十一発目 覗き男と土下座
はぁ、これからどうするかな。
これからどうするとは覗き男の処遇である。
俺は周りを見回す。
今、小屋のダイニングには、俺以外にネグリジェ姿のエミリーとエミリーの入浴を覗いていた若い男の3人がいる。
「まあ、お茶でも飲んで、一旦落ち着こう。エミリー、頼む」
「わかりました」
「…………」
俺の対面に座り、覗き男がガチガチに緊張している。
若い覗き男、名をタクトという20歳の青年らしい。
こうして明るい場所でじっくり見て初めてわかったが、タクトは地味な顔立ちだが、けっして不細工というわけではない。
それなりに整った顔で、身長も170後半といった細身で筋肉質な体つき。
多少気の弱そうな感じはするが、確実に転生前の俺よりも外見的には高スペックな男だ。
「どうぞ、紅茶です」
「あ、ありがとう……ございます、エミリーさん」
タクトの前に飲み頃の温度の紅茶が用意される。
提案したのは俺だが、紅茶を淹れてくれたのはエミリーだ。
タクトの奴、憧れのエミリーから紅茶を淹れてもらえるなんて、滅多とないチャンスのはずだが、あれじゃ味なんてわからないだろうな。
タクトのティーカップを持つ手が震えている。
まったく、キョドりすぎだ。
だが、タクトの気持ちもわからなくはない。
憧れのエミリーの入浴を覗いた余韻に浸っているタクトに、俺がいきなり声をかけたもんだから、タクトが悲鳴に近い大声を上げ、そこにエミリーが様子を見に来てしまい、とりあえずタクトに事情を聞きたいというエミリーの要望を断りきれず小屋の中に招き入れ、今に至るというわけだ。
きっと、気分は現行犯逮捕された犯人のはず。
まあ、タクトが軽犯罪を犯したのは事実だけどな。
すべてを知る俺は、黙って事態の推移を見守ることにする。
「あなたは、私たちの護衛をしてくれているタクトさんでしたよね?」
「は、はい」
「どうしてあんな所にいたんです?」
無自覚な被害者エミリーの言葉が、罪悪感に押し潰されそうになっている加害者タクトの胸を無慈悲に突き刺す。
ドスっ! って鈍い音がタクトの胸から聞こえた気がする。
エミリーの奴、ど直球だな。
まあ、浴室には天井に換気孔があるだけで窓もないし、俺以外のエロ思考に鈍く自己評価の低いエミリーからしたら、自分の入浴を覗いてたんじゃないかって疑いを持つこともなく、本当に疑問に思ってるだけなんだろうな。
だが、それは常日頃エミリーをよく知る俺だからそう思えるわけで、他の奴にそこまでの考えを巡らすことを求めるのは酷というものだ。
さっきのエミリーの言葉を普通の感覚で翻訳すると、「あんた、私のお風呂を覗いてたんじゃない?」である。
タクトの脳内でも自動翻訳されたようだ。
尋常じゃない汗が吹き出ている。
「…………いや、あ、あの、その」
「タクトさん? 汗がすごいですけど、大丈夫ですか?」
きっと、今のエミリーの言葉も「何かやましいことあるんじゃないの?」と自動翻訳されて聞こえているに違いない。
ふう、見ているほうが心苦しい。
タクトもあなたの入浴を覗いていたからとは答えられないだろう。
そもそも風呂を覗いてたっていったって、ほとんど顔と鎖骨しか見えていなかったはずだ。
しょうがない、タクトに助け船を出してやるか。
「こいつは、俺がエミリーの風呂を覗こうとした時にコケそうになったところを助けてくれたんだ。なっ、そうだよな、タクト」
「「!」」
素っ気なく言った俺の言葉は、自分でも相当嘘臭いと思う。
エミリーにも多少疑われるだろうが、その時はそのときだ。
俺はエミリーの反応を待つ。
「ああ、なるほど。それでタクトさんは慌てて、あんな大声を出していたんですね」
何っ! 全く疑うことなく俺の言葉を信じやがっただと!
「へっ?」
「あれ? エミリー、俺の言葉を信じたのか?」
「はい、信じましたけど何か問題でも?」
俺とタクトが、そろってアホ面になる。
タクトは、俺の突然の助け船に驚いたから当然だろうが、俺のほうの気持ちは理解してもらえるだろうか。
何でエミリーは、俺が風呂を覗こうとしたってことには疑問を抱かないんだ?
不思議でしょうがない。
「あのさ、エミリー。俺がお前の風呂を覗こうとしたっていうところに何も疑問は抱かないのか?」
「疑問? 何でです?」
エミリーが心底わからないという顔をする。
俺にはエミリーがそんな顔をする理由のほうがわからない。
「だって、ほら、俺はいたいけな10歳の美少女で、同じ女のエミリーの入浴を覗くだなんてことーー」
俺がすべてを言い終わる前に、エミリーがニッコリといい笑顔で聞いてきた。
「アルファ様、いくつか確認させて貰いますが、メイドたちの下着を覗きながらスカートの中を渡り歩いたりして遊んでいたことは?」
「ある」
「私のスカートを捲って、執事のライアン様の前で下着を丸出しにさせたりしたことは?」
「ある」
「私の下着を確認したうえで、大人なパンツをプレゼントしてくれたことは?」
「ある」
エミリーが、ハア~っとタメ息をつく。
「アルファ様、よくそれだけのことをしでかしておいて無実を主張しましたね」
エミリーが頭を抱え、タクトが唖然とした表情をしている。
エミリーは気付いていないが、実はエミリーが14歳の時に貧乳具合を触って確かめたこともある。
…………あれ?
こうして考えたら、俺って結構いろいろしているな。
エミリーが即納得したのもわかる気がする。
「私のお風呂を覗くのだって、アルファ様だったらありえます!」
「…………」
エミリーの奴、断言しやがった。
思わず、黙ってしまった俺も俺だが。
全くブレることのない、すごい俺への信頼感だ。
これが俺が常日頃から築いてきたものってことだな。
まあ、俺自身、成り行きで本当にエミリーの入浴を覗いてしまったから言い訳できないんだけどな。
「タクトさん、アルファ様が危ないところを助けてもらったようで、ありがとうございます」
エミリーの中でタクト株が急上昇だ。
結局は俺が狙った形になったとはいえ、なんか納得がいかないが、まあいい。
これで一応話が纏まったなら、それでいいかと俺が思っていたとき、タクトが突然エミリーに土下座をした。
「エミリーさん、すみません! アルファ様は悪くありません! 俺がエミリーさんの入浴を覗いてしまいました!」
「!?」
「おい、バカっ! わざわざ言わなくても」
「でも、アルファ様! 俺、エミリーさんに嘘はつけません!」
まったく、こいつは直情バカなんだろうか?
絶対に損するタイプである。
だが、俺としてはこういう奴は嫌いではない。
「エミリー、でもこいつは心底悪い奴じゃない! 本当にエミリーのことが好きなだけなんだ!」
「えっ!」
「!?」
思わず叫んだ俺の言葉に2人が反応する。
エミリーは顔を真っ赤にし、タクトは顔を青くしている。
ヤベっ! ついタクトがエミリーのことを好きなのバラシちまった。
俺は冷や汗を流しながら思う。
俺は、今度こそ恋のデストロイヤーになってしまったかもしれない。
読んでくださっているかた、ありがとうございます。
新たにブクマ登録してくれたかたもいたりしてくれて、メチャクチャ嬉しいです。
次の話は少し話を動かしていけたらと思います。
拙い文章ですが、お付き合いいただけたら嬉しいです。
最後に、タイトルあんななのに危機がまだ少なくてすみません。
一応、貞操とは体もですが、人としての正しい道って心の意味もありますので自分の欲望に忠実なアルファは、ある意味いつでも貞操の危機に面しているってのは間違いじゃないんですけどねw
これからも1~3日に1回更新できたらと思いますので、よろしくお願いします。




