52 合図
アレクシスが到着した後、遅れてブロムベルク辺境伯騎士団の騎士たちが到着して、別の場所に捕らえられていたエイミーたちを見つけた。
どうやらアレクシスは、あまりの不安に敵を見つけて突っ込んできたという状況だったらしい。
怪我が無かったからいいものの、普段ならば喜ばれない行為だ。
そして、必要な資料たちも襲撃者が回収していたらしくある程度まとまった状態で見つかった。
経過時間は一日ほどということ。
つまりは、父たちに会議前に説明する猶予がなくなった。
ここからだと馬で向かえば半日ほどで王都の屋敷に到着できる。しかし正装の準備や身支度を考えるともう間に合わないと判断してもいい時間だろう。
諦めてこの場で一晩過ごし、騎士たちをねぎらい御前会議の後に備えるのが一番確実性が高くてむだが少ない。
「どうします? お嬢。……俺はまだ動けます」
返答を促すようにアレクシスは問いかけてきた。そして彼はそれでもロミルダがまだ諦めたくないことを察しているようだった。
「……間に合わないかもしれなくても……アレクシスが来てくれて残った希望だから。私は賭けたい」
「ああ、ならさっさと出発しないとな」
わがままを承知で言ったがアレクシスはすぐに了承して、騎士たちに話を通しに向かった。
ここからは馬で向かうことになるのでエイミーたち使用人は今夜はここで過ごしてもらい、ロミルダは資料とともにロミルダ救出にやってきた騎士たちと王都を目指す。
乗ってきた馬の数に帰る人数が合わないので必然的に婚約者であるアレクシスと相乗りすることになった。
誰かの腕の中で馬に乗るなんてすごく久しぶりで、背中に伝わる彼の体温が温かくてとても安心した。
夜の澄んだ風が頬の撫でる中、ふとロミルダは気になって問いかけた。
「そういえば、どうしてすぐに襲撃がわかって、私のいる場所までわかったの?」
襲撃者が成功し、フェリベルト国王に連絡して彼がブロムベルク辺境伯家に、ロミルダを捕らえたことを伝えること自体は変では無い。
ただたった一日の間に場所まで把握して救出に向かうのは、なにかカラクリが無くてはおかしい。
今は御前会議が差し迫っているので、気にせず話を進めたけれど移動している今ならその話をしていても良いだろう。
「……以前、お嬢に渡したブレスレット覚えてるか?」
問いかけると後ろから耳の近くに返答が返ってくるのはとても不思議な気持ちだった。
「もちろん。ずっとつけてたから」
「あれ……討伐の契約をしている貴族に渡している合図の魔法も組み込んであったんです。炎の魔法が発動してもしなくても、捕まったりしたら壊されること多いだろ?」
「そうね、よっぽどお金に困ってなければ、危険だから破壊するわね」
「合図の魔法具は一定以上の魔力を与えたり、破壊なんかを条件に合図を送って位置がわかる。だからこそ緊急時には絶対に助けに行けるよう用意してあったんだ」
合図の魔法はとても簡単な魔法だ。組み込むことはたしかに出来るだろう。
しかしまったくもって知らなかった。
「全然知らなかった……」
「言ってなかったんで……魔法士に相談したら、一番最新で一番安心なのはそういう作りだって言われたんだけど、想像してたより難しくて正直……うまくいってる保証は無くて」
「そうなの?」
「ああ。だから、もっとうまくなって新しいのを作ってその時に、合図の話をしようと思ってたんだ」
(なるほど、たしかにそう魔法士に言われたら一番すごいのを作りたくなるのはわかるかも)
そこを目指していたから、それ故の副産物が今回ロミルダのことを救ってくれた。
アレクシスがいなかったらロミルダは本当にどうなっていたわからなかった。
「それでも渡しといて良かった。……また次もちゃんと動く確実な魔法具作るんで受け取ってください」
「……うん」
大切にされているなと心から思う。
役目を果たして壊れてしまったブレスレットのことは惜しいけれど、またアレクシスの想いが籠もった品をもらえるのが嬉しい。
「……ねぇ、アレクシス」
「なんすか」
「次、魔法具を作るとき、私も一緒に作りたい」
「……誰に渡すんだ?」
ロミルダが言うとアレクシスはなんだか警戒するような声を出してそう言った。
まさか彼が他人に渡す物だと判断するとは思っていなくてロミルダはクスクスと笑って、少し背後に体重を預ける。
「あなたに」
「!」
「あなたが来てくれたとき、すごく安心してすごく嬉しかった。それに何よりこれからずっと、あなたからもらった物を身につけているだけですごく安心すると思う」
「……」
「だから、あなたにもそう思ってほしい。私もあなたに何かあったら必ず駆けつけるから」
「……嬉しい」
短く、彼はぽつりと言って、手綱を片方の手でまとめて持ち、片腕でロミルダのことを抱きしめた。
少し苦しいぐらいだったが、ロミルダはか弱い女の子ではないので「ふふっ」とくすぐったいみたいに笑って、それから朝焼け頃に王都に着いたのだった。




