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幼馴染み優先で、私を雑に扱う婚約者は捨てることにしました。  作者: ぽんぽこ狸


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49 転機


 竜についての記載はあったものの、冒頭から終盤まですっぽり記録が飛んでいた。


 それに気がついて血の気が引く、どおりで見つからないわけである。


 やはり何らかの理由があって他の場所に移されているのかもしれない。しかし今からそれを見つけるのは困難だ。


 何かしらの記載が無いかとその時期の周辺の本をあさったところ、竜が討伐されたことだけを記載してある最後の部分に、ほんの数行の記載があった。


『我らは竜を御するすべを手に入れいたが、元来このようなものなど災いの種にしかならぬ。故に、記録に残すことを禁じまた次の世代にも残さぬ物とする』


「……うそ……」


 そこまで読んでロミルダは終わったと思った。あまりに強大な力過ぎて力を誰にも教えないことにしたらしい。


 たしかに竜をも鎮めるなんて、強すぎる力だ。悪い人間が戦争利用しようと考えないとも限らない。


 それは正しいかもしれない。しかし今は、今だけはそうであってほしくなかった。


 その後はロミルダは惰性で文字を追った。


『ただし、わが血族が危機に瀕し、決意を持ち責任を背負い使うというのならばその限りでは無いだろう、詳細は――』


「……本当? ……本当に? 本当? 嘘?」


 そこからは詳しい棚の番号と本のタイトルが記載されていて、感情の落差で頭がクラクラしながらロミルダは地下書庫を歩いた。


 まったく竜が現れたときとは違う時期の場所に置いてある棚の本を抜き取ると隠し棚が存在していた。


「っ~!! ……あった、あった!! これだっやっと……っ~!!!」


 なんとも言えない感情がこみ上げてきて、少し涙がにじんだ。しかし猶予は無い。とにかく本を手に取って、一心不乱に読み込んだのだった。







 期日が迫っていたこともあり、検証がまったく間に合わなかったが、竜を鎮める力に関する資料とそのための道具、母の魔法士としての見解と理論説明を書いてもらってロミルダは急いで馬車に乗り込んだ。


 護衛はロジーネのために半分置いて、身軽な形での王都への出発だ。


 しかし、明るい気持ちになる余地もなく、これをどう利用するか説明する方法と、納得感があるような資料などを組み合わせるのに酷く忙しい。


 ガタガタ揺れる馬車の中で、見つけた竜の文献を読みつつ整合性を確認していく。


 面倒で、もう疲れ切っていたので、馬車の中ぐらいではぐっすり眠って王都に備えたかった。


 しかし戻って父やライツィンガー公爵と話して共有し、御前会議でフェリベルト国王の意志を折ってもらうには、まずロミルダが一番に理解して彼らに説明しなければならない。


 王都までの数日が唯一の準備できる期間だ。もっと早く文献が見つかってくれていれば良かったのだが、そう愚痴を言ってもいられない。


 できることをやりつつ馬車での時間を過ごした。




「っ……う゛ぅー……よ、酔う……」

「仕方ないことですわ。馬車に乗ってからずっとそうなんですもの」

「で、でももう少し。……せっかく見つけたんだもの……これさえあれば、私たちはただ竜に翻弄されるばっかりじゃない」

「それはもう何度も聞きました。……気持ちは変わりますわ。でも王都まで今しばらくあります。酔い覚ましに、キャンディでもなめて少し休憩なさってくださいませ!」


 さっとエイミーは小さな瓶の蓋を開けて、ロミルダに差し出した。


 小さな琥珀色のキャンディーはつやつやと光っていて甘そうだ。


 たしかに今日は今朝からまだ休んでいない。


「さぁ」

「……うん。そうしようかな」


 小瓶からキャンディを一粒取り出して、コロリと口に入れる。


 舌が痛いぐらい甘くて、信じられないぐらいおいしい。


 疲れを癒やすために、目をつむるとあっという間に眠気が襲ってきた。


 実際、馬を休ませている夜の方が揺れが無く作業がしやすい関係で、徹夜で作業をしていた。


 それなのに馬車でもこんなことをしていれば酔うのも当たり前だ。


 王都はもうあと一日も走れば到着するだろう。


 完璧にしたいけれど焦りすぎることもない。

 

 そう思うのと同時に意識は落ちて、深い眠りの底に落ちた。



 

 眠りに落ちたほんの数秒後、ロミルダの乗っていた馬車に大きな衝撃が走った。


 ドンッと雷が落ちたみたいに光が満ちて、ロミルダは目を覚ましてとっさに、向かいに座っていたエイミーを抱きしめてかばった。


「うぎゃ!」


 エイミーは淑女らしからぬ悲鳴を上げたが、それはその後馬車が横転したズガンという音が鳴り響きかき消される。


 変に窓から日の光が差し込んで視界が赤い。


「っ……? なんなんですの?」

 

 遠くから喧噪が聞こえる。ロミルダの腕を押しのけてエイミーが起き上がる。一方ロミルダは意識がだんだんと遠くなっていく。


「え、あれ。お嬢様? そ、外は?」


 混乱するエイミーの声は遠くなる。


 彼女の声は震えていて、今すぐ立ち上がらなければと、考えるのにまぶたが重たい。


 横倒しになった馬車の中の光景は奇妙なもので、夢でも見ているみたいだった。


 真下にある馬車のカーテン、縦に立てかけられているみたいな座席、散らばる書類にキャンディの瓶。


 先ほど眠ったところだし寝ぼけているなんてことは……ないだろうか。さすがにないだろう。


(うごか、ないと……)


 夢なんかではない。だから動かなければ。


 必死に願うが、視界に移る指先はピクリともしなくて、ロミルダはがくりと気を失ったのだった。




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