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三十発目 俺とオーガ

「よし、サラとトランテッタも自分達の精霊と契約できたし、俺の精霊もパワーアップしたし、これで精霊の洞窟での俺たちの用事は終わりだな」

「うん」

「そうですね」



 それぞれの精霊を従え、サラとトランテッタが満足げに頷く。

 トランテッタはニッコリ微笑んでいるだけだが、サラなんてよほど嬉しかったのか自分の契約した精霊に頬擦りしていた。

 さて、これ以上真っ裸でいる必要もなさそうだし、服を着ることにする。

 普通に服を着ても面白くないし、折角だからパワーアップした糸の精霊イートの力を試してみるか。

 試したい服があったんだよな。

 材料は俺たちの脱いだ服で足りるだろう。



「イート、『着衣創造』、三人分まとめてやってみろ」



 俺の指示を受け、白い球体が光を放ち、俺たちの着ていた服を繊維へとほぐし、糸を紡ぎあげ、新たな服を生み出していく。

 以前は一人分づつしか作れなかった服が三人分一気に作り上げられていく。

 まずは、俺。

 俺は青いショートドレススタイル。

 やっぱり、お嬢様といったらドレスだろう。



「うん、なかなかいいじゃん」



 久しぶりにドレスなんて着てみたが、パンチラとか気にしなければ意外と動きやすかったりするし、全然旅に向かないってこともないだろう。

 続いて、サラ。



「あたしはまたメイド服か。まあ可愛いし、動きにくくないから別にいいけど」



 サラが、自分の白いメイド服を確かめながら感想を言ってくる。

 自分ではそう思ってないのかもしれないが、黒髪のサラに白いメイド服はめちゃくちゃ似合っている。

 膝上丈のスカートで、ニーソックスというのも俺的にはストライクだ。

 サラといったらメイド服というのが最早俺の中での定番だ。

 そして、トランテッタ。

 トランテッタも自分の格好を眺めている。



「なるほど、アルファ様はご令嬢でサラさんはメイド、そして私は執事ということですか」

「そういうことだ」



 お嬢様とメイドが揃ったら、やはり次は執事が欲しくなった結果だ。

 銀髪眼鏡で長身痩躯のトランテッタは俺の執事のイメージにドンピシャだったが、漆黒の執事服を上品に着こなすその様は嵌まりすぎだ。

 元盗賊の頭だと言っても誰も信じないだろう。

 というか、イケメンは何着ても似合うとか卑怯過ぎだ!



「…………トランテッタ、嫌だったら別のを用意するぞ?」



 もし、トランテッタが嫌だといったら、クマの着ぐるみでも作ってやる。

 …………想像はつかないが、それでも着こなしてそうで怖いけどな。



「大丈夫です。そのお姿のアルファ様とともに行動するなら、この執事服の格好のほうがいいでしょうし」



 トランテッタが俺に向かい優雅に微笑む。

 くそ、いちいち様になる奴だ。

 俺が男のままだったら、ケッと唾でも吐いていたかもしれない。

 元フツメン以下男子としては嫉妬して当然だろう。

 ふう、見苦しい嫉妬はこのくらいにしとくか。



「というわけで、エロジジイ。俺たち着替えも終わったし、そろそろここを出ていこうと思う」

『うむ、好きにすればよい。じゃが、お前とはまたどこかの精霊との語らいの場で会いそうな気がするの』

「当然! 俺としてはまだ精霊王との契約も諦めてないし、経験値が貯まったら他の精霊たちのパワーアップも頼みたいしな」



 俺が美少女スマイルでエロジジイにニッコリ笑いかける。



『ホッホッホッ、本当にお前は精霊好きのする奴じゃな』

「だろ、俺って愛されキャラだからな」

『自分でいうかの』

「そこも俺の良いとこだ。エロジジイ、またな」



 こうして、俺たちは精霊の洞窟をあとにした。



  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 さてと、これはどういう状況だ?

 精霊の洞窟からでたばかりの俺は事態が飲み込めずにいた。

 今俺の目の前には巨大な人型の魔物がいた。

 頭に二本の短い角を生やしたその姿はまさしく鬼だった。

 全長三メートルを越える赤黒くゴツい体躯の鬼は、洞窟から出てきた俺たちのほうを睨み付け、手に持った武器を構える。



「た、たしゅけて」

「ん? 武器がしゃべった?」



 見ると、鬼が手に持った巨大な鈍器は人間だった。



「あの顔には見覚えがあるな」

「あっ、あれって砦の入り口で、あたしたちの身体検査をした人だね」



 なるほど、それで見覚えがあったのか。

 俺とサラを砦の入り口にて身体検査してた小男、そいつは両足を鬼に握られ凶器にされていた。

 幾度となく打ちつけられた小男の体は至るところが出血し、所々骨折もしているのか関節がおかしな方向に曲がっているように見える。

 そして小男を振り回す鬼の足元にはリックたちが転がっていた。

 辛うじて息をしているのはわかるが、怪我の具合もわからないし、このままでは命も危ないかもしれないな。

 俺がそう思っている中、トランテッタは鬼の様子を観察していた。



「あれは、オーガですね。砦の特殊牢に入れていたのを誰かが出したようですね」

「ですねって、トランテッタさん、冷静すぎ! 早くリックさんたちを助けないと殺されますよ」

「サラさん、大丈夫です。それはもうアルファ様のほうで動いて下さってますよ」

「?」

「ほいっと」



 サラがこちらを向くと、ちょうど俺が『傀儡糸』で糸を操り、魚釣りの要領でリックたち三人をこっちに引っぱり出していたところだった。

 ちょっと強引な助けかたで体は痛むだろうが、死ぬよりマシだろ。

 さて、次は小男を助けてみるか。



「これでどうだ!」



 先手必勝と言わんばかりに、俺はそのまま小男を握っているオーガの右手首に鋼糸で攻撃を仕掛ける。

 手首を切断するつもりで放った鋼糸は皮膚で弾かれる。



「斬れない!? 嘘だろ。オークとかなら問題なく斬れたってのに。どんだけ固い皮膚をしてるんだ?」

「通常、オークは二~三名で対応出来ますが、オーガは手練れの者十名以上で挑むのが普通ですからね。人間を遥かに越える膂力を産み出す筋繊維はアルファ様の鋼糸が通らないのもしょうがないかと」



 しょうがない、オーガに掴まれている小男の方は後回しだ。

 それにしてもこれがオーガか…………オークよりもかなりでかいな。

 俺は改めてオーガと対峙する。

 さっきの鋼糸での攻撃は全くダメージにはなっていそうにないくせに、多少は鬱陶しさを感じてくれたようで、めっちゃ俺の方を見てくる。



「顔こえぇ」



 オークの時には感じなかったが、オーガの表情めっちゃ怖い。

 自分の体が震えてくるのがわかる。



「少しよろしいでしょうか、アルファ様」

「なんだ?」



 この緊迫した空気の中、普通に声をかけてきたトランテッタに短く答える。



「サラさんの胸への視線を鑑みる限り、アルファ様は大きな胸がお好きであるのかと思いますが違いますか?」

「うん、大好きだ」



 巨乳は正義だと思っている。

 だが、それがどうしたんだ?

 さすがの俺もこの状況でエロを求めることはできないぞ。



「オーガとかオーク、ゴブリンのような亜人型の魔物は雄雌の性別があるんです。因みに、あのオーガは雌なんです」

「それで?」

「あの雌オーガの巨乳はお嫌いですか?」

「は?」



 え~と、トランテッタは何を言っているんだ?

 そう思いながら、オーガの胸部に目をやると、あまりに大きすぎて気付かなかったオッパイがそこにあった。



「…………巨乳だな」



 俺の放った一言にオーガが後ずさった気がする。

 失敬な! そこまで俺は餓えていないぞ!

 身の危険を感じられるなんて心外だ。

 勘違いされたら堪らない。



「ちょっ……」



 俺が一歩前に踏み出すと、オーガがビクンと怯んだ気がする。

 こんな美少女に対して失礼な。

 俺の中にオーガに対する怒りが生まれる。



「アルファ様、もう大丈夫そうですね」

「ん?」



 気付くと、俺の震えはいつのまにか治まっていた。

 そうだよな。わけのわかんないもんに恐怖するのは魔物も人間も変わんないよな。

 なんか怖がっている俺がバカみたいだ。

 サラが心配そうにこちらを見ているのに今まで気付いていなかった。

 大分視野が狭くなっていたようだ。



「アルファ、大丈夫?」

「サラ、トランテッタ、心配かけたみたいだな」

「それで、アルファ様、どうされますか?」

「サラ、トランテッタ、オーガ退治といこうじゃないか」








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