12 謝罪
参加するのは前回と同じ公爵家のパーティーで、目一杯着飾ったロミルダを見て父が「ふむ、悪くないな」と褒め、それから父にエスコートされながら入場した。
主催者への挨拶を終えて、軽やかな音楽の流れるホールの中を眺めてユリーナたちのいるソファーセットを見つける。
ロミルダは誰に呼ばれていないけれどまっすぐにそちらへ向かった。
彼女たちは、楽しげなパーティーの雰囲気とは裏腹に、その場にいる全員が浮かない表情をしていた。
しかしそんなことは気にせずに、ロミルダはよく通る声で「ごきげんよう」と軽やかに言った。
浮かない顔でこそこそと言葉を交わしていた彼女たちだったが、ハッとしてロミルダを見やる。
すると、先日はロミルダを最低だと罵っていた令嬢の一人が、即座に立ち上がって、ロミルダの下へとやってくる。
「……ブロムベルク辺境伯令嬢……ごきげんよう。わたくしイステル子爵家のカリーナですわ」
カリーナと名乗った令嬢は小さく肩をすくめて、視線を下げ焦ったような声で言う。
「知ってるわ。……お顔も家名もきちんと把握して訪問したのだから」
ロミルダが、カリーナの名乗りに対して知らないわけがない理由を話すと、カリーナはぷるぷると震えだし、ぱっとロミルダを見て言った。
「お、お話がっ、わたくし味方がたくさんいるからと気が大きくなってブロムベルク辺境伯騎士団にたいして、言ってはいけない無礼な発言をしてしまいました」
「……」
「辺境伯令嬢の行いも正しいことか確認せずに、勝手にブロムベルク辺境伯家を悪者だと決めつけ、いつも助けていただいているのに、彼らにやっていただく仕事を邪魔するようなことまで口走りましたわ」
ロミルダは彼女の言葉に、深くあいずちを売って続きを促した。
「……大変申し訳ありませんでした。イステル子爵家にそのような意思はなく、私の勝手な発言に寄ってご迷惑をかけたことを謝罪させてくださいませ」
カリーナは震える声で言って、その言葉にロミルダはしばらく黙った。
それから、少し考えて「許すわ」と短く言った。
「これからは、慎重に立場を考えて行動してね」
「は、はいっ、っ、感謝します……」
助言を付け加えるとカリーナは救われたような顔をして、ぱっと後ろを振り返る。
すると数人がまた立ち上がってロミルダの方へとやってきた。
しかし、中央にいるユリーナやラウレンツはそれを不服そうに見つめているだけだ。
次の子息の謝罪を受けつつ、どこまで減るかとロミルダは、数を数えながら、謝罪を受け続ける時間が続いたのだった。
残ったのは、ユリーナとラウレンツの二人だけで、ロミルダは自身を睨んでくる二人のそばに寄った。
周りには、謝罪を終えた同世代の貴族令息や令嬢がどういった決着がつくのかと見守るように一定の距離を置いてロミルダたちのことを見やっている。
静かにそばに寄ったロミルダに、ユリーナはギロリと鋭い視線を向けて口を開く。
「……ただ、皆はあなたが最低だから最低だって言っただけなのに、大人に告げ口して回って、無理矢理謝らせて……そこまでしてあなたってわたくしを負かしたいのね?」
「私たち同士のことなのに、親を巻き込むなんて……心底、見損なったぞ」
「ええ、本当に。そんなことして周りに言うこと聞かせたって、なんの意味もないのに」
二人は謝る気はさらさらないらしく、それどころか大人に告げ口をすると言う反則をしたロミルダをさらに糾弾するつもりのようだった。
「誰もあなたのこと見直さないわよ? ただ親に言われたから謝るだけ。無理矢理外から周りを追い詰めたって、人望のあるわたくしには勝てないのよ」
ユリーナは大げさにため息をついて、それからロミルダのことをあざ笑うように笑みを浮かベる。
「あなたは、ラウレンツの婚約者だったときから、一つだってわたくしに勝ってるころなんかないのよ。わかったら、馬鹿みたいに話を大きくしてごめんなさいって謝ってくれる?」
そう問いかけて立ち上がり、ロミルダのそばまでやってきた。
「皆心の底では、あなたに腹を立ててるのよ?」
ユリーナはそう問い詰めれば、ロミルダが謝ると思っているらしかったが、彼女のことを見ながらロミルダはやっぱり彼女とは端から居場所が違うのだと思った。
「……あなたや、あなたの友人たちが自分たちのいる小さなコミュニティーを過大評価するのは仕方ないのないことだと思うけれど、それは誰に対しても、なにをしても通用する物ではないのよ」
ユリーナの言ったロミルダをなじる言葉のすべてはまったく的を得ていない。
見当違いで、的外れだ。
もちろん、ロミルダには謝るなどと言う選択肢などないのである。
ユリーナはロミルダの言葉に怪訝な顔をして少し首をかしげた。




