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十七発目 魔物と戦闘

 俺は深い森の中を駆けた。

 大地の精霊ダーチと大気の精霊ターキのおかげで、体も軽く移動速度もかなり速い。

 そして移動中も探知は継続中だ。

 途中でエミリーたちに進行方向を変えられて行き違いになったりしたら困るからな。



「よし、もう少しでエミリーたちに追い付くな」



 俺がしばらくいくと、はるか前方に人影が見えてきた。



「いたっ!」



 タクトが三匹のオークに囲まれる中、オークの一匹がエミリーに覆い被さろうとしていた。



「エミリーさんっ! グハっ」



 タクトのアホっ!

 精霊たちを通して向こうの詳細な様子が伝わってくる。

 エミリーを気にしてオークの拳をまともに受けたタクトが、地面に崩れ落ちた。

 タクトを引きずり起こした三匹のオークたちは、下卑た笑みを浮かべながらエミリーが襲われる様子をタクトに見せつけている。

 悪趣味なやつらだ。

 あいつらはリーパー侯爵が人工的に繁殖させた魔物らしいが、魔物も飼い主に性格が似るのだろうか。

 とにかく、また一つ、俺がリーパー侯爵を嫌いな理由が増えたな。

 タクトの様子はさっき言った通りだが、エミリーも危ない。

 エミリーの服は破れて、貧乳と呼ぶにふさわしいその薄い胸部はもちろん、肌のいたるところが露出していた。

 まだどうにか最後の一線は越えられていないようで、エミリーは力を振り絞り最後の抵抗をしている。

 だが、この間にもエミリーに覆い被さるオークは、ジリジリとエミリーの股の間に割り込もうとしていく。


 俺と向こうとの距離は、あと20メートルほど。

 そう遠くはないが、もう一秒たりともその小汚ない手をエミリーに触れさせる気はない。

 そう思ってるにも関わらず、オークは今にもエミリーの体に迫る。



「そんなふざけたことさせるかよ」



 エミリーのところにいるオークを最初の獲物に決定する。

 俺は手を前にかざし指示を出す。



「イート、もう一回出番だ。『傀儡糸』」



 呼び掛けに白い光の玉が明滅し、俺の腰に装備されていた鋼糸が独りでに動き出す。



「はねろ」



 俺がいうが早いか、俺の意思の乗った鋼糸が高速伸びていき、一瞬でエミリーを襲っていたオークの首から上が宙を舞う。




「次だ」



 イートに操られた鋼糸は、俺の意図を正確にくみ取り神速とも呼べる早さで動いていた。

 その動きは全然見えない。

 高速で動くスピードのおかげももちろんあるのだろうが、ここまで細くなった鋼糸は並の剣など比べ物にならない切れ味だ。

 糸の精霊…………思ったより使える存在かもしれない。

 オークの鮮血を頭から被り、訳がわからないという顔をしているエミリー。



「エミリー、待たせたな」



 『重力制御(弱)』のおかげで、俺は天から舞い降りた天使のように優雅に着地した。

 エミリーは、その露になっている胸を隠すことも忘れて俺を見上げている。



「アルファ様……なんで? それに今、いったい何が……」



 エミリーはだいぶ混乱しているようだ。

 そりゃ、そうだろ。

 ほんのついさっきまで、オークに子種を植え付けられようとしていたのだ。

 そのオークが突然首を切られて死んだと思ったら、精霊の祠に隠れているはずの俺の登場だ。

 混乱しても当然だろ。

 俺だって、事態の変化についていくのがやっとで、つい昨日までは普通の女の子をこのまま続けていくのだと思っていた。

 まさか、精霊と契約してオークを倒すことになるなんて思ってもいなかった。



「エミリー、説教も感謝も事情の説明も話は全部タクトを助けた後だ。邪魔にならないように隠れといてくれ」


「…………はい!」



 俺の言葉を理解したエミリーが物陰に隠れていく。



「さあ、始めようぜ、豚ども」



 俺は、エミリー同様事態についていけていないオークたちに声をかけた。

 俺の声で、ようやくオークたちも今ここで起こった事態に気付いたようだ。

 引きずり起こしていたタクトを地面に投げ捨てる。

 何が起こったかまではわかっていないだろうが、三匹でかかれば俺に勝てると思っているようだ。

 オークの一匹が手に持った粗末な槍で俺を突いてくる。



「いいぜ、好きに突き刺せ」



 無防備に突っ立った俺にオークの槍が突き刺さる。

 それを見た残りの2匹のオークも俺に槍を突き立てる。

 合計、三本の槍が俺に突き刺さった…………ように見えた。



「お前らがタクトから離れてくれて助かったぞ」


「!」



 オークの背後、タクトの横に立ちながら俺が声をかけた。

 それと同時に、オークたちの槍に貫かれていた俺の体が、バシャッっと水に戻り飛散する。



「!?」


「うん、お前らがそれだけ驚いてくれたら、俺の精霊たちも頑張ったかいがあるっていうもんだ」



 俺はピンピンしている。

 もちろん、体に穴も空いていない。

 その状況にオークたちも恐怖を感じているようだ。



「どうせ、ここで死ぬ運命にあるお前たちだ。種明かしをしてやるよ。出てこい。水の精霊ミーズ、鏡の精霊カーミ」



 俺の呼び掛けに、青とグレーの光の玉が出現する。



「『水鏡分身』!」



 俺の声に反応し、二つの光の玉が明滅したあと、隣に全く同じ分身のような俺が顕れる。



「水と鏡、二つの精霊を使った分身体だ。豚のように鼻のききそうなお前らでも偽物って気付かなかっただろ? 水の中に俺の匂いのするものも混ぜといたからな」



 鏡の精霊だけでは姿は映せても、質量がない。

 水の精霊だけだと質量はあっても、うまく造形が作れない。

 それで考えた合わせ技なのだが、オークたちは槍を突き刺したあとも気付かなかったようだし、案外うまくいったようだ。



「という説明を俺は長々としたわけだが…………悪いな、これもただの時間稼ぎだ。」



 俺は会話をしながらも『傀儡糸』で、オークたちの周囲に鋼糸を巡らせ逃げ場をなくしていた。

 正直、最速で残りのオークの首もはねていれば、安全に勝てたかもしれないが、追い詰められたこいつらがどんな行動にでるかわからない。

 それに、これからのために精霊たちの能力を確認しておく必要もあった。

 だが、精霊たちの能力のテストは十分できたし、こいつらはもう用済みだ。

 残念だが、許すという選択肢はない。

 俺はオークの周囲に張り巡らせた鋼糸を引き絞る。



「!」



 残りのオークたちは悲鳴を上げる間もなく肉片となった。

 こうして、俺のはじめての実戦は呆気なく終了した。

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