26 条件
「お嬢を面倒ごとに関わらせたくないんです。ただでさえ魔獣の増加なんて珍しいことに困らされてるのに、今、俺のことでお嬢に迷惑かけたくない」
ロミルダが聞いてもアレクシスは似たようなことを言うばかりで決意は固いように見える。
しかしロミルダはそれでもたとえ喧嘩になったとしても引く気はなかった。
「だとしても事情を知らないと何も出来ないわ」
「いいんですそれで。俺のことは気にしなくていいことなんで」
ただ、そうして事情を聞こうとしても彼はやっぱりかたくなで、自分のことは気にしなくていいという。
よほどロミルダを自分のことに関わらせたくないらしい。
しかしそれは彼からの拒絶では無い。そこは勘違いする余地はない。
「……」
「……」
だとしてもこのままでは話がまったく進まない。
ならば少し方向性を変えるしかない。
(少し、だまし討ちみたいで嫌だけど……)
背に腹は代えられないので、ロミルダは少しばかり言い方を変えることにした。
「……ちゃんと事情を知らないと、あなたのなかったことにしたいって言う言葉が妥当かどうか判断できないから、情報として聞きたいのよ。アレクシス」
先ほどとは違って、彼に悲しい顔をさせた人間を許せないという気持ちではなく、アレクシスの言った言葉を精査するためにその情報が必要だというスタンスに変える。
これならば、知る必要はないという言葉を返すことは乱暴になるだろう。
「だからお願い。話を聞かせて」
「!」
ロミルダが最後に、乞うようにアレクシスに言うと彼は少し驚いて言葉に詰まる。
「……」
それから、ロミルダのもくろみ通りに困った顔をしてそれから額に手を当ててうつむく。
「……そう言われたら、さすがに無理とは言えないな……」
呟くように言う彼の言葉は力なく、彼の実家……アルテンブルグ公爵家のことで揉めたことを軽く教えられ、そしてロミルダは彼のことについて知る権利を得たのだった。
アレクシス自身は多くを語らなかったので、ロミルダは父に話を聞くことにして父の執務室を訪れた。
父はロミルダが来ることを予測していたようで、執務室の端のソファーセットで向き合うと早々に話し出した。
「やはり、お前の意志は固かったか。ロミルダ。あやつは自分から説得するなどと行っていたがこうなると思っておったわ」
もちろんだ、さすがにあんなふうに切り出されて泣く泣く了承するわけがない。
むしろ彼に直接言われたことで、火がついたようですらあったのだから。
「で、アルテンブルグ公爵家の話だ。あやつら、まったくの素人をここまでの騎士に育て上げた恩を知りながら婚姻の契約にありえん条件を付け足してきおった」
「それってどんな条件なの?」
「……ブロムベルク辺境伯騎士団の戦力をアルテンブルグ公爵家の領地に常駐させ、魔獣討伐を行えとのことだ」
父は腕を組んで、眉間に深いしわを寄せて忌々しげに言った。
たしかにそれはあり得ないような条件だ。ブロムベルク辺境伯騎士団は列記としたブロムベルクの貴重な財産だ。
そしてブロムベルク辺境伯家を守る盾でもある。
それを易々と他家の領地に常駐させるなどあり得ない。
「ただ、初めからこんな要求をしてきたわけではない。数ヶ月前までは、少なくとも恩義を知っているまともな対応であった。それが覆されたのはほんの数週間の話だ」
「……もしかして、それって」
対応を変えるに至る理由があったと考えるのが妥当だろう。そして、その理由とはもちろん、魔獣の増加に違いなかった。
魔獣の増加は以前からの減少ではあるけれど今回の増加は明らかに異常だった。
「ふんっ、何にせよ、直接話をつけるほかないだろう。このような横暴など蹴散らせぬようなブロムベルクではないが……アレクシスの奴はあっさり諦めおった……様子を見るからにまだ厄介な事情があるのだろうな」
たしかにアレクシスも横暴に怒るのではなく、ロミルダを関わらせない方向に向かったのは思うところがあってのことだろう。
「私もそう思う」
「ならば早々に方をつけるべきだな。ただでさえ異常事態だ。うかうかしていれば対応が間に合わぬ可能性もある」
父の言葉にロミルダは小さくうなずいた。
アレクシスがロミルダから自身の実家を遠ざけたがる理由はわからない。しかし、解決の糸口まったくないわけではないだろう。諦めるにはまだ早すぎるはずだとロミルダは疑っていなかった。




