十九発目 旅立ちと肉塊
今回、多少気分を悪くされるかもしれない表現が含まれてます。
苦手な方はとばしてください。
生まれ故郷を出発して2日目の朝。
太陽もすっかり登り、多くの人々が気持ちのいい朝を迎えたであろう日に、俺は一人陰鬱した気持ちで頭を抱えていた。
「これは酷い状況だろ」
俺は目の前の気持ち悪い肉塊を前に、そう思わずにはいられなかった。
屋敷を出てからの自分の行動を振り返ってみる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リーパー侯爵の手の者の手引きによるオークの襲撃から三日が経っていた。
俺は怪我人たちの容態をこっそり確認して、もう大丈夫そうなことを確かめてから最低限の手荷物で誰も起きていない朝早くに旅に出発した。
「さて、どこにいこう?」
今いるのは、この国の南側に位置する俺の父親が治める領地の北端だ。
このまま街道を真っ直ぐ北に進めば、大人の足で一ヶ月ほどで王都に着く。
十歳の俺が普通に歩いたら一ヶ月半以上はかかりそうだ。
「王都も見てみたいけど、あんまり人が多いのはな。一応、服は地味な感じの目立たないショートパンツとシャツにしているし、長い金髪もお団子に巻いて帽子を被ってパッと見、男の子のように見えるようにしたけど、ひょっとしたら俺のことを見たことがある奴もいたりなんかしたら面倒だしな。王都よりも北は寒いし遠いし。やっぱり、行くなら東か西だよな」
西の戦争一歩手前の地域か、東の魔物の発生スポットが多くある地域。
…………危険性としては、どっちもどっちだな。
でも、俺はもう行く方向は決めていた。
魔物の多い東の地域だ。
というのも、元日本人の俺としては人が人を殺すのをやっぱりまだ許容できる気はしない。
だが、魔物ならまだどうにか許容できる気がする。
だから戦争手前の地域は避けたい。
それに、父親の話では王国の西側にはリーパー侯爵の領地がある。
わざわざ自分から変態に近づく気はない。
「よし、東にいくか」
こうして俺は東の地域に向かって歩き出した。
歩き出したはいいが、子供の足で歩ける距離など、たかが知れている。
「疲れた」
まだ半日も歩いていないのに、長年染み付いたお嬢様生活で育った俺の体力は限界だった。
精霊の力を使えば、もうちょっと楽に移動できるのだろうが、それでは俺の基礎体力は向上しないと思い頑張ってみたがダメだった。
普通に死ねる。
最悪、精霊たちに頼りまくって移動する必要がありそうだ。
まあ、それも休憩してからだな。
近くの木に背を預け、足を投げ出し休憩しながら街道を眺める。
「おっ、向こうから馬車が来る! ラッキー」
街道を一頭の馬に引かれた荷馬車がやってくるのが見えた。
別に魔物や盗賊に襲われている様子もなく、実にのどかな光景だ。
「よし、この世界での初めてのヒッチハイクってのを試してみるか。…………おーい、止まってくれ」
「どうした?」
手を振りアピールしたら馬車は簡単に止まってくれた。
案外チョロいもんだ。
俺が声をかけた荷馬車には二人の男が乗っていた。
二人とも二十後半から三十前半って感じだな。
服装も普通の感じで金に困っている感じでもないし、とくに怪しい感じはしない。
ここは丁寧に頼んでみよう。
「おじさんたち、ちょっといいか?」
「おう、坊主、何かようか?」
いきなり、坊主呼ばわりされたが、気にしない。
こんなどっちかわからない格好をしてて、流石に間違えない方が難しいだろう。
「この街道を向こうの方に行きたいんだけど、すこし大きな街まで乗せていってくれない?」
「どうする?」
一人の男が、もう一人の男に聞く。
荷台は積み荷で一杯みたいだし、向こうの二人で相談するっていうのは妥当な反応だ。
速攻で断られなかっただけマシだろう。
「いいさ、荷台は積み荷で一杯だが、坊主一人くらいなら俺たちの間にでも座れるだろ」
「ありがとう」
こうして、俺は足を確保した。
荷馬車だから多少乗り心地はいまいちかもしれないが、楽チンだ。
やっぱいいな、馬車。
だいぶ旅っぽくなってきたぞ。
しばらくいくと、街に着く前に、すっかり日が暮れてしまった。
「今日はここで野宿だな」
「俺たちは積み荷の様子見と夕飯の準備をするが、坊主はどうする?」
「ちょっと向こうの方で薪を拾ってくるよ」
「じゃあ、頼む」
俺たちは森の近くで夜を明かすことになった。
「薪はすぐに集まったけど、一日中外にいて、だいぶ汗をかいたな。風呂に入りたいな」
食事も大事だが、体がベタベタしていて気持ち悪い。
俺はキョロキョロ辺りを見回し、誰もいないことを確認する。
「ダーチ、『土石生成』&『土石造形』」
精霊の力を使い石のバスタブを作成。
うん、バスタブはこんなもんだろ。
次は湯を張らないとな。
「ミーズ、『水生成』」
ちょうどいい湯加減の風呂の完成だ。
俺は全速で真っ裸になると、バスタブに飛び込んだ。
「ふぅ~、気持ちいい。最高だな」
このまま蕩けてしまいそうだ。
空を見ると、いつの間にか満点の星が広がっていた。
「うわ~、スっゲーー-ー」
着ていた服は、ミーズとターキの力を借りて洗濯・乾燥中だ。
あれ? 案外、俺の旅って快適じゃね?
俺は、あまりの気持ちよさに時間を忘れて浸かってしまっていた。
「おい、坊主、遅いが大丈夫か?…………って、坊主、お前、女だったのか!」
様子を見に来た男に見つかってしまった。
俺はもちろん全裸だが中身は男同士、あまり恥ずかしいという気はしない。
まあ、バレてしまったからにはしょうがないか。
俺は女だと言うことを食事を囲みながら正直に話した。
「ふーん、女の一人旅が物騒だからって理由で男装するっていうのはあるが、10歳の女の子でっていうのは珍しいな」
「だな」
「そうなんだ」
「子供っていうのは男でも女でも拐って売ることができるからな」
「物騒な世の中だな」
心からの感想だ。
俺は男たちが用意してくれたスープをすする。
塩味の効いたキノコと野菜、干し肉も少し入ってなかなかウマイ。
俺がうまそうに食っているのを男たちは嬉しそうに眺めている。
「いっぱい食べてくれよ」
「そうだぞ。子供は遠慮をするもんじゃないからな」
「わかった」
調子に乗った俺は促されるまま図々しくおかわりまでしてしまった。
「お腹もふくれたら眠くなってきましたね」
俺が可愛く欠伸する様子をほんわかした顔で見つめる男たち。
「じゃあ、そろそろ寝るとするか。お嬢ちゃん、俺たちが交代で火の番をしてるから休んでいいぞ」
俺の入浴を覗いた男が火の番をかって出てくれた。
不可抗力とはいえ、覗いてしまった罪悪感でもあるのだろうか。
体はともかく、中身は男同士、気にしなくてもいいのに。
だが、眠気には勝てず、俺は先に休ませてもらうことにした。
余程疲れていたのだろうか。
俺はすぐに眠りについた。
どれだけ時間が経ったのだろう。
俺は体の違和感に目を覚ます。
「…………?」
すこし寝たようだが、まだ夜中だ。
眠い目をうっすら開けて自分の足元のほうを見てみると、火の番をかって出てくれた男が俺の股を開脚させていた。
「おい、早くしろよ」
「まあ、待てって。こんだけよく寝てるんだ。時間もあるし、じっくり可愛がってやろうぜ」
可愛がる? なんのことだろうか。
完全に目を覚ました俺だが、どういうわけか体は動かない。
どういうことだ?
「お嬢ちゃん、目を覚ましたみたいだな。だが、夕飯に麻痺薬と眠り薬をたっぷりと混ぜといたから動けないだろ」
ふむ、確かに男の言う通り、体に全然力が入らない。
「ここは人家も近くにないからな。遠慮なく大声を出してもいいんだぜ」
麻痺薬と眠り薬のせいで思考も発語もしっかりできない俺のことを男たちは、ただのいたいけな美少女だと思っているようだ。
そんなことを考えていると再び眠気が襲ってくる。
「本当は拐って売るだけのつもりだったんだが、これだけの上玉だ。俺たちで頂いてから売っちまっても相当の値になるからな」
「お前も運がなかったな。俺たちが女の喜びってヤツをたっぷり時間をかけて教えてやるからな。次に起きたときは、もうお前は立派に女の体になっているさ」
はあ、なんで俺って奴は、こんなロリコン野郎たちとの遭遇がが多いんだろうか。
エロ神様の仕業かもしれないな。
だが、俺としては全然諦めるつもりはない。
「なんだこいつ、目を閉じたぞ?」
「観念したんじゃないのか?」
目を閉じ、精神を集中させた俺を見て、男たちが好き勝手なことを言う。
「まあ、抵抗がないのは少し残念だが、構わず楽しもうじゃないか」
「おう」
「さて、まずは服を脱ごうか」
尚も男たちは好き勝手なことを言って触ってくるが今は無視だ。
俺は瞳を閉じつづけ、精霊たちに語りかける。
あとは精霊たちに任せる、好きにやれ! と。
それを最後に俺は深い眠りへと落ちていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、俺が次に目を覚ましたときそこにあったのは、女としての悦びに目覚めた俺ではなく、男たちの体で作られた目の前の肉塊だったというわけだ。
間違いなく精霊たちの仕業だろう。
俺の貞操はたしかに守られたのだが、ここまでグチャグチャにする必要はあったのだろうか?
殺人までは最悪しょうがないとして、明らかにやりすぎだろ。
俺は目の前の名前も知らない男たちだった肉塊を直視する。
「…………改めて見てもエグいな。しかも所々に指とか人だったとわかる痕跡があるところがまたエグさを際立たせているし」
肉塊は、心の弱い奴なら軽くトラウマになりそうな造形だ。
「今回は助かったが、次からは精霊たちに任せるのも考えものだな」




