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幼馴染み優先で、私を雑に扱う婚約者は捨てることにしました。  作者: ぽんぽこ狸


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19/57

19 挑発



「……それで、マルトリッツあなたの主張は、数的有利を生かすために外に出て囲んで倒すべき、だったっけ?」

「そ、そうですけど?」


 マルトリッツはアレクシスに怒られても、まだロミルダのことを上官と認めるつもりがない様子で、当たり前だとばかりにうなずいた。


「それをやって、一番最初に死ぬのはあなたよ?」

「は?」

「それがなぜで、なにがどうして、どんなことを加味して、戦術を決めて動くのか。そんなことをね、いちいち新人に説明しながら討伐をする義務はそもそもないの」


 言いながら、ロミルダは、アレクシスからもらった片手剣をすらりと引き抜く。


「誰かに、教えてもらって丸暗記すればいいものじゃなくて、場数を踏んで、その場その場で適応して無限にある中から答えを出していかなければならないから」


 言いながら、刀身にゆっくりと指を滑らせて、魔力を込める。


「だから、その時はわからなくとも経験のある騎士の言うことは、学ぶべきこととして捉えるべきよ」

「っいや、それなにを」

「なにって、あなたがいかに経験不足で物を言っているのかわからせる為に、見せてあげるのよ」


 言い終わって、ロミルダは軽く振りかぶって、鉄の扉の方へと向かって虚空を切りつけた。


 ドッと廊下の空気が引っ張られ追い風が吹いて髪が揺れる。


 ゴォンと大きな鐘の音のような音が鳴り、鉄の扉が廊下の先へと吹っ飛んで階段に激突し、ひしゃげている。


 こうすることで何が起こるかと言うと、一つは、ロミルダたちをオオカミの魔獣から守る物が一つもなくなったので彼らが入ってきやすくなった。


 そしてもう一つ。

 

 魔獣というのは、魔力を感知して求める習性がある。魔力がほぼない平民には目もくれず貴族の館へと向かうのはそういう理由があるからだ。


 そしてロミルダは魔力が多い方だ。今の風の斬撃にも相当量の魔力を込めた。


 大きな魔力を持つ獲物がここにいるぞと。彼らに示したのである。


「はっ、はぁ!?」

「ほら、くるわよ。マルトリッツ」

「っ、う、うそだっ、……あんな、重たい鉄の扉をっ、っ」


 マルトリッツは吹き飛んでいった扉とロミルダを交互に見やって、あんぐりと口を開けている。


 そんなことに驚いている場合ではない。あのぐらい騎士なら冷静に魔力を込めれば誰だってできるだろう。


 数秒後、階段の上から姿勢を低くして、ゆっくりと中を窺うように降りてくるオオカミの姿が見えた。


「っあ! き、きた! せ、先輩方っ」


 耳を寝かせて牙をむき出しにしているオオカミにマルトリッツは、振り返って、アレクシスやブルクハルトを頼ろうと声をかけた。


 その動きにロミルダは即座に反応して、ブーツで思い切り彼の足を踏んだ。


「っいった!!」

「敵を前にして、背を向けようとしてるんじゃないわよっ! 首に噛みつかれて死にたいの? それよりよく見なさい。あなたがやるのよ、前に出て」

「は、はぁ!? お、俺が!? 一人でっ」

 

 へっぴり腰になりながらもロミルダの注意に従ってマルトリッツは前を向いて剣を抜いた。


 彼は今まで見てきた死体や被害の状況と現場の空気に完全に呑まれて、あれをやった犯人が襲ってくるのだとガクガクと震えてしまっている。


 まったく状況が見えていないらしい。


「だから、よく見ろっていってるのよ! 目の前にいるのは、魔獣でもなんでもないただのオオカミだわ!」

「魔獣じゃ、な、ないん、ないですか!」


 ゆっくりと距離を詰めてオオカミはマルトリッツを睨みつけている。


 その瞳は通常の茶色で魔法を使う気配も、魔力が強い魔獣特有の威圧感もない。


 今、マルトリッツの前にいるのは、どこにでもいる灰色オオカミだ。


「っほ、本当だっ。な、なんでっ、うわぁ!!」


 オオカミは突然体のバネを使って走り出し、マルトリッツに噛みつこうと飛びつく、その攻撃をマルトリッツは剣で防いで、振り払う。

 

 振り払われたオオカミは華麗に着地し、また素早く動いてマルトリッツに飛びかかった。


「っ、ぐっ、な、なんなんだっ!!」

「腕に自信があるのでしょう! ただのオオカミ一匹ぐらいさっさと倒して」

「っ、う、クックソッ!!」

 

 ロミルダは後ろから、マルトリッツが全力を出せるように声をかけた。




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