そのまま数分。
…………それにしても、サラの奴、魔力持っていきすぎじゃないか?
今は時間に余裕があるとはいえ、イートたち五体の精霊と契約したとき以上の魔力が消費されている気がする。
俺はオーク数匹を倒せる力を求めて精霊に呼び掛けしたが、サラはどんな精霊を求めるつもりなのだろうか。
「あたしの求める精霊、出てきて!」
サラの求めに応じ、銀色の光の球体が出現する。
イートたちより一回り大きいその球体は、直径30センチメートルくらいか。
「すご~い、本当に出てきちゃった」
「エロジジイ、こいつは?」
驚きと嬉しさに腰を抜かしそうなサラの腰に手を回して支えながら、導きの精霊エロジジイに聞いてみた。
『こやつは盾の精霊じゃな。しかも、いきなり上級精霊を呼び出しおったか』
えっ! サラの奴、盾の上級精霊を呼び出したの?
たしか、イートたちはみんな中級精霊のはずだったけど、あんだけ俺の魔力を遠慮なく消費したんだから上級精霊くらいは呼び出せて当然か。
それだけ、サラはいろいろなものを守れなかったことを悔やんでいたんだろうな。
それはかつての仲間だったり、自分自身だったり。
「この子は、あたしが全部守りたいって気持ちに応えてくれたんだ。嬉しいな。あたしはこの子と一緒に、あたしの大事なものを全部守ってみせる」
そう説明するサラの顔は晴れやかだった。




