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十三発目 策略と魔物

 俺が小屋生活を開始してからから1ヶ月が経った。

 俺は幼女趣味のリーパー侯爵の求婚から逃れるため、公には死亡したことになっているので、侯爵のストライクゾーンを外れる12歳まではここで静かに暮らさなければならない。

 俺はまだ10歳。12歳までは、まだ1年半以上ある。

 はぁ、まだまだ先は長いな。



 俺は珍しく早起きして、朝食後の紅茶を優雅にすすっているところだ。

 もう少ししたら、タクトがやって来る時間だ。

 俺は最近、この時間が待ち遠しくて仕方がない。

 エミリーとタクトという、初々しいカップルを弄るのが楽しくてしょうがないのだ。

 さて、今日はどうやってからかってやろう。

 わくわくが止まらない。

 俺たちのいる小屋は町の中心から遠く離れた森の近くにある。

 普段は、小鳥のさえずりや木々の間を通る風の音くらいしか聞こえない場所なのだが、今日はなんか違った。



「なんか、遠くの、町のほうがうるさくないか?」


「そうですね。ざわざわしているっていうか、落ち着かない感じですね」



 俺の意見にエミリーも同意する。



「ちょっと、外を見てくるか」



ガチャっ!


 そう言って俺が出ていこうとしたとき、ドアを開け飛び込んできた奴がいた。

 タクトだ。



「良かった。2人とも無事でしたか」


「?」


「突然、ノックもせず、失礼しました、ハア、ハア」



 普段から鍛えていて体力のあるタクトには珍しく肩で息をしている。

 タクトの自宅のある町から、俺たちの住む小屋までは数キロ離れてはいるが、タクトは毎日ここを往復している。

 息が荒いのは、ただ疲れたからだけではないはずだ。



「タクト、どうした、そんなに慌てて」


「緊急事態です」



 そう言うタクトは、いつもの笑顔ではなく、その表情は緊張感に満ちていた。

 よく見ると手には抜き身の剣を持っている。

 何かあったのは間違いなさそうだ。



「何があった」


「理由はわかりませんが、魔物が領内のいたるところに大量発生しました」


「はあ! 魔物?」


「本当なんですか?」



 俺とエミリーが驚くのも無理はない。

 この国は王都を中心に大きく東西南北に別れている。

 北は氷に閉ざされた不毛の大地。

 西は隣国との境界があり戦争まではいかなくても小競り合いがみられ、東は魔物の多く生息している場所がいくつもある。

 そんな中で、俺の父親レイナードの治めるこの領地は、この国の南に位置する地域にあり比較的安全な土地だった。



「魔物の発生なんて年に数件あればいい程度だったのに、大量発生ってどういうことだ?」


「わかりません、でも、町でも数十体の魔物が暴れてて対応に負われているのが現状です」


「ここも危険です。一旦森のなかに隠れましょう」


「でも、森のなかも魔物がいるんじゃ?」


「町中にいる数よりはマシなはずです」


「わかった」



 俺たちは簡単な身の回りのものだけを手に持つと森へと向かった。

 移動中もどうしてこうなったのか考えるがいっこうに答えはでない。

 しばらく森の中を行くと、何処からか人の声がする。

 見ると、遠くに人影のようなものがうっすらと見えた。



「おっ、タクト、あそこに誰かいるみたいだぞ」


「アルファ様、静かに」



 飛び出そうとした俺にタクトが制止をかけてきた。

 タクトの手の合図に従い、俺とエミリーは木の影に隠れ様子をうかがう。



「おかしいです。ここは普段は立ち入りを禁じられている森なので、人気はないはずなんです。それなのに町から最短でアルファ様たちの元に駆けつけた自分より先に森に入ることなんて不可能です」


「なるほど」



 ということは、あいつらはこの今起こっている現象について何か知っている可能性があるってことか。

 俺も隠れながら、そいつらの様子をうかがう。

 こんな森のなかにはそぐわない、比較的身なりの良い見たことのない男2人が話をしていた。



『侯爵様のご要望通り、この地に魔物どもを解き放ったし、我々の役目は終わりだな』


『早速、報告に戻りましょう』


『そうだな』



 うん、こんな会話しているなんて、こいつら事情を知っているどころか実行犯で間違いなさそうだな。

 しかも、今、侯爵様って言っていなかったか?

 俺の知る侯爵はただ1人。

 変態ロリコン酒樽中年のリーパー侯爵だけだ。



『それにしてもあのライアンとかいった執事もバカでしたね』


『まったくだ。奴が侯爵様に、あなたにアルファ様を奪われるくらいならと私が殺しましたって言ったときには耳を疑ったな』



 マジでライアンがそんなことを言ったのか!

 いくらロリコンで俺を他人にとられるのが嫌だとしても、マジ物の殺人鬼相手にそんなことをいうなんて自殺行為だろ。

 そんな行為をしたライアンの身に起こったことは、バカな俺でも簡単に想像できる。

 後ろを見ると、エミリーが顔を伏せていた。

 元々、エミリーがライアンに憧れを持っていたのは知ってはいたが、タクトからエミリーの身の上を聞いて、エミリーがライアンを父親のように慕っていたことを理解していた。

 相当ショックだったのだろう。

 エミリーのことが気になりながらも、男たちの会話に耳を傾ける。



『まあ、あいつが言ったことが本当かどうかはわからん。だが、確かにここの領主の娘は死んだって話だ。ひょっとしたら、侯爵様の逸話を知っていたあの執事が、侯爵様の怒り全てを自分に向けさせようとしたのかもしれないが、どのみち侯爵様の怒りがたった1人をぶっ殺すだけで満足するはずないのにな』


『お目当ての娘を手に入れられなかった腹いせに、侯爵様が興味をなくした女どもを使って繁殖させた魔物どもをばら蒔いてこいって命じられたときはどうなるかと思いましたが、無事に済んで良かったですね』


『そうだな。だが、ここに長居して巻き込まれたら堪らん、早く逃げるぞ』


『はい、すぐに準備します』



 ライアンは確かにロリコンかもしれない。

 だから、俺には優しかったのかもしれない。

 だが、いつも俺の無茶な要望や期待にも誠実に答えてくれた。

 悪い奴ではなかった。

 その全てを踏まえて、ライアンは変態クソヤローに殺されていい奴ってわけじゃない。



「………………」



 こいつら、ぶっ殺してやりたい!



「ダメです、アルファ様!」



 俺の感情を察した、エミリーが俺の手を掴んできた。

 その目には涙が浮かんでいる。

 確かに、今飛び出しても単に殺されるか、最悪捕まって侯爵につき出される可能性もある。

 それは最期まで俺を侯爵に差し出すことを拒んだライアンの望むところではないだろう。

 魔力はあっても魔法の知識は理解できず、剣を振り上げる力もない。

 今の俺には逃げようとしているあいつらをどうにかできる力はないのだ。

 俺に出来ることといえば、あいつらに見つからずにやり過ごし、ことの真相を領主である父親に知らせることくらいだ。



「俺たちも逃げるぞ。そして、この事態をみんなに知らせないと」


「そうですね」


「わかりました」



 俺の意見にエミリーやタクトも同意し、俺たちは動き出す。

 それにしてもリーパー侯爵め。

 ライアンを始末し、エミリーを泣かせて、平和なここを魔物で荒らしてみんなを危険にさらしてる。

 俺は前世も含めて、人をこんなに嫌いになったのは生まれて初めてだ。

 あいつには、いつか絶対に思い知らせてやる。



 男たちの会話でリーパー侯爵に怒りの感情を抱きすぎていた俺は、この時まだ重大な事実に気付いてなかった。




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