第十二話 作戦会議
魔法少女達の前から姿を消したロストは《アンビバレンス》の拠点へ帰還していた。
そこで開かれる『幹部会』では世界各地で活動している選りすぐりの幹部たちが招集され、魔法少女の対策について語り合うのだ。
「よくぞ、帰ってきた。同志ロスト、フォックス。報告を聴こうか」
「思ったより手強そうだ」
「詳しく話してくれ」
「ホワイト☆ドリームはオイラがあと一歩まで追い詰めたが、仲間の登場でいきなりパワーアップしやがった……!」
モニターにはフォックスがギリギリまで追い詰めた映像が流れ、ブラック☆ライターの助太刀で力を増していくホワイト☆ドリームの姿がハッキリと映し出されていた。
魔法少女の中でもまだ新人で弱い存在という認識がかき消されたのだ。幹部たちは心中穏やかではなかった。
「ロスト! ブラック☆ライターの方はどうなのだ!?」
「彼女は戦闘センスもメンタル面もホワイト☆ドリームより上。しかも底を見せていない。まともに戦えば無事では済まなかった」
「フン、情けないことだ。敵に臆して逃げだしてきたのか!」
何も分かっていない同僚の的外れな批判にロストは失笑を禁じ得ない。
馬鹿にされたと思った相手は余計に激昂してしまった。
「キサマ、何が可笑しい!」
「笑わずにいられるか。ボクが退いた訳を推察できないとは――」
同志同士の口論は無意味と決したボスが二人の会話に割って入る。
「あのまま戦っていて万が一魔法少女が生き延びていた場合、戦闘経験を積んだ彼女達がより力を増してしまうことをロストは懸念したのだ」
ボスの言葉に一同沈黙する。もし相手を仕留め損ねた場合確実に強くなって帰って来る。どんどん力を蓄えて自分達の活動を邪魔する存在など厄介なことこの上ない。
「それでロスト、お前はこの難敵をどう攻略しようと考えている?」
「まず戦力の逐次投入は愚策。二人まとめて叩くのも失策。機を待ち十分な算段を整えた上、両者を分断し全戦力で各個撃破するのが一番と思う」
ロストの発言に会場内は一気にざわつきだした。――賛否両論というよりは否定派が多数である。
「一人の女の子を大勢でリンチするのはちょっと……」
「さすがになぁ」「体裁が悪いですよね」
比較的道徳心のあるメンバーは自分達が悪の組織幹部であることを忘れてあくどい手段を好まないようだった。散々犯罪行為に肩まで浸かっておいて大事な一線は守っているらしい。
また、別方面から懸念の声もあった。髑髏マスクの男が机を叩いて大声で捲し立てる。
「大勢で協力して魔法少女をぶっ殺せたとして! 討伐功績は誰のモンになるんだ!?」
「そりゃおめぇ、致命傷与えた奴の総取りだろうがよ!」
「あン? だったらそれまで頑張って戦ってた奴らが損じゃねーか! ベストアシスト賞とかリンチ参加賞はねーのかよ!?」
道徳心の欠片もない面々は見返りや功績評価の方を気にしているようだ。
やはり《アンビバレンス》幹部といえど魔法少女とやり合うからには無傷では済まない。実際に協力して戦うメリットを重視する者達が大半だった。
「もし魔法少女に腕をちぎられたりしたら労災認定されるんですか!? 組織が治療費を出してくれるんですか!?」
「バーカ! 自己負担に決まってんだろ! 悪の組織に皆保険なんてねーんだよ!」
「出陣前に適当なトコ加入しとけや!」
どこからか野次が飛び、幹部会は収拾がつかなってしまう。
皆ネガタイドの力を悪用しているために自我や自己主張が強いのだ。空気を呼んで黙るということを知らない。こういうとき、発言権のある者は実績のある者、単純に力の強い者ということになる。この中だと勿論のボスだ。
「静まれ!」
鶴の一声とはまさに今一時のことをいうのだろう。
我の強い者達も言葉を引っ込めて全員が頭領の方へと視線を向ける。
「ロストは引き続き魔法少女根絶計画をまとめてくれ」
「――はい」
「それから、今後は魔法少女に戦闘経験を積ませぬよう独断専行は厳禁だ。必ず出動申請書を提出して許可を得てから行動するように! こちらで吟味する」
「「「はっ!」」」
幹部会が終了したことで曲者の幹部たちは各々の縄張りへと帰還していく。
ロストはその中でも力があり統制のとれた海外支部の幹部たちに目を付けた。
「ねぇ、貴方達。魔法少女根絶計画に協力してくれない?」
「Oh.残念ながらそれはデキマセン」
「なんで!?」
「魔法少女の目が日本に向いている今こそ海外で仕事がしやすいデスから」
角の生えた金髪白人男性は興味なさげにそう言った。
彼らは魔法少女が自国にいない今こそ日本の幹部陣の目を盗んで活動区域を広げられるビジネスチャンスだとしか認識していないのだ。
「今叩かないと魔法少女勢力が拡大する! 将来のリスクを排除する意味でも――」
「Fum. でしたらワタシの兵を貸しましょう。傭兵レンタル代はこのくらいデスネ」
彼は携帯機を使い速攻で見積書を印刷して手渡してくる。
そこには信じられない程ゼロが並んだ数値が記載されていた。さすがに支払いできるような現実的な額ではない。足元を見られているのは明らかである。
「遠慮するわ。チップ代も別途かかるのでしょう? 今円安だし手持ちがない」
「Oh.残念デース。気が変わったらお電話クダサ~イ」
そう言って彼はリムジンで帰ってしまった。
他の海外幹部たちも戦争特需の武器密売に忙しくて手が貸せないとか自国の不景気で手が回らないとか適当な言い訳を並べられて断られてしまった。
結局のところ、島国での魔法少女復活は対岸の火事としか認識していないのだ。《アンビバレンス》の日本本部が対魔法少女戦で弱れば自分達が後釜に収まるかもしれないとさえ考えている。野心を隠しきれていない。
「ご主人……」
「仕方ない。ボク達だけで何か計画を練ろう」
他の幹部達は頼りにならない。彼らの協力を得るには目を引く企画書をつくらなければならないだろう。
一人自室に籠るロストはあらゆる計画を吟味する。
最初に浮かんだのは魔法少女の正体をつきとめるというものだ。素性さえ分かれば身内を人質に取るなり社会への公表を材料に取引することもできる。
だが少し考えて頭を横に振る。魔法少女は変身したら見た目がかなり変わる者が多い。加えて認識阻害の魔法もかかっている。正体を看破することは不可能に近い。
――となると罠を仕掛けて誘き寄せるのが得策だ。
ただフォックスが似たようなことをして失敗した。あの時はたまたま魔法少女の友人を対象に選ぶことが出来たがそれでも頓挫した。今では容姿や制服さえ覚えていないため学校から魔法少女を炙り出すことも難しいだろう。
罠を張るにはもっと効果的なものを準備しなければならない。
「そもそもオイラ、魔法少女について〝厄介な敵〟程度の情報しか知らねーんだが」
「魔法少女とは精霊と適合した人間。精神世界の力を物質世界に引き出すことに成功した存在。言うなれば進化した人間だよ」
「じゃあ精霊をぶっ殺しちまったらどうだ? あの白兎程度俺が食い殺してやるぜ?」
「やったところで無意味さ。精霊は所詮魔法に目覚める切っ掛けにすぎない。後天的に失われても魔法少女の力は喪失しない」
言うなれば魔法少女の心のカギを開ける程度の存在であるため、後に死亡しても既に鍵は開いている状態の魔法少女に影響はないのだ。
「へー博識だなご主人。流石に古巣か」
「ふふん、まぁね。魔法少女の力の源が魔法の杖ってことも分かってるよ」
「じゃあソイツを奪おう。名付けてひったくり大作戦~!」
「ところがそうもいかないんだよ」
フォックスと似たような提案をした者は過去にもいた。その結果が今に続いている。つまるところ失敗し続けてきたのだ。
「魔法の杖は魔法少女と一心同体。一時的に奪うことが出来ても魔法の杖の方から主の元へ戻ろうとする。中には遠隔操作で至近距離から固有魔法を喰らった簒奪者もいた」
「それは同情するな……」
「魔法の杖を壊そうにもアレは凄く頑丈にできている。壊せれば魔法を碌に使えなくなるけれど砕けた実例が非常に少ない」
机の上に沢山の資料を展開していく。ネガタイドと魔法少女との戦史だ。
殉職した魔法少女の中には精神的負荷が限度を超えた結果、心の力で構成されていた魔法の杖が折れて魔法を使えなくなった者がいた。パニックに陥ってそのまま戦死という流れである。
最初は超合金のような硬さであり、鋭い切れ味が自慢のアウトサイダーの刃が刃毀れするくらいには硬かった。だが主である魔法少女が精神的に追い詰められたとき、その心が折れた時、魔法の杖は砂糖菓子のように脆く砕け散るのだ。戦史資料では私生活で失恋や挫折を受けた魔法少女の心の力が弱まり簡単に折れた記録が記載されていた。
他には仲間の負傷や殉職で心が壊れたパターンもいくつか散見される。
「――要するに如何に魔法少女を精神的に追い詰めるかが魔法の杖を圧し折る鍵だ」
「おお! なんか悪代官っぽいぞ、ご主人!」
「実際アンダーグラウンドの幹部クラスだからね。さしあたってフォックス、魔法少女の心を折る名案はある?」
フォックスは小動物らしい細やかな所作で頭を悩ませる。まるでゆるキャラが動いているようだ。母性本能を擽られたロストはその毛並みを無意識になでてしまっていた。そんなことは気にせずしばらく尻尾を振っていた彼は何か閃いたらしくピンと立てる。
「魔法少女の好みの物をリサーチして欲しい物全部買い占める作戦ってのはどうだ!?」
「うーん。地味に効果的だけど使うお金には見合ってないかも……」
昨今転売ヤーによる買い占めが問題となっている。合法的かつ多少効果的ではあるかもしれないが、魔法の杖を折る程の心理的損傷を与えられるかといえば微妙だった。せいぜい少し士気を下げる程度だろう。
「もっと精神的苦痛が大きいものでないと……」
「服を溶かすアウトサイダーをけし掛けるってのはどうだ? 魔法少女といえど所詮は小娘。裸になったら羞恥心で精神的ダメージデカいはず」
フォックスは下卑た笑みを携えて涎を垂らしながら提案した。彼の脳内ではあられもない姿の魔法少女達が赤面しながら睨む姿が再生されている。
そんな使い魔の発言にロストはかなり引いていた。
「うわぁ、フォックス。それは常識的に駄目だよ。越えちゃいけない一線考えて!」
「えぇ、オイラが怒られるのか?」
同じような理由でスカートめくりや利尿剤を盛るといった際どい作戦は却下になった。
たとえ敵でも同性同士。暗黙の了解があるのだろう。フォックスもトイレや就寝中に襲われたらたまったものではないので似たようなものだろうと納得した。




