20 戦闘
彼は混乱している様子だったが、こんなことは彼以外の全員の騎士がわかりきっていたことだった。
オオカミというのは狩りのプロであり、知能も高く人間だって翻弄されることがあるほどの強敵だ。
そして何より、群れを形成して効率的に狩りをする習性がある。
魔獣になった途端にその習性が変わるわけではない。
強さを手に入れたならば当然群れの中でトップになり、群れを操って効率的に狩りをするのである。
そんな相手に対して、魔獣は一匹だからといって森に入れば、あっという間に駆られる側だ。
騎士が数人いたとしても、彼らのホームグランドで弱い個体から分断されて確実に撃破されてしまう。
だからこそ、囲まれないよう背後を取られない形で戦うことが好ましい。
この狭く頑丈な廊下は外からの干渉は一切受けない。
最適の解と言えるだろう。
「く、っ、おらぁぁ!!」
やっとオオカミ一匹をマルトリッツは倒す。
「っく、はぁ、はぁっ、っ」
彼はとっさのことで多くの騎士が当たり前に扱える身体強化の魔法具も、通常の魔法も扱えずに、剣に頼った攻撃ばかりでろくに火力でていなかった。
これで腕に自信があるとは自信過剰もいいところだ。
「さぁ、まだ次が来るけれど? 魔獣は一匹でも、オオカミは群れを成して狩りをする習性があるのだから、戦うときに普通のオオカミだって攻撃してくるのなんてあたりまでしょう?」
「っ、くっ……っ」
「外に出てあなたが一番最初に死ぬ理由、理解できた?」
彼は、剣を地面について杖のようにして息を必死に整えている。
過度な不安と緊張が彼をここまで疲弊させているのだろう。
しかし、ロミルダは、彼を思いやってやる義理はない。
「教えてもらわないとわからない。腕だってたいしたものじゃない。それならまずは、経験のある人間を勝手に見定めて侮らないで、学ぶ姿勢を持つべきよ」
「っ、ふっ、はぁ……っ~、…………」
様子見の一匹が倒れると、階段の上から本気を出したオオカミの群れがやってくる。
一番後ろに見えるひときわ大きな個体が魔獣化したオオカミだろう。
彼らは、耳を寝かし牙をむき出しにしながらじりじりと探るように細い廊下を進んでくる。
それからオオカミの魔獣が、「ヴォンッ!」と声を上げると、じりじりとこちらに距離を詰めていたオオカミたちが一斉に飛び出す。
同時にロミルダも姿勢を低くして、彼らの群れの中に突っ込んでいった。
風の魔法で移動を素早くし、身体強化の魔法具なども同時に使用している。
小回りの利く片手剣で、一匹目のオオカミの顔面を切りつけながら、ロミルダの横を通り過ぎていこうとするオオカミの横っ腹に片手で、風の魔法弾を撃ち込む。
「ギャインッ!」
風の魔法弾によって壁に打ち付けられたオオカミを串刺しにして、さらに牙をむき出しにし襲いかかってくる獣に、魔法弾をぶつけてる。
打ち落とされて崩れ落ちるオオカミを身体強化の魔法具を強く使って後ろのオオカミたち向かって蹴りつける。
彼らはガウガウ言いながら混乱し、あっという間にロミルダに制圧されていく。
群れを成すとは言えオオカミの数はさほど多くない。
状況を静観していた魔獣化したオオカミは、ロミルダが最後の一匹を切りつけたとき、風の魔法弾を「ガウッ」と吠えながら放つ。
「わっ」
間一髪のところで避けると、まっすぐ背後に飛んで行き鉄の扉に当たったらしくゴオン!とまた鐘のような音が響く。
扉に当たったということはさすがに騎士たちは全員そつなく避けたかと少しほっとした。
それから、オオカミの魔獣の元へと向かう。
構えるオオカミの魔獣にまっすぐ剣を構えて突っ込みながら、ベルトポーチから目くらましの魔法具を取り出して、ぽんと軽く投げて目をつむる。
「ッガウッ!!」
卑怯だと罵っているような鳴き声が聞こえるがそんなことはない。
これはスポーツではないのだからどんな不意打ちを使ったとしても命を奪った方の勝ちなのだ。
そう思って少し笑い。目をつむったまま刀身に素早く指を滑らせ魔力を込めた。
目くらましの魔法具の光が収まり、魔力をまとった剣をひゅっと軽くふる。
ゴウッと強い風が吹き抜ける。
目を開けば鉄の扉と同じように、変な方向にひしゃげて吹っ飛んだオオカミの魔獣の姿がそこにあったのだった。




