34 説得
「安心はできません。ライツィンガー公爵。……そうでしょう。お父さま」
「ほう。珍しく意見が合うではないか。ロミルダ」
「うん。珍しいこともあるものね」
ロミルダの言葉に、言わんとしていることを察した父は少し笑って、任せると言わんばかりに、ソファーの背もたれに体を預けて行く末を見やった。
ロミルダは父の同意が得られたので、改めてアレクシスをチラリと見やる。
まだロミルダや父の言いたいことを察していない彼を安心させるように微笑んだ。
それから、最後にライツィンガー公爵へと視線を向けた。
「どういう意味かな。ロミルダ君。ブロムベルク辺境伯も……この結論を求めて自分のところへときたのではないか?」
ライツィンガー公爵の言葉にロミルダは小さくかぶりを振って否定した。
「違います。ライツィンガー公爵……ただアルテンブルグ公爵家の横暴を止めたい結末は間違っていません」
「……」
「でも、ライツィンガー公爵が想定している手段をとることは、彼ら相手に限っては正しくないと私は考えます」
だって、彼らは明らかな暴挙にでて、人道に外れたことをし、法も犯している。
国の最高権力があとから正当性をつけたところでそれは一切変わらない。
そしてその暴挙で得たもので周りを脅し利益を得て、さらに要求を大きくしようとしている。
そんな相手に、彼らの想定している上品な解決策に付き合ってやる道理がどこにある。
悪辣な行為によって手に入れたもので得をして、他の人間は守っているルールの中に戻って、得をしたままぬくぬくとルールの外で手に入れた手駒で楽しく暮らす。
それは王族が許そうと、力を持っている人間が屈してはいけないものだ。
「暴挙を許し、罰することもせず、不正で得た利益を振りかざす相手に、横暴を言わないでほしいというだけでは何の解決にもなりません。話し合いをするならまずは対等になってからではないですか」
「……しかしそれでは……彼らをかばった王族を……」
ライツィンガー公爵はそこで言葉を詰まらせる。
ハイディの結婚は王族が後押しした。それに真っ向から立ち向かうことはつまり王族に対する反意を示すことに違いない。
それは難しい問題だ。しかし、すぐに大問題になるとは考えづらい。
「いいえ、すぐには敵対しないはずです。彼女が戻れば、証言も出る。当人の言葉は何より重要な証拠になります。王命の後押しがあったとしても、実情が酷ければ結婚を無効にできる。そして王族は知らなかったと通すことも出来るでしょう」
「そう、だろうか」
ライツィンガー公爵はまだ不安そうに顔を青くして曖昧な返事をする。
ロミルダはそんな彼の為にさらに言葉を重ねた。
「それに、王族と敵対するかもしれないことよりも、身内がかわいいなら、ハイディ様が一生不幸でいることの方を恐れるべきでは。身内よりも己の身の方が大切ですか」
「っ……」
先ほど彼は身内かわいさに言うことを聞いてしまったと言った。
その言葉は嘘ではなかったと思う。なら、王族との敵対を恐れるよりも、長いスパンでのハイディの幸福を実現出来る方を選ぶべきだ。
「非道をされて言うことを聞いているだけでは、どんないいわけがあったとしても物事は好転しません。ただ搾取され続けるだけです。決断をしなくては」
言いながらロミルダは、この言葉は過去の自分にも言えることだと思った。
雑に扱われて、それでも言うことを聞いているだけで、ろくな解決方法がないまま言うことを聞いていた。
それは愚かなことだった。
幸せを願うなら自らが変わって動かなければならない。
「それに本来ライツィンガー公爵家は、王族の血筋を損なわないための保険と同時に王族のみが力を持ち暴政を敷くことへの抑止力の意味も持つ家系ではないですか」
そんなライツィンガー公爵家の人間が人質に取られて、本来の力を弱められている。
それをして王族の考えていることは……?
悪い予感しかしないはなしだ。だからこそ短期的に見ても長期的に見てももハイディを取り戻しておくことは急務に近い。
「その……通りだ。……異論はない」
「ならば、まずは正しい形に戻しましょう。幸い、我々にはそのための力を持っていますから」
「…………ああ」
ライツィンガー公爵はロミルダの言葉に最終的には同意した。
なんだか彼に会って話を聞いた後だと大きな問題に巻き込まれているような気がした。
しかしきっとロミルダが今知っただけできっと昔から密かに始まっていた問題だ。
大事にはならないでほしいとは思いつつも、そうはいかない予感も同時にある。
そして結局それでも目の前のことに全力で向き合うほか解決の糸口がないのである。




