24 魔法士
母の仕事が終わり、ロジーネとロミルダと母の三人でお茶会をすることになった。
あらかたの魔獣の情報を伝え終えた後、ロミルダはロジーネのそばに置いてあった、竜伝説の載っている本のことを思い出した。
「ところでお母さまは……まさかとは思うけれどあのおとぎ話を信じてるの?」
「……おとぎ話?」
「ほら、さっきロジーネの近くに置いてあった」
思い出しつつ言うと、母はピンときた様子で「ああ、あれね」と空を見ながら言う。
「……そうね。全部が本当というわけではないでしょう。でも、ロミルダちゃんだって今の状況は今までと違うって思うでしょう?」
それはもちろんその通りで、増えるにしても増え方が変なのだ。
どっと増えては収まって、また増える。普通の貴族たちだって異変を感じているに違いない。
「それに、なにも絶対に竜がまた目覚めないとは誰にも言い切れないと思うもの」
「お母たま、竜はどれぐらい大きいかしら」
「そうね、王都のお城ぐらいはあるでしょう」
「あら、すごいわね。クリスティアーヌちゃん」
母の言葉にロミルダは、だとしても千年も前の話だと反論しようとした。しかし合間にロジーネが口を挟んで、自身の膝に乗せた犬に話しかけた。
それはペットというかテレーゼの使い魔で、目は赤く魔法を操る危険な魔獣だ。
しかし、魔力を与えて飢餓状態から脱しており人は襲わずおとなしく頭もいい。
使い魔はそれなりに浸透している文化であり、一概に否定することは出来ないが、それでもロミルダは基本的に魔獣を倒すことばかりを考えているので使い魔という存在自体がそもそも少し苦手だった。
「ええ、すごいわよ。今回の魔獣の増加は明らかな異常、ならこの異常を引き起こした異常な現象があってしかるべきよ! そして数多存在する古来からの記録の中で竜伝説がもっとも信憑性が高い」
「……」
「それに本当に竜が目覚めるとしたら……」
「したら?」
「わたくし、この時代に生まれることができて幸せだわ。それだけ貴重で唯一無二の体験が出来るのだもの!」
母は興奮して拳を握り鼻息を荒くしながらそう口にする。
母の言葉にロジーネも瞳をキラキラとさせて「竜ってそんなに珍しいのね」と頬を染めている。
ロミルダはその場が少しばかり居心地が悪くて、なんだかなじめない気持ちだった。
それに、クリスティアーヌも主ではないもののロジーネには懐いているのに、ロミルダに向ける視線は鋭くなんだか獰猛だ。
嫌われていると思う。
「竜はどんな魔法を持っているのかしら? 魔力の程度は? 元になった動物の種類は?」
「お母たま、竜は知能が高いと言うわ、もしかしたら人語を解するかも」
「まぁ、素敵! 千年前の魔法のお話も聞けたりして!」
彼女たちはなんだかとても楽しそうだった。
こういう魔法士たちがいるからこそブロムベルクは常に魔獣討伐の第一線を走り、研究面でも優秀だとわかっていても騎士たちとの空気とあまりに違ってやっぱり混乱する。
そして魔法士たちに対して、父やアンゼルムはそれを理解した上で自分たちは武道の道、魔法士たちには魔法士たちの道と分けて考え研究材料は提供するものの完全に棲み分けている。
けれどもロミルダはそれを少しだけ変えたいと思っている。
強いことは、確実に力になる。それをロミルダたち騎士は知っているがブロムベルクの強さはそれだけではないと思うのだ。
武力以外に使える手段はたくさんある。戦術も、知識も、魔法士の生み出す道具たちも。
それらを使えばブロムベルクはもっと強くなるのではないか。
父のやり方を否定するわけではないが、ロミルダはロミルダなりにこの家の強みついて、十二分に発揮できるよう知識を入れたり、彼女たちや魔法士と交流をしているが、まだまだ先は長そうだった。




