18 戦術
「十中八九、オオカミの魔獣ね」
ロミルダが敵を断定すると騎士たちはおのおの頷き、気がついたことを口にする。
「使う魔法は風の魔法でしょうか」
「ええ、逆にそれ以外の魔法の痕跡は見られなかった」
「なら、土の魔法には自分、自身があります!」
たしかに、風の魔法と土の魔法は相反する魔法で、相殺し勢いが衰え対処が簡単になるという一面がある。
「ありがとう。でも今回は、アーレンス子爵子息からの情報もあるし、派手に魔法の打ち合いはしない方向にしようと思う」
「なるほど、お嬢様はどのような戦法をお考えで?」
問いかけられてロミルダは避難部屋の鉄の扉を指さした。
「ちょうどいい環境があるでしょう? その場を借りようと思って」
「! そういうことですか」
「たしかに、効果的だと思います!」
騎士たちはロミルダの選んだ戦法をすぐに理解し、表情を明るくする。
普段はオオカミの魔獣を討伐するときは立地を考えたり罠を仕掛けてる必要があったりと、いろいろと厄介な相手なのだが、これほど対峙するのに適した場所もそうない。
「じゃあ、細い地下廊下で待ち伏せて各個撃破、ということで」
そうして騎士たちと戦法について打ち合わせを終え、最後にまとめると、「えっ」とマルトリッツが大きな声を出した。
必然的に彼に視線が集まる。
「え、いや、おかしいですって、守るべき貴族もこんなに疲弊してるし! 魔獣なんてどうせたったの一匹! いくら肉食獣だからって、数的有利を潰して戦うっておかしいですって!?」
マルトリッツは、声を大にして続ける。
「愚策にもほどがありますって! お嬢様が安全な場所にいたいなら、ここにいたらいいじゃないですか! 絶対探し出して囲んで殺した方が有利ですよ! 先輩方もそんなのわかってるでしょ!」
「……」
「いいんですかこんなの、魔獣討伐で有名なブロムベルク辺境伯家が跡取りのお嬢様甘やかして困難で、いいんですかっ!?」
さらにマルトリッツはロミルダに文句を言うだけにとどまらずに、ロミルダの言葉に同意した騎士たちにすら食ってかかる。
まだ騎士団に入団して一ヶ月も経っていない新人でありながら、彼には自分が現場を知っていて正しい判断ができる騎士だという自負があるらしい。
驚いて言葉を返さない騎士たちに呆れて、マルトリッツは「なんとかいってやってくださいよっ、アレクシス先輩!」と自分が一番慕う、強い騎士に話を振った。
しかしアレクシスは、乱暴にマルトリッツの胸ぐらを掴んだ。
「っぐ!?」
「いいから、お嬢の話を聞け。お前がどんな経験してきて文句言ってるのか知らないが、お嬢の邪魔するなら容赦しねぇぞ」
苦しげにしているマルトリッツのことなど気にかけず、アレクシスは青筋を立てて怒る。彼の紫の瞳は静かな怒りに揺れている。
「……ありがとう。アレクシス、ごめんね。ちょっと自由にさせすぎてたわ」
「いえ、別に。お嬢は全然悪くないんで」
素直にお礼を言うとアレクシスはすぐに切り替え、マルトリッツをぱっと手放し、一歩引いた。
「で、あなた私の隣にいてくれる?」
「へ?」
「だから、来なさいよ。それだけ目上に対して文句を言うならよっぽど腕に自信があるんでしょう?」
「……っあ、当たり前じゃないですか」
「なら、行くわよ」
短く言ってロミルダは身を翻した。
向かう先はもちろん、避難部屋の外の廊下だ。
騎士たちも何もいわずについてくる。誰もロミルダには逆らわない。
廊下に出るとマルトリッツも渋々といった形でついてくる。
薄暗い廊下には、肌寒い空気が漂っていて、外界からの襲撃を隔てるのは入り口付近にある鉄の扉たった一枚。
通路はちょうど二人が並べる程度の広さで、剣を振り回すには少々手狭だ。
しかし狭いということは、逆を言えば絶対に背後を取られる心配がないと言うことでもある。




