48 手紙
欲している情報が本当に見つかるのか、と言う疑問が、頭の中に何度もよぎるようになった。
屋敷に戻ってからというもの文字通り寝る間も惜しんで、ブロムベルク辺境伯家が持っている竜を鎮めた力の記載について探しているが、今だ見つかっていない。
眠気が限界に達するまで本をあさり、目覚めてすぐも本を読む。
だんだんと昔の生活や環境が見えてきて、言い回しも字の癖も解読できるようになってきた。
しかし、ロミルダの解読スキルがアップすることは目的では無い。
タイムリミットまでに、目的の情報を見つけることが大切なのだ。
どれだけ苦労してもそれを達成できていないならなにもしていないのと一緒なのだ。
それがわかっているからこそ、必死になっているのだが願えば願うほど、今も見つかっていないという状況が重たく背中にのしかかる。
疲れもあるのかもしれない。
「お姉たま、たまにはおやすみも大事よ?」
食事から戻ってきたロジーネは、小さなクリスティアーヌを抱えながら一言そう言った。
ロミルダは、食事を携帯食で済ませていたので、彼女が心配しているのもわかっている。
「うん。ありがとうロジーネ」
しょぼしょぼとする目でなんとか文字を追いながら、ロミルダは少し笑みを浮かべて答える。
お礼は言うけれど今は猶予が無い。
どれほど努力をしたとしても結果が出なければやっていないのと同じだ。
どれほど訓練しても実践で死んでしまったなら、意味が無いのと同じ。
だからこそ、時が来るまで死ぬ気で全力を出すのは当然のこと。
「はぁ……お姉たまったら結構頑固なのよね。大変じゃない? エイミー」
ロミルダはぱらりとページをめくる。
たしかにエイミーには苦労をかけてしまっている。ロジーネだって自分の状況を知っているのに焦って行動を起こすようなことはない。
もしかしたらロジーネの方がロミルダよりも精神年齢は高いのかもしれない。
「ふふっ、まぁ少しは大変ですわ。でもそれがお嬢様の良いところでもありますのよ」
「……それもそうね」
後ろからエイミーが言って、ロジーネも同意する。
その会話は少し照れくさかったけれども、またぺらりとページをめくって文字覆う。
過ぎるなと思っても時間は過ぎていく、進捗しているのかどうかすらわからない。
もしかしたら竜の記述は貴重なものだから隠されているのかもしれないし、見当違いのことをしているのかもしれない。
しかし、不安になっても仕方ない。
やり始めたら最後までだ。
ズキズキ寝不足で頭が痛んだけれど、ロミルダは書庫に住んでいるみたいにずっとそうしていたのだった。
御前会議に間に合うように戻るには、あさっての内にはブロムベルク辺境伯領を出なければならないと言うとき。
アレクシスから手紙が届いた。
『急ぎの連絡にて時候の挨拶などは省きます。アレクシスです。こちらは御前会議も迫りブロムベルク辺境伯とライツィンガー公爵の反対派形成は最終局面に入った状態です』
さすがに手紙ともなるとアレクシスはいつもの砕けた口調はなりを潜めて、丁寧で報告書のように整った文章が記載されている。
もちろんこうである方が頭には言ってきやすいし、連絡係のためにあちらに残ってもらったのだから当然の文章だ。
アレクシスはきちんと自分の役目を果たしていると言えるだろう。
しかし、ほんの少しばかり彼らしい言葉を読みたいと思うのはロミルダが疲弊して弱っているからだろうか。
なんだか切なくなりながら暗い書庫でロミルダは彼の手紙に目を落とす。
この書庫のほこりっぽいにおいにも薄暗さにも慣れてしまった。
いつもろうそくの明かりだけを頼りにしているので外に出るとここ数日は目が痛いぐらいなのだ。
『協力貴族については別紙にて記載します。以前、手紙を送った時に難航していると言った公爵家との話し合いも無事に終わり、反対するだけにとどまらず反対派が団結しどの程度の力があるのかを見せるための案を調整中です』
父たちはどうやら順調な様子だ。王族に対して弱腰だったライツィンガー公爵もきちんと協力してくれているが故の結果だろう。
本当にハイディが戻って来てくれて良かった。
彼らの作戦どおり、王族がここまでの反対派がいるのならば国のことを考えて、竜の復活を諦めるということになるのが一番良い。
しかし、反対派の力を見せるための具体的難を実行して多少国の経済が圧迫されたり困りごとが出るとしても、その程度で竜を復活させて自分だけが得をしたいと思う自己中心的な人間が引き下がるとは思えない。
『それでも、こちらの主張を確実に聞き入れるかどうかは厳しいだろうというのがブロムベルク辺境伯の見解のようです』
続く手紙の言葉にロミルダはその通りだろうと小さく頷いた。
『加えて、ここまで派手に反対派を作っていても、王族が邪魔をしてくる気配はありません。竜の件で忙しいのか、もしくはあのときのハイディのように強引にロジーネをさらって人質に……という可能性も考え、俺からも注意喚起をするようにとのことでした』
たしかに、まだその可能性も忘れてはいけないが、ロジーネは基本的にロミルダのそばで本を読んでいる。
ここまで、攫いに来ることは難しいだろう。
領地は騎士たちがきちんと守っているのだ。ロミルダも気をつけるけれど領地から出ない限りは大丈夫だ。
『ただ、俺はロミルダお嬢様のことも心配しています。決めたら諦めないし努力家なのは良いことですけど、辛かったらちゃんと休んでくださいね。俺も適宜休んでいるんで』
話は変わって、緊迫感のある話題から彼自身の心配事へと映った。
そんなに心配されるようなことを普段からしているつもりは無いのだけれど、彼の懸念はあながち間違っていない。
むしろ、大当たりだろう。
少しばかりロミルダは無理をしていた。
なんせタイムリミットが差し迫っている。
今、無理をしなくていつするのか。そんな気持ちだ。
(でも、アレクシスに心配かけるのも……良くないよね)
嘘を書いて安心させるのも良くないし、戻ってきたロミルダがやつれていたらさすがにバレてしまうだろうし。
『以上です。早くまたお嬢の顔を見たいです』
最後には婚約者らしい台詞が添えられていて、さすがに眠る決心がついてロミルダは仮眠を取った。
それから、できる限りの全力を尽くしなんとか、期日ギリギリに竜についての記載を見つけることが出来た。




