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幼馴染み優先で、私を雑に扱う婚約者は捨てることにしました。  作者: ぽんぽこ狸


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54 会議




 正装をした貴族たちが次々に集まってくる。全体的に年配の男性が多く、若い女性は少ない。


 御前会議が開かれる部屋は天井が高く開放的で中央の一番奥に、玉座があり全員玉座の方を向くようにコの字に机と椅子が設置されている。


 貴族たちが席に着くと最後にフェリベルト国王がやってくる。


 フェリベルト国王は一度だけ、父とロミルダのいる方を見た。そしてうっすら表情を曇らせたがすぐにいつもどおりの表情にも取った。


 あの襲撃者たちはフェリベルト国王の差し金だったはずだからこそ、ロミルダがここにいることは想定外だったはずだ。それ故の混乱が顔に出たのかもしれない。


 集まった貴族たちは最近の魔獣増加の状況もあってか不安げな表情を浮かべていて、ピリッとする緊張感があり、フェリベルト国王に注目が集まっていた。

 

 そこに司会が御前会議の開始を告げる。


「静粛に」


 司会は礼儀的にそのように告げたが、そもそも無駄口を叩いている貴族など一人もいなかった。


「これより、フェリベルト国王陛下の御前にて国家の重大なる審議をお聞き届けいただく。皆々様、どうぞ礼を正してお臨みください 」


 いつもどおりの口上が述べられて、司会は日常的な議題を上げて口にする。


 例えば、徴税の報告について、司会が議題を上げるとフェリベルト国王は頷いたり言葉を添えたりして、適任である貴族が指名される。


 その貴族は『つつがなく進んでおります』や『例年どおりに』などの変わらぬ返事を返す。


 それが一つの議題に対する大体の流れだった。


 もちろん、問題があれば会議という名目らしく議論すると言う流れになるが、基本的にフェリベルト国王が一言答えれば議題は終わる。

 

 そうして会議は進んでいくが、そんないつものやりとりを聞きに来ているわけでは無い。


 怪訝な顔をしている貴族が多く、ゆっくりと進んでいく議題をじれるように聞きながらロミルダもその時が来るのを待った。


「では、次に。現在も我が国を襲っている魔獣の増加についてですが――」


 一時間は経とうかという頃、やっとくだんの議題が上げられた。


 そして、フェリベルト国王はすっと片手を上げて司会の言葉を制止した。


 なにかが始まると貴族たちの注目が集まる。


 もちろんロミルダも、ピシッと背筋を正してフェリベルト国王の動向を見守った。


「それについては余から話をしよう」

「はっ承知いたしました」


 司会の反応ににこりとして頷き、フェリベルト国王は貴族たちの方を見やって口を開く。


「まずは、魔獣の増加に堪えわが民を守り、尽くし懸命に戦う者たちに感謝を」


 フェリベルト国王の表情と声音は紛れもない本物に見えたけれども、ロミルダが彼がそのようなことを絶対に思っていないことを知っている。


 感謝する気持ちがあるならば、竜など復活させるわけが無いのだから。


「……そなたらのおかげで、ついに原因を究明することができた。結論から言えば、古の竜に復活の予兆が見られたのだ」


 今まで静かに話を聞いていた貴族たちの間に一気に動揺が生まれる。


 怪訝な顔をする貴族やぽかんとしている貴族も多い。

 

 しかし、半数ほどの貴族は、視線を鋭くするのみでただフェリベルト国王を、見守っていた。


 きっと父が反対派を募る際に、話を通していた貴族が多いが故の反応だろう。


 それをフェリベルト国王はどう思っているのだろうか。先ほど目が合ったときの表情は明らかに曇っていた。


 彼は今日勝算を感じてここにいるのだろうか。


「しかし、案じる必要はない。なぜならすでに伝説の竜を鎮める力を持つ、ブロムベルク辺境伯家の協力は確約され、王太子エトムントとブロムベルク辺境伯令嬢が縁づき竜を手中に収める算段が整っている」


 フェリベルト国王はきっぱりとそう言いきった。


 もしロミルダが捕まったままでは、フェリベルト国王のこの言葉をそくざに否定することは父には難しかったかもしれない。


 しかし、今はまったく状況が違う。

 

 それでも動じずにフェリベルト国王は毅然とした態度を貫いているけど、父は手を上げて、発言の権利を求めた。


「……ブロムベルク辺境伯」

「その話についてだが、竜を鎮める力について、フェリベルト国王陛下の耳に入れておくべき重要な事項があるのです」


 そうして父はロミルダに話をふる。ついに努力の成果を発揮するときがやってきた。


 フェリベルト国王は、とても不愉快そうな顔をしならも「竜を鎮める力について、だと?」と問いかけた。


 ロミルダは、片手をぐっと握り、机に広げた資料を持って、大きく息をすう。


 それからフェリベルト国王を見やった。


「僭越ながら私から説明させていただきます。フェリベルト国王陛下」


 ロミルダが言うとフェリベルト国王の目線も、その場にいる貴族たちの目線も一気に集まる。


 しかし、フェリベルト国王は却下しなかった。


 話してもいいと言うことだ。


 声が震えないよう、まっすぐにフェリベルト国王だけを見て声を張る。


「竜の復活が差し迫るという話を聞き、ブロムベルク辺境伯家にとって竜を鎮める力を知ることは急務になりました。父が様々な準備を整えている間、私は魔法士の母テレーゼとともにその力とは何かを探りました」


 語る話には少し脚色を混ぜている。


 ロミルダが狙っているのはフェリベルト国王との衝突は無しに、竜の復活を諦めさせることだ。


 だからこそあくまで栄誉ある役目をくれたフェリベルト国王のため、そして国のためと言うスタンスを取る必要がある。


 そういうスタンスを取っている限り、フェリベルト国王は反逆者として糾弾することができないからだ。

 

 そして、ロミルダは跡取りと言っても若く未熟に見られることも多い。しかし、母のテレーゼは魔法士としての実績がある。


 彼女が関わっていると示せば説得力も違う。


「遙か昔の伝承とあって、力が何を示すのかを探すことは難航しましたが、当時の記録とともに、ブロムベルク辺境伯家が与えられた力とはなんだったのかが明らかになったのです」

「……ふむ」


 フェリベルト国王はロミルダが何を考えているのか探るように、自らのあごひげをさりさりと触りながら、低い声であいづちを打つ。


 さすがにこの段階では、こちらの思惑を探ることは難しかったようで、数秒後に付け加えた。


「続けよ」

「はい。……その力は多くの伝説に神から与えられし神秘的な力のように記載されていましたが……実際は先祖がもたらした我が家秘伝の魔法薬を掛け合わせた発明でした」


 イメージしやすいように持ってきた二つの瓶をロミルダは机の上に並べて一つの瓶に触れる。


「こちらはどこにでもありふれている、魔力薬。魔力が潤沢にある時に使用者の魔力を溶かし込んで作り、魔力が枯渇しそうになったときに使用し魔力を回復させる薬です」


 一つ目は説明したととおり誰もが知っている魔法薬の一つだ。


 ロミルダも、いくつか在庫を持ち歩いていることが多い。


 そして重要なもう一つの瓶に触れて手に取った。


「そしてこちらは、ブロムベルク辺境伯家に伝わる秘伝の魔法薬の一つ。……魔力好循環薬です。使用方法としては体内の魔力を活発化させ、回復の魔法薬などを消費せずに、傷を治し、体を活性化させる魔法薬です」


 回復の魔法薬は魔法具は生産コストが高く、高額で騎士たちの備品として配布するには不向きだ。


 しかしこの魔法薬は生成が容易で、魔力が良く循環すれば動きも良くなる。


 よく重宝している薬だ。


 そう言う家系特有の資産とも言える薬や魔法を持っている一族はそれなりにいる。

 

 さほど珍しい話では無い。


「それらを使用すると力に目覚めるという、話か?」


 フェリベルト国王は先を急かすように問いかけた。ロミルダはその言葉にかぶりを振って答える。


「いいえ。……私たちに使うのではなく……竜に使うのです」

「……」

「かつてのブロムベルク辺境伯の魔力薬、そして魔力好循環薬を混ぜ合わせたものを作り、竜に使用する。すると、魔力が効率よく竜の体を循環し……すばやく使い魔化することができる。それが竜を鎮めた力の正体です」


 竜はただ長いこと眠っているだけなのだ。


 魔法的に封印されているわけでもないし、倒されるわけでもなくただ眠っている。


 その理由は、奇しくも王族が求めた使い魔という形だからこそ実現できた状態だった。


「ご存じの通り魔獣は魔力を求めて凶暴化している。たっぷりの魔力薬と魔力好循環薬でその魔力をそくざに補ってやれば、使い魔になるのは何ら疑問もないことです」


 ロミルダが続けて説明をすると貴族たちがざわめく。しかしその声はどれも否定的な物ではない。


 むしろ納得しているような声が多く、さらに追い打ちをかける。


「それに竜は倒されることなく、長年の眠りについているだけです。それも、かつてのブロムベルク辺境伯が使い魔にして命令したのならば納得のいく結末だと思います」

「……」

「ご理解いただけたでしょうか」


 フェリベルト国王を見やってロミルダは問いかけた。



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