十二発目 覗き男と俺
昨日の晩は、覗き騒動に始まったいろいろな出来事があって、疲れた俺はグッスリと眠ることができた。
目を覚ますと、朝日はとうに昇っている。
「ふぁぁ、よく寝た」
「まったく、寝過ぎですよ、アルファ様。片付かないんで、早く食べちゃってくださいね」
「ふぁ~い、わかりました、お母さん」
「誰がお母さんですか!」
うんうん、エミリーは今日も元気だ。
同じように夜更かしをしていたはずのエミリーは、俺より早く起きて、もう朝食の準備をしてくれている。
しかし、あんなふうに文句を言いながらも、俺の目を覚ますタイミングに合わせて飲み頃温度のスープを朝食として用意してくれるだなんて、エミリーもなかなか出来るメイドだと思う。
俺が食事の邪魔にならないようにと、自分の長い金髪を適当に結い上げていると。
「キャっ!」
パリーーン
エミリーの本日1発目と思われるドジにより、俺のお気に入りの皿が1枚この世を去った。
エミリーに葬られた俺の食器は両手では足りない。
このような感じで、エミリーは1日3回はドジをしなければ気がすまない体質なのだ。
まあ、ドジといっても、転けて下着丸見えとかの俺的には「ドンマイ!」と言いたくなるようなドジもある。
ほんと、ドジがなければエミリーは最高なメイドなんだがな。
ふう、そういえば、あれからエミリーとタクトがどうなったかって?
あのあと、エミリーとタクトには、俺の命令により強制的に話し合いの場をもたせ、徹底的に話をさせた。
それで、エミリーがタクトのことを気持ち悪いと感じたら、それまでのことだと思ったしな。
その結果、一応はうまくいったようだ。
とりあえず、友達からという形だが、恋愛の経験のない純情な2人の始まりとしては悪くないだろう。
コンコン
ドアをノックする音が聞こえた。
「アルファ様、エミリーさん、おはようございます」
「おはようございます、タクトさん」
「おう、タクト。今日もよろしくな」
「はい、お2人には誰にも指一本触れさせません」
「お~、張り切ってるな、タクト。でも、俺のことはエミリーのついでだろ?」
「なっ!」
「アルファ様!」
俺がニヤニヤしながら突っ込んでやると、2人とも初々しく顔を赤くしていた。
「いいな~、若いって」
外見は10歳の超絶美少女お嬢様でも、中身の精神年齢が40代の俺には眩しすぎる。
「10歳のアルファ様に言われたくないですよ!」
「そうですよ!」
「それもそうだな」
2人のいうように、この場では10歳の俺が1番若い。
エミリーとタクトの最もな反論を聞いて、俺も笑いを堪えきれなかった。
エミリーとタクトの交際は、俺としても恋のデストロイヤーの汚名を授からずに済んで、非常に満足している。
タクトは俺たちと共に軽くお茶をすると、自分の持ち場である小屋の前にて仕事を開始する。
といっても何も起こらなければ、見張りの護衛なんてただ立っているだけになるので、俺たちが使う薪を割ってくれたり、エミリーの始めたいと言っていた家庭菜園の土を耕してくれたりと、いろいろな雑用もこなしてくれている。
そうは言っても今の本業は俺たちの護衛なんで、今日は剣の訓練をしているようだ。
「なあ、それ本物か?」
俺はタクトが握っている剣を指差し聞いてみた。
「もちろんですよ。もし、魔物が出たら、これでアルファ様やエミリーさんを守らないといけないですからね」
「う~ん、ここに来て1週間は経つが何も出ないぞ? ウサギやキツネくらいだ」
「平和が一番ですよ」
そう言って笑うタクトは、少し自信がついたのか以前のような気の弱いような頼りない感じはなくなっいた。
恋愛は人を成長させるようだ。
それはそうと。
「ちょっとその剣を触ってもいいか?」
精神年齢40代にして、少年の心を失っていない俺は、初めて見る生の剣に興味津々だ。
タクトの持っている剣は比較的細身の両刃になっていた。
あれくらいなら俺でも持てるかもしれない。
屋敷ではお嬢様として扱われ、剣に触れる機会はなかったが、せっかく異世界に来たのだ。
美少女剣士気分も味わってみたい。
「いいですけど、怪我をしないでくださいね」
俺はタクトから、鉄で出来た剣を受け取る。
「重っ!」
「そりゃあ、鉄でできていますし、多少重くても当然ですよ」
タクトはそう言って笑うが、こんなもん、とても振り回せるもんじゃない!
俺の華奢な美少女ボディがか弱すぎるのか、振り上げることすら出来ない有り様だ。
すぐにギブアップして、剣をタクトに返却する。
タクトは笑顔で剣を受け取ると素振りを再開した。
「でも、タクト、お前腕力はともかく、剣を持ってても弱そうに見えるんだが、大丈夫か?」
「確かに自分は剣の腕も良いわけでもなく、たいして強くはないですね。でも、守るための強さは剣の腕だけじゃ決まらないですよ。気持ちだけなら誰にも負けません」
「気持ちだけって、お前な」
「それに、いざとなったら、アルファ様とエミリーさんを抱えて逃げ出します。逃げ足にはそこそこ自信があるんで!」
「逃げ足に自信って…………タクトらしいっちゃ、タクトらしいか」
「でしょ」
タクトが情けないとも取れるような自慢をしてくる。
男としてはどうなんだと考えなくはないが、俺としては好感が持てる回答だ。
「自分は逃げることを恥ずかしいなんて思いません。エミリーさんを幸せにするためには、絶対に死ねませんからね」
「それはいい考えだな」
「でしょ。そして、エミリーさんが幸せだと感じるためには、アルファ様の存在も大事なんで、しっかり守らせてもらいますよ」
「まあ、一応は使えるべき主だからな」
「何言っているんですか? アルファ様はエミリーさんにとって、主以上の存在ですよ」
「俺が?」
「あれ、聞いてません?」
タクトが不思議そうな顔をする。
「エミリーさん、家族がいないんですよ。いろいろ親戚も回ったみたいですが、結構ドジなとこがあったりして追い出されたりとかして。何処にも行く当てがないところをお屋敷で雇ってもらっていたらしいですよ」
「何でお前はそんなに詳しいんだ?」
「以前から、エミリーさんのことを想ってましたから!」
タクトが当然とばかりに胸を張る。
だったら、何でお前はエミリーに手を差し延べなかったと思わなくもないが、エミリーが屋敷に来た頃といえば、タクトもまだ10代半ばだったはず。
誰かを養えるはずもなかった。
「敢えて詳しくは調べていませんが、お屋敷でお世話になってからも結構きつく当たられ辛いこととか、襲われそうになったりと危ないこともあったみたいです。エミリーさんが、アルファ様のお側係になっていなかったら、今頃どうなっていたことか…………」
そういうタクトの拳は固く握られている。
こいつは本当にエミリーのことを大事に想っているのだろう。
ハンスのやったこととかを知ったら、奴を殺しかねないな。
「そんなエミリーさんにとって、アルファ様は神様みたいな人なんです」
確かに、お嬢様として転生させられた俺にはいまいち実感はないが、10代前半の少女が1人で生きるには、ここは厳しい世界だろう。
もし、俺が逆の立場で助けてもらったなら、俺もそいつのことを神と慕ったかもしれない。
だが、エミリーの奴、俺なんかにそこまで感謝する必要ないのにな。
世話になっているのはお互い様だ。
「なるほど、事情はわかった。でも、勝手にこんなにペラペラエミリーのことを話して大丈夫なのか? 嫌われたりしたらどうする?」
「大丈夫ですよ。アルファ様にはエミリーさんのことを知っててもらったほうがいいと判断したので話しました。それに、アルファ様には覗きを庇ってもらった恩もありますしね」
「あの穴じゃ、ほとんどエミリーの顔しか見えなかっただろ」
「アハハ、さすがアルファ様。あそこから見える光景を知っていましたか」
「この事はエミリーには」
「もちろん、内緒にしときますよ」
人懐っこい顔でタクトが笑った。
剣の素振りでかいた汗がキラキラ光り、爽やかさを演出している。
うん、間違いなく好青年だ。
俺が女なら惚れてるな…………って、あれ、俺って今、女だった!
驚愕の事実に戦いてはしまったが、もちろんエミリーの初彼を奪う気など更々ない。それに、男の記憶があるうちは絶対に男を選ぶ気にはなれないしな。
思ったより話が長くなりそうなので、12話はここで切ります。
次話は仕事の都合もあり1~2日後に投稿します。
話を動かしていくという予定変更して申し訳ありません。




