31 疑問
「よし。それならアルテンブルグ公爵家のことどうするか考えないと」
ロミルダは二人の間に流れる甘い空気を切り裂いて、すぐに方向転換した。
イチャイチャしたりもうすこしアレクシスとの距離を縮めたいのはやまやまだけれどすぐに対応するべき問題があるだろう。
放って置いていい問題でもないし気兼ねなく今まで通りのんびり進展していくには心の余裕も必要である。
「それに私、話を聞きながら気になることがいくつかあったのよ」
「……お嬢は切り替えが早いっすね」
ロミルダの切り替えについてこられなかったアレクシスは少しぽかんとしながらそう言った。
「問題に対処するなら早いに越したことはないでしょう?」
「それは、その通りか。……それで、気になることって?」
聞き返されてロミルダは、机に肘をついて思案しながらいくつかのことを思い浮かべた。
「まず一つは、アルテンブルグ公爵とレオノーラ様のこと、二人は最初魔獣の増加を恐れて、アレクシスのことを利用しようと決断したのかと思った」
「はい」
「でも、それにしてはなんだか切羽詰まっていないし、余裕も見て取れた。その理由が一つ目」
なぜあれほど余裕があったのか。魔獣が多く出る土地柄ということに間違いはないだろう。
魔獣の多く出る森は、魔力が豊富で魔法的な資源も豊富という特徴がある。
そしてアルテンブルグ公爵領の主要な産業は魔法的資源の加工売買だ。
その状況と魔獣が多く出るという情報は重なるのでそれは事実。
であれば、彼らは魔獣の増加をもっと恐れてもいいはずなのに、たいして恐れを感じていなかった。
「二つ目が、これは言葉のあやかれも知れないけれど、レオノーラ様が竜が復活する前提で話をしていたこと」
「あ、ああ。たしかに俺もそれは妙だとは思った」
「普通の貴族は、魔獣の増加は今回で止まってほしい止まるだろうと思って対応しているはず。それなのに魔獣の増加を、いくら知られている話とは言え、竜伝説につなげて考えて、さらに竜が復活するなら竜を御せる力を持ったブロムベルクに守ってもらいたいとまで言ってきた」
魔獣の増加をもしかして復活の予兆かと推察するぐらいならば、あり得ない話ではない。
しかしそんな情報はどこにも出回っていないのに、復活する前提でたまたま縁ずく予定があったにしろブロムベルク辺境伯家に声をかけるというのはいささか、展開が早すぎないだろうか。
「それって、確信がないとおかしいことだと思うのよ。……アルテンブルグ公爵家は何かを知っているの?」
言葉にしつつロミルダは首をかしげたが、アレクシスも考え混んでいてその答えを持っているようには思えない。
まぁ、期待していたわけではない。ただ疑問として提示しておきたかっただけだ。
どの情報がどんなふうに繋がるかはわからないのだから。
「そして最後の疑問。……アレクシスのお母さま……ハイディ様って本物の跡取りのレオノーラ様を守る長男を用意するためだけに第二夫人になったの?」
「……ここまで利用しきったんだからそうなんじゃないのか?」
たしかに、アレクシスは生まれたときから家を追い出されるまでここぞとばかりにうまく利用されていたように思う。
しかし、だとしてもそれをするためだけに、第二夫人を用意するってそれこそコストがかかるのではないか。
だったら普通にレオノーラを守るためにお金をかけた方が得ですらある。
公爵家ならば第二夫人といえど、ある程度の生活は保障されるし、アレクシスを養うお金だって無料ではない。見習いに出すのだってお金がいる。
それって、なんだか妙な話じゃないか。
「たしかに、骨の髄までって言葉が似合うぐらいアルテンブルグ公爵はアレクシスのことを利用していたのだと思う。……だからそのために第二夫人も用意した可能性ももちろんあるけど……」
「……」
「そうじゃない可能性ってないのかしら。真っ向からの解決はハイディ様の身柄を取られている以上は難しいかもしれない。だったら別のところから角度を変えてみるのも手かもしれない」
具体的な案はまだ出てこない。しかし、まったく詰んでいて何も出来ないほど手が無い訳ではない。
「……たしかに、俺はあの家にいたとき、自分のことで手一杯で母自体のことはあまり知らないままだった」
「意図的に知らされていなかったのかもしれないわね」
「ああ、そうか。そうなんだろうな。……母方の親族に会った記憶が一度もない」
ならば、そのハイディがどうしてそこにアレクシスを産むに至ったのか。そして彼女は何を思ってそこにいるのか。
こうして、アレクシスが育ち子供ではなくなり力をつけたからこそ知ることができるだろう。
言葉を交わせば、彼の生い立ちを聞いた時の重たい空気は消えている。
解決の方法はわからないけれど糸口はある。
たどっていけばなにかにたどり着くかもしれない。そういう予感があったのだった。




