27 家族
父との話を終え、ロミルダたちは無茶な要求をしてきたアルテンブルグ公爵家と直接話をすることになった。
もちろん当人のアレクシスもともに王都の屋敷へと向かう。
アレクシスは潔く、これ以上ロミルダのことを止めることは無かったがアルテンブルグ公爵がいる王都の屋敷へと向かう道中はとても静かで深く考え混んでいる様子だった。
今彼に抱えている事情を聞いてしまうこともできるが、直接彼の家族と会った後の方がきっとより彼の事情を理解しやすいと思いあえて聞かず、静かな時間を過ごした。
王都へと到着し、予定どおりに父とロミルダ、そしてアレクシスの三人でアルテンブルグ公爵邸へと訪れた。
応接室へと案内され入室すると、一目でアレクシスの父であるとわかる雰囲気のよく似たアルテンブルグ公爵と、隣にはロミルダと同じぐらいの年回りの少女がちょこんと座っていた。
かわいらしいふわふわの金髪をしていて、瞳もアレクシスと同じアメシストのような上品な色。
ロミルダを見てにこりと笑うその顔はとてもかわいらしく、敵地にやってきたつもりのロミルダはなんだかぽかんとしてしまった。
「今日はわざわざ足を運んでくれて感謝しているよ。ブロムベルク辺境伯、そして辺境伯令嬢」
「おぬしらが、条件を覆さなければわざわざ王都まで足を運ぶ必要もなかったのだがな」
父はにこやかに挨拶をして手をさしだしたアルテンブルグ公爵の言葉に、とげとげしい言葉を返しながらもその手をとって握手する。
ソファーに着き、お互いにらみ合い探り合うような時間が流れ、切り出したのは父だった。
「……して、なぜあのような無茶を突然、要求するに至ったのか。わけを聞かせてもらおうじゃないか。アルテンブルグ公爵よ」
「もちろん。今日はそのために時間を作ったんだ。……端的に言うと、恐ろしいから、かな。わが領地は昔から魔獣が多く出る土地柄でね」
アルテンブルグ公爵はにこやかに語り始める。
ロミルダはブロムベルク辺境伯家が依頼を請け負っている土地の知識を重点的に入れてるが、それ以外の大領地の特性も概ね理解している。
アルテンブルグ公爵の言葉は正しい。
しかしそういった土地柄でも、実際の魔獣被害の数は随分と少なかったと記憶している。
「そしたら娘のレオノーラがとてもいい案を出してくれたんだ」
そう言って、アルテンブルグ公爵は隣に座っている少女に視線を向けた。少女はキラキラとした瞳で口を開いた。
「だってお兄様が縁ずく相手は、竜を鎮めるぐらい素晴らしい力を持っているんだもの。これは助けてもらわない手はないでしょう?」
夢物語でも語るみたいにキラキラとした目で楽しそうに彼女は言った。
「これからも魔獣が増えて竜は目覚める。それなら、アルテンブルグには竜を制する力をもった守護者についてもらうの! それってとっても素敵!」
「……ほう。これが素晴らしい案だと?」
ニコニコ笑っているレオノーラに父は低い声を出して、アルテンブルグ公爵へと問いかけた。
しかしレオノーラは父を恐れることもなく、続けて言った。
「もちろん! だってお兄さまの家族になるなら、わたくしの家族も同然。家族なら助けてくれないとおかしいわ」
「……」
「むしろどうしてそんなに怒っているのかわたくしは全然わからない。将来のわたくしのためにもなるのだからわたくしを手助けできてむしろ嬉しいはずよね?」
彼女は首をかしげて、アルテンブルグ公爵へと話しかけた。
アルテンブルグ公爵はにこりと笑って、レオノーラの疑問に答える。
「さぁ、私にもさっぱり。ただ、ブロムベルク辺境伯はお怒りのようだが、こういうことは若い当人の意見も尊重しなくては」
「尊重だと?」
「ええ、アレクシスは私たちの意見に賛成のはずだ。そうだろう? 君はいつでも聞き分けがよかった」
そうして今度はアレクシスへと話が振られる。
彼は今まで険しい顔で黙っていたが、アルテンブルグ公爵からかけられた言葉についに口を開いた。
「……そう要求してくるってことは、やっぱりまだ……」
「……」
「俺が家を出るとき、約束しただろう。アルテンブルグ公爵……母を、第二夫人を解放すると」
「約束……? いやぁ、覚えがないね。それにしても他家の人間がいる前で家族の込み入った事情を話すとは恥ずかしいことをしないでくれ」
アルテンブルグ公爵はカラカラと混じりけのない笑みを浮かべていて、ロミルダは推察しながらその様子を見ていた。
(第二夫人を解放する? ……ああ、アレクシスは長男だけれど第二夫人の子供だったっけ。……つまり…………人質?)
「君はいつだってレオノーラに優しい兄だったじゃないか。今回もただそうであってくれ。いや、そうなれるだろう? この度こそ契約魔術を使って、約束もしてやるから」
「っ……」
「よかったわね。お兄様! だってお兄様、この機会がなかったらずっとあの人がまだ領地のお屋敷にいること知らないままだったんだから。嬉しいでしょう?」
そこから繰り出されるアルテンブルグ公爵の言葉とレオノーラの言葉はなんだかあまりに、自己中心的な言葉だった。
まるでアレクシスには悲しみも、苦しみも、まったくないみたいに気にしていない。
「それもこれも、辺境伯令嬢を射止めたおかげね! お兄様ったら顔だけはかっこいいから。昔から女の子をたぶらかすのだけは一流だもの」
「そういうわけなんだ。ブロムベルク辺境伯……愛娘の恋を応援するならこのぐらいの条件は呑むのが親の愛情という奴だと私は思うよ」
最終的に、アルテンブルグ公爵は父にそう言った。
たしかに父はロミルダのことをそれなりに愛してくれているし、愛娘と周りからたまに言われることもある。
そういう理由でそこんな状況も娘の恋路を応援するために条件を呑むと思われていたらしい。
それに対し、父は歪んだ彼らの家族像を見ながら「話にならん」とぽつりと言ったのだった。




