39 決着
ハイディの持っていた証拠や証言があり、あっという間にアルテンブルグ公爵家は劣勢に追い込まれた。
偶然父と参加した王城のパーティーでアルテンブルグ公爵に遭遇すると彼はアレクシスに無茶な要望をしていたときと違って余裕がない。
怒り心頭といった具合でぎこちない笑顔で父に言った。
「それにしてもブロムベルク辺境伯家という、大きな力をもった貴族があんな無粋で、最低の行為をしてくるとは思いもよらなかったよ」
アルテンブルグ公爵は無理矢理ハイディを連れ戻したことについて、糾弾したいようだった。
しかし、それにしても頭に血がのぼりすぎだろう。
そんなふうに責めたってさすがに勝ち目はない。
ロミルダは困ったように少し笑う。
父も小鳥のさえずりを聞いているような表情でさらりと言い返した。
「我々はただ、か弱き子女をさらった悪党の元から家族の元へと返し、その悪行を正しく捌くための手助けをしたのみだ」
「……」
「人間らしい話し合いもせず我欲のためだけに突き進み、人を害す獣のような人間は存在する。そういう者どもにそれは許されていない手段だと教訓を与えるために我らは武力を振るったまで」
過去のことだろうと、いくらそうすることに得があろうと、選んではいけない手段というものがある。
それを選んだ時点で、アルテンブルグ公爵は同じことをやり替えされて得た物を失ったとしても文句の一つも言える状況にはない。
「おぬしに、非難されるいわれはどこにもないだろう」
「っ……きれいごとを……」
「本心だ。行くぞ、ロミルダ。まだ挨拶を終えていない相手が山積みだ」
「ええ、お父さま」
アルテンブルグ公爵からの嫌味をかるくいなして父は目的を果たしに向かう。
今日パーティーに参加したのは、ハイディの件で協力してくれた縁の深い貴族たちへと改めてお礼をするためだ。
判決は近いうちに出るだろう。そうなればアルテンブルグ公爵家のことは終わったことで、そのうちアレクシスとの関係も一切なくなる。
彼らはもうさしてブロムベルク辺境伯家にとっても、ロミルダに取っても重要な相手でもなんでもなくなるのだった。
証拠が多くあったこと、ハイディ自身の長年の記録、アルテンブルグ公爵家内の家臣貴族の幾人かもハイディが関係を作ってあったことで、アルテンブルグ公爵の不法行為を認めたこと。
それらの事情が重なり、想定よりも早い速度で結婚無効の判決と、アルテンブルグ公爵の行動への処罰が下された。
と言っても処罰はたいそうなものではなくある程度の金額の支払いだった。
ただ、アルテンブルグ公爵家に取っての一番打撃は、ハイディがいなくなったことによる魔獣討伐にかかる金銭や時間がかかることだ。
彼らの土地は元々魔獣が多く大きな森を抱える土地柄だ。
加えて昨今の魔獣増加の波も定期的にやってくる。
ライツィンガー公爵は被害や依頼は増える一方だと語った。
ハイディがいることに慢心し、維持費のかかる小規模な騎士団も解体していたせいで、以前よりもずっと領地の防衛力が落ちている。
そしていくらお金を積んでも、昔からいる家臣貴族でも、仕えていれば死ぬかもしれない領地になど勤めていたくないものだ。
家臣たちが続々と逃げ出し、アルテンブルグ公爵家は公爵家としての体裁を整えるだけでも一苦労だろう。
この状況が続きいつ間で持つのか、はたまた、また苦しみから新しい悪事を働くのか。
万が一にもそんなことが起こらないように、ハイディもライツィンガー公爵家も目を光らせていくとのことだった。




