第二十三話 実力差
ブラック☆ライターがアンチショドーと激闘を繰り広げている間、ホワイト☆ドリームもセルフィッシュ級アウトサイダーと戦っていた。
敵の名はアンチエーアイ。昨今話題のイラスト生成AIによって自信を失くしたイラストレーターの心の闇を感情爆発させた上にロストが魔力を注ぎ込んで進化させたものだった。
「今マデノ努力ハ何ダッタンダ!! AI滅ブベシ!!」
キャンパスボードに六本の手足がついたような外見のアウトサイダーで生成AIに対する憎悪を隠そうともせずに暴れている。絵具の筆で自らの身体に絵を描き、描いた絵を現実化させる能力を有しているらしい。先輩であるブラック☆ライターが文字を実態化させる魔法を使っている為戦い方はかなり似ている。
媒介に絵を使うか文字を使うかの違いのみで同じ概念に力を持たせる能力だ。
幸い師弟の修業として何度も模擬戦を実行しているため戦い方は熟知している。
「その魔法は隙が生じやすいのが弱点です! ――〈バルーンマジック〉!!」
ホワイト☆ドリームが振るった魔法の杖から光の粒子が射出される。それに当たった小石が無数の風船となってアンチエーアイを取り囲む。色とりどりの風船が入り乱れて視界いっぱいを埋め尽くしていく。
「所詮は目晦まし! 全て叩き潰して!」
「AIフザケンナァァア!!」
ロストの命令を受けたアンチエーアイは無数の腕をぐるぐると回して風船を割っていく。
想定通りの対応をしてきたことにホワイト☆ドリームは笑みを隠せない。
脆い風船は勿論破裂してしまうが、中に入っていたのは空気ではなかったのだ。破裂の衝撃によってアンチエーアイに水しぶきがかかる。当然、描きかけだったキャンパスの絵は水で滲んで何なのか分からなくなってしまう。当然魔法も不発となる。
「水で絵をかき消すだと!?」
「水風船も立派な風船ですよ!」
「ウワァア俺ノ作品ガァ!!」
自身の力作をめちゃめちゃにされたアンチエーアイは激しく狼狽した。ロストがなんとかとりなそうとするもが我が強い上に心が乱れきっていて次の作品を仕上げられない。
これ幸いとばかりにホワイト☆ドリームは次の一手を仕掛けた。
目を付けたのは補強工事で建物を覆っている鉄パイプである。ホワイト☆ドリームは〈バルーンマジック〉でそれらの鉄パイプを風船へと変貌させ、幼き日に見たバルーンアートを模倣して捩じりウィンナー状に変形させていく。それをカウボーイの投げ縄の要領でアンチエーアイの身体に巻き付けた。
「〈バルーンマジック〉解除!」
風船化させた挙句バルーンアートで自在に姿を変えていたが元となったのは鉄パイプ。魔法が解除されたことでアンチエーアイは手足を胴体ごと束縛される形となる。
「――しまった!」
「終わりです! 〈ネガティブ・バスター〉!!」
魔法の杖の先端より真っ白い閃光を収束させて解き放つ。
ロストは追撃をある程度読んでいたが、アウトサイダーをセルフィッシュ級に進化させるために魔力を使い過ぎた反動で相殺の魔法が間に合わない。そこで彼女はアウトサイダーの浄化阻害を諦めて回避に専念する他なかった。
「俺ノ芸術……」
「心が病んだ状態ではいい作品はかけませんよ。今一度自分と向き合って自信をとりもどしてください」
魔法少女の構成する優しい光を浴びたアンチエーアイは人としての姿と心を取り戻して気絶する。ちょうど近くのバス停留所の椅子に腰かける形となった。時代の流れは止められないがネガタイドを心から排除したことで彼も前向きにはなってくれるだろう。
そんな期待を込めて被害者を一瞥したホワイト☆ドリームは安堵し、改めて残った敵であるロストを見据える。
「あとは貴女だけですよ、ロストさん。――いえ、魔法少女・チェリー☆ブロッサム」
鎌をかけるようにそう尋ねると、ロストは少し驚いたように口を開ける。半仮面がなければ大層目を丸くしていた素顔が見えた事だろう。彼女は否定しなかった。二人の間に一陣の風が吹いたのち自嘲気味に口を開く。
「……その名で呼ばれるのはいつ以来かな。まだボクを覚えている子がいたとはね」
「やはりチェリーさんでしたか。貴女は正義感が強い魔法少女だったはずです! どうして悪の組織になんて属したんですか!?」
「そこにしか居場所がなかったからだよ。キミに分かるかい? 魔法の杖を喪失し元の姿と人生を失った苦しみが」
やはり懸念した通り居場所を失ったことが一番の要因だったようだ。突然元の姿を奪われ帰る場所を失くした彼を受け入れる人間はいなかった。魔法少女ではなくなり認識阻害も不安定になっている彼女をチェリー☆ブロッサムだと受け止めてくれる人間はいなかったのだ。魔法も麓に使えない家出少女として汚い大人達に狙われる。そんな毎日が彼女の心を汚していく。
「ボクはこの町の魔法少女として戦ってきたのに表の世界では全てが都市伝説。行政が動いてくれるわけもない。魔法少女としての力を失ったボクがこの穢れた世界で生き残るためにはネガタイドの力に頼るしかなかった」
「だからアウトサイダーとなり《アンビバレンス》に属したと!? 最初は不可抗力でも一般人を感情爆発させる貴女の行為は悪そのものです! 魔法少女として許せません!」
「青いな。昔のボクもそうだった。でもアウトサイダーになって分かった。――これは救済なんだよ」
ホワイト☆ドリームは相手の言葉の意味が理解できなかった。感情爆発して化け物へと変貌して人や建物を傷つける。そんなことをして何が救済になるのか。
当然のように訝しむ魔法少女を説得するようにロストは言葉を続ける。
「ネガタイドに寄生されない人間、寄生されても感情爆発しない人間というのは日常生活や人間関係が充実している人間だよ。一位の人間がいれば二位以下の人間も当然いる。世間は上位の人間に賛美を送るが下位の人間は認識さえしてもらえない」
「だからって燻る彼らの感情を利用するのは悪いことです!」
「ではキミが先ほど倒したアウトサイダーを例に上げよう。彼は生成AIの登場で絵描きとしての自信と仕事の枠を失った。だから感情爆発した。彼が実際に暴れなければ彼の心の淀みは誰からも認識されなかっただろう。キミのお友達と同じようにね」
ホワイト☆ドリームは咄嗟に反論できなかった。友人の東山莉奈もアウトサイダーに変えられたことがあった。その際はフォックスが無理やりネガタイドを植え付けたからというのが大きいものの、友人としての独占欲など普段の優しい彼女からは知り得ない心の闇が解放された。アウトサイダーにならなければ彼女の内なる感情と向き合うこともなかっただろう。
「言葉にしなければ分からないことは多い。けれどこの国には本音と建て前が存在する。適度な感情の爆発は健全な生き物に必要なんだよ」
「そんなの詭弁です。感情を抱えているなら本人が直接話すなり周りの人が気付くなりもっと他にいい方法があります。アウトサイダーになるのが最適解とは思えません!」
「本人さえ認識していない間に蓄積する不満さえあるんだ。ボクだってアウトサイダーになる前は魔法少女として誇に生きていた。しかしネガタイドのおかげで自身の本心と向き合うことができた」
魔法少女チェリー☆ブロッサムとして生きていた時には隠していた本音。都市伝説としてではなくもっと他者に称賛されたいという名誉欲。一人で町を守り続けるというワンオペレーションを強いる精霊への不満。そして自分が命懸けで戦っているというのにその苦労を知らずに安穏と暮らしているすべての住民に対する怒り。
隠された感情が増幅したことで認識するに至ったと彼女は主張する。
「ネガタイドは本人さえ隠している心の闇を抽出してくれる。そして新たな力を与えてくれるんだ。こんな風にね」
精神寄生体ネガタイドを無数に散布し始めるロスト。結界内には逃げ遅れて捕縛された一般人が無数に存在している。戦いに巻き込まれた彼らは不安の中にあり、そういった困惑もネガタイドの好物た。当然彼らは皆、感情爆発してしまう。
周囲に無数のアウトサイダーが出現した。
「こんなに沢山の人を恣意的に感情爆発させるなんて魔力が枯渇しますよ!」
「心配ご無用。彼らはボクの糧だ。〈魅惑吸収〉!」
ロストは自身が作ったアウトサイダーから魔力を全て奪い取る。力を失くしたアウトサイダーは無理やり人の姿へと強制的に戻される。莫大な魔力を手にするロストは瞬間移動し、いつの間にかホワイト☆ドリームの目の前に現れた。




