21 行動
ロミルダはゆっくりと近づいて虫の息のオオカミの魔獣に深く深く剣を突き立てて、息の根を止めた。
剣を振るって血を振り払い、鞘に収めながらロミルダはマルトリッツの元へと戻った。
彼は呆然としていて、子鹿みたいに足が震えている。
さすがのロミルダだって、いくら彼の無礼な態度に腹を立てていたとしても、騎士なのだから人間を襲ったりしない。
だからそんなに怯えなくてもいいのだ。それに、彼のその様子を見て、気持ちはすっと晴れた。
これ以上は彼も、見た目で侮らずロミルダの言うことを聞くようになるのではないだろうか。
「お嬢っ、怪我ないか? 今日もかっこよかったです」
「お疲れ様でした」
「すごかったです! 目くらましの魔法具はいつから準備を?」
マルトリッツを見つめていると、騎士たちが集まってきて、あれこれと問いかけてくる。
彼らの素直に尊敬してくれているとわかる態度は嬉しく、笑みを浮かべて言葉を返す。
「大丈夫、怪我してないよ。アレクシス。あと目くらましの魔法はなんとなくアドリブで」
「アドリブですか! さすが、素晴らしい判断ですね!」
騎士に褒められるのを少し照れくさく思ったけれど、せっかく早急に討伐を終わらせたのだ。
早くアーレンス子爵家の面々に魔獣の死体を見せて安心してもらうべきだろう。
「ありがとう。じゃあ早速奥の部屋――」
「あ、あのっ!」
それを提案しようとしたとき、 背後から声がかかって振り返る。
もちろんそこにいるのはマルトリッツだ。彼は茫然自失状態からやっと脱したようだったが、それでもまだ体は小動物みたいに小さく震えている。
「……っ、ロ、ロミルダお嬢様っ……」
「はい」
「…………生意気でっ……失礼な態度とって、申し訳ありませんでしたっ!!」
マルトリッツはガバッと頭を深く下げて、力いっぱい謝罪した。
そしてそのまま言葉を続ける。
「完全に、実力がないと思い込んでっ、身分だけが高い女子供が……騎士に守られてるのに自分は強いって勘違いして戦場に出てるんだって、勝手に決めつけててっ」
マルトリッツがどんなふうに考えてロミルダにあんな態度を取っていたのかはわからなかったので、改めて彼の言葉で説明されると納得感があり、なるほどとうなずく。
「だから、先輩がたも迷惑してるはずだなんて勝手に思って、勝手にいらだって、行動に出してっ、で、でも全部っ俺が馬鹿でしたっ!」
「……」
「本当に、申し訳ありませんでしたっ……これからはっ、これからは教えて頂いたようにしますっ……ご、ご指導いただきありがとうございましたっ……!」
再度の謝罪と、ロミルダが戦闘に入る前にあれこれと彼に言ったことが指導であったことを認め、マルトリッツは顔を上げないままロミルダからの返答があるまでそのままだった。
よっぽど、自身がただのオオカミ一匹でヘロヘロになったことや、その後見下していたロミルダが大立ち回りで魔獣を撃破したことが彼に影響を与えたらしい。
その姿勢は本気の謝罪と反省をしている……ように見えるけれども結局はまた土壇場になってみるまでわからないだろう。
「謝罪は受け取ったわ。……でも口では簡単になんとでも言えるでしょう? マルトリッツ」
「は、はいっ」
「だから、反省しているなら行動で示すべきよ。真剣に謝ったら今までの行動が全部なしになるなんて都合の良い話はないのだから」
「っ……はいっ」
「さぁ、皆行きましょう。アーレンス子爵に魔獣の説明と、成果の確認をしてもらわなくては」
言うだけ言って、ロミルダは身を翻し、さっさと避難部屋の方へと向かう。
マルトリッツがどんな顔をして顔を上げたのかはわからないが、ともかくロミルダは自身の立場をまっとうし、示すべきものは示すことができただろう。
彼がこれから行動を変えようと変えまいと、後は言うべきことも示すべきこともない。ただ状況次第で残すか切り捨てるか判断する。それだけだ。




