28 勘違い
ロミルダたちは早々に話を切り上げて、ブロムベルク辺境伯家のタウンハウスに向かった。
わかったことというと、アルテンブルグ公爵家は魔獣の増加に対しての手立てを欲していること、そしてアレクシスはどうやら彼らに逆らえないということ。
父は話にならないと言ったが、実際問題、解決するにしてもこちらが譲歩するかアレクシスを諦めるかしない限りは解決の糸口が見えない案件だ。
それがわかっているからあれだけあちらも、多くの情報を開示したのだろう。
しかし魔獣増加に怯えているにしては、必死というよりも、余裕があるように見受けられた。
その様子がなんだか引っかかる。
屋敷に到着してロミルダは、アレクシスにあてがわれている客間へと向かった。
部屋付きの侍女が対応してくれて、すんなりと中へと通される。
彼から来てくれることは多かったけれどロミルダが彼の元へと向かうのはなんだか新鮮な気持ちだった。
そして突然訪問したにもかかわらず、お茶の準備が整っていた。
「……お嬢は絶対知りたがると思ったんで待ってました。座って」
言われてロミルダは腰掛け、華やかな香りのお茶を飲み、クッキーを食べて、チラリとアレクシスのことを見やった。
「……あの、一応言うけど。俺、こんな情けない話、お嬢に知ってほしくなかったんだ。ただ、お嬢を納得させる責任もあると思ったから」
その言葉にロミルダは答えなかった。まだ彼にかける言葉を見つけていないし、彼には判断するための情報を要求したが、ロミルダが探しているのは解決する糸口だ。
だから黙って小さくあいづちをした。
「で、なにから話したらいいっすかね。……俺は……」
アレクシスは言いよどんでまた暗い顔をしてうつむいた。
話そうとはしているものの話し出すことがとても難しい様子で、ロミルダは少し考えてから彼に聞くことにした。
「アレクシス。お母さまのことは昔からのなの?」
聞くと、額を抑えている指の隙間からチラリとアレクシスはロミルダのことを見やって「ああ、そうなんです」と短く言ってから話し始めた。
「俺、第二夫人にあまり会ったことがないんだけど、ハイディって人が俺の母親なんだ」
彼はなんだか他人事みたいにそう言った。
「それで、まぁ……アルテンブルグ公爵家って王家にも一目置かれるような大領地ではあるんだけど、あんまり言い噂がないっていうか」
「……聞いたことあるかも」
「結構あくどいことやるんですよ。あの人ら。あれでいて天然で善人とかまったく全然そういうことじゃない。で、まぁそこそこ恨みを買ってるから、当然幼い跡取りは狙われる」
「うん」
「そういうわけで、俺が跡取りみたいに扱われて父にあちこち連れ回されてた」
たしかに、地位のある貴族の子供は狙われやすい。それも恨みを買っているのなら尚更だ。
ただ、もちろんきちんとコストをかければちゃんと守ることだって出来る。
ブロムベルクは恨みは買わないけれど、討伐が間に合わないと逆恨みされることがあり、移動途中を狙われたこともあるが、騎士団がきっちり対応してくれた。
それにロミルダ自身も剣と魔法の心得がある。
そんじょそこらのごろつきには負けないので、危険なめに遭うことは少なかった。
「なんというか……おとりみたいなもので。盾というと聞こえはいいが、あちこちでツテを作れと言われて、母を引き合いに出されて従っていたら、十五の時に用済みだと伝えられた」
「……」
「得た物は妹に全部渡して、あとは跡目争いの火種にならないよう、騎士の見習い修行に出て戻ってくるな……と追い出されたというか。剣術なんて習わせてもらったこともないのにな」
アレクシスは自嘲気味に少し笑ったけれどロミルダはあまり笑えなかった。
なんせ彼がブロムベルク辺境伯騎士団に来たばかりの頃を知っていたから。
彼はあのとき、端から見てわかるほど酷く荒れていた。
事情があるとは知っていたが、まさかそんな事情だとは思いもしなかった。
「たださすがに自分なりに考えて、父に交渉を持ちかけたんです。これで用が済んだなら、母も解放してほしいって。今後一切、アルテンブルグ公爵家の邪魔をしないからって」
「それが約束?」
「はい。俺はもう捨てられたようなもんなんで、これ以上利用価値もないし、母の役目も終わったはず。それなら、不憫な人だから解放してもらおうって」
「……」
「追い出されてしばらくは、何事にもやる気が出なくて荒れてたりもしました。けど騎士になってからは、アルテンブルグ公爵家から解放されたなら、自分の人生に少しは期待していいかもしれないと思ったんです。……ただ、そんな自分が馬鹿でした」
アレクシスはそう言ったけれど、馬鹿なんてことは無いだろう。
アレクシスは当時の彼なりにできることをやりながら真っ当に現実に向き合った結果に思える。
自分だって辛い思いをしているのに、母のことを考えて、解放したいとのぞみ、それからもまったく知らない場所でもアレクシスは腐らず実力をつけた。
それだけ頑張っているのに自分の人生に来たいるすることが馬鹿なことなんてそんな酷いことはない。
「初めから、多分、自分の生まれからは逃れられない状況だったのに俺、勘違いしてたんです」
たしかにアルテンブルグ公爵家の問題はこれからもきっと彼の人生につきまとってくるだろう。
しかし、自分の人生に希望を持つことが勘違いだなんてそんな悲しいことがあっていいはずがない。
「生まれてから最後まで、第二夫人を盾に一生利用するつもりでいたんだと思います。あの人たちは。それにやっぱり、第二夫人のことはよく知らないけど、見捨てるわけにも行かないんで」
「……初めからアレクシスは利用されるためだけに生まれたから仕方ないって、こと?」
「そういう話ですね。……でも」
言いながらアレクシスはやっとロミルダを見た。
その表情はいつもみたいに明るくなかったけれども、とても優しい笑みだった。
「ブロムベルク辺境伯騎士団で世話になって、夢中になってる間、ずっと楽しかったんだ」
「……」
「お嬢、覚えてるか? お嬢が俺に声かけてくれたときのこと」
「忘れたことないよ」
突然昔の話を出されたが、もちろん覚えている。
彼は昔、ツンケンしていて、そして禄に訓練に参加せず、周りからも浮いている見習いだった。




