32 事情
父にも話をしハイディの正体を探ったところ、思っていたよりも簡単に身元の確認ができた。
と言うのも、それなりにブロムベルク辺境伯家と関係性のある家系で、ライツィンガー公爵家と言う。
ライツィンガー公爵家は王国騎士団、団長の血筋であり、王族の傍系だ。
ブロムベルク辺境伯騎士団と王国騎士団は騎士の経験のために数年派遣したり、されたり共同訓練をする関係で同じ業種として長い付き合いのあるのである。
ハイディの件で話があると持ちかければすぐに予定が決まり、面会することになった。
もちろん父も、当事者のアレクシスも一緒だ。
三人でライツィンガー公爵家のタウンハウスを訪れると、ライツィンガー公爵自身が出迎えた。
「ブロムベルク辺境伯殿……ご無沙汰しています。ロミルダくんも顔を合わせたのは、いつぶりだろう……」
「急な無理を言って悪かったな。ライツィンガー公爵」
「いいえ…………あの、そちらが」
ライツィンガー公爵は騎士団長の肩書きに違わない体格の良さと隙のなさを持つ父よりも少し若い騎士だ。
普段は頼りがいがある堂々とした態度をしているのだが、今日ばかりは少し頼りなく見えた。
父のようにたくましくどこにも隙のない武人だと思っていたがアレクシスに向ける瞳には不安が見て取れる。
「アルテンブルグ公爵子息のアレクシスだ。今はブロムベルク辺境伯騎士団の騎士だが……所在ぐらいは把握していたのではないか」
ちなみに父は、アレクシスがライツィンガー公爵家と繋がりがあること自体は知っていたらしいが、些末なことは対して気にしないたちなので、わざわざ知らせていなかったのだそう。
「それは、もちろんです。姉、ハイディの一人息子ですから……」
「お初にお目にかかります。ライツィンガー公爵閣下」
アレクシスは視線を向けられて、なんだか居心地の悪そうな顔をしながら丁寧に挨拶をした。
「……君の話はかねがね……ともかく積もる話はあるが、立ち話もなんです。どうぞこちらへ」
そうして公爵家の応接室へと案内される。
てっきりアレクシスと会えば少しは喜ぶと思っていたが事情はそう簡単ではないらしい。
なんとも言えない空気の中で、移動し場が整うとライツィンガー公爵は難しい顔をして黙り込んだ。
その様子に、父が問いかけた。
「ライツィンガー公爵、用件は手紙で書いたとおりの事情だ。アルテンブルグ公爵家は第二夫人の扱いを引き合いに婚姻を求める我らブロムベルク辺境伯家に理不尽な要求を突きつけてきた」
「……」
「当然、そのようなあくどい手法に屈するなど有り得ぬ話だ。しかし、どのような事情があり、第二夫人が現在の立場に甘んじているのか我々にはわからぬ」
「……はい」
「そのあたりを、第二夫人の実家の代表としての話を聞かせてほしい」
父はわかりやすくまとめて改めて、ロミルダたちがここにやってきた理由を話した。
父の言葉にロミルダもうなずき、アレクシスも納得顔だ。
常に怖い顔をしていて表情が変わらず何を考えているのかわからないところのある父だけれど、きちんと状況を理解しているということもわかって心強かった。
「……先代のライツィンガー公爵は神の御許へと随分早く登ったのは周知の事実だと思います」
ライツィンガー公爵は、父の問いかけにしばらく考えた後、ぽつりと言った。
(急に先代の話? ……たしかに、先代のライツィンガー公爵は若くして魔獣の討伐の際事故で命を落としたとは聞いているけれど……)
それが今回の件となんの繋がりがあるのかは正直ピンとこなかった。
「無論。痛ましい事故であった」
「その混乱の際、自分は成人したばかり、姉も同じような歳でしたが……一言、アルテンブルグ公爵家の跡取りに言い寄られていると残し、さらわれるように姿を消したという事件がありました」
「ほう。誘拐か」
父が問いかけるとアルテンブルグ公爵はうなずき続きを話す。
「王家に訴えたところその後即座に王命がくだされ、アルテンブルグ公爵家への嫁入りが決まったのです」
「……なんだと」
「世間には王命の後に嫁入りと順序が逆に広まりましたが、父の死去をきっかけに姉は、強引な手段でアルテンブルグ公爵家へと入りました。それ以来姉とは顔を合わせていません」
それは明らかにおかしい話だった。
通常は家長の許可がなければ結婚は出来ない。しかし、王命があればそのルールは覆る。
ただ、誘拐など本来許されるべきではない行為なのに、それを擁護する形での王命など聞いたことがない。
「連絡の手段というとたまに送られてくる手紙ぐらいのもので、そこにはまったく問題ない、アルテンブルグ公爵を愛していると書かれています」
誘拐されてそんな手紙が届くなど嫌な想像しかできない。
想像していたよりもずっと深刻な状況にロミルダは眉間にしわを寄せて何も言えずにいた。




