41 手
婚約したということで、ロミルダは意を決して私室で、アレクシスと向き合っていた。
テーブルの上には、お花もお茶も置いておらず、気を利かせたエイミーは休憩に入っている。
アレクシスは少し心配そうな顔をしていたが、ロミルダはそれほど難易度が高いことだと考えていない。
「じゃ、じゃあ、手を出して」
「おう」
アレクシスは、テーブルの上に両手を差し出して、掌をこちらに向ける。
せっかく婚約したのだし、二人の間に立ちはだかっていたアルテンブルグ公爵家の問題は解決した。
そして、その前よりもずっと二人は、お互いの気持ちを伝え合って進展しているはずなのだ。
いい加減、真っ向から恋人らしいふれあいをしても良い頃合いだろう。
そっとロミルダはアレクシスの手に手を伸ばす。
トンと、彼の掌に、指先を一つ触れてみて、それからいざ握ろうと考えた。
「……」
しかし、はたと思う。
(なんか、想像と違う)
想像していた光景と違う違和感に、首をかしげる。
「お嬢?」
「……」
呼ばれて、ちらとアレクシスを見る。
彼は何もおかしくない。おかしいのはロミルダの方だ。
(私の手、女の子っぽくない……)
彼の手に手を重ねようとしているロミルダの手は、まったく華奢ではない。
彼より小さいことには小さいのだけれど、色白でもないし、白魚のようでもないし、何なら剣をよく握るのでマメが出来ていて、手の甲には昔怪我をした傷跡が残っている。
仕方ない騎士の手なのだからこんなものだ。
でも、急になにかが恥ずかしく思えてくる。
「やめとくか?」
心配そうに聞いてくるアレクシスは、かっこいい。素敵な男性だ。もちろん好いている。
でも自分ってそんな彼に釣り合うような愛らしい女の子なのだろうか。
少なくとも手は違う。
「……」
自分が剣士であることを誇り以外のなにかに思ったことは今までなかった。しかし、今はなんだか切なくて少し悲しい。
少なくとももう少し、女性らしさというものに気を使っておけばよかったのかもしれない。
と、考えた途端だった。
パッと手を取られ、しっかりと握られる。
ロミルダは驚いて小さく肩をすくめたけれど、思っていたよりもすんなり嬉しくて、手の甲をアレクシスの親指がゆっくりさすった。
「なんか、変なこと考えてそうに見えたんで」
「……変なこと、は考えてないんだけど……」
「じゃあ何考えてた?」
「……あんまり女の子らしい手じゃないなって」
問いかけられてロミルダは観念して言った。
彼に察されるほど顔に出していたつもりはなかったのに、意外とアレクシスは察しがいいところがある。
「俺、お嬢が女の子だから好きってわけじゃないんで。そういうの気にしたことないです」
「……どういう意味?」
「お嬢がお嬢だから好きなんです。お嬢は騎士をやってて、強くてかっこいいけど優しくてかわいいから、好きなんで。騎士らしい手をしてるのなんて当たり前のことだから」
アレクシスはロミルダのことが好きなのであって、女の子が好きだからロミルダでいいわけではない。
そういうことなのだろう。
だからロミルダが騎士なのだから手が普通の女の子よりも少し違っても彼に取ってはなんのことは無いロミルダの手。
(この人は本当に私のことを好きなんだなって……最近すごく思う)
実家の問題から遠ざけようとしたのもロミルダを想ってだったし、折れてくれたのだってロミルダがアレクシスじゃないと嫌だと言ったからだ。
いつだって彼の気持ちは疑う余地もない。
今だって彼の熱のこもった目線にじわじわと弱火であぶられて溶けてしまいそう。熱に頭が浮かされて、甘い言葉を口走ってしまいそう。
それがなんだか恥ずかしくて、ぎゅっとアレクシスの両手を握りながら聞いた。
「なら、私なら、アンゼルムみたいに、ムキムキになっても私だから好き?」
そんなふうに茶化すとアレクシスは少し目を見開いて驚いた顔をしたけれど、数秒考えた後に答えを出す。
「お、男に二言はないんで」
「本当?」
「揶揄わないでくださいって」
「ふふっ」
ちょっぴり甘ったるい熱にのぼせつつ、二人は婚約者らしい時間を過ごしたのだった。




